夕暮れの手伝い
夕暮れの台所。
カレーの匂いが漂う中、母は慌ただしく鍋をかき混ぜていた。洗濯物はまだ畳まれていないし、弟の宿題も見てやらなければならない。
それに気づいた優斗は、静かに洗濯物の山を抱えて居間へ運んだ。ひとつひとつ丁寧に畳んでいくと、手のひらに家族の温もりが伝わるような気がした。父のシャツには仕事の汗が、母のエプロンには小さなシミが、弟の靴下には泥の跡がついていた。――その全部が、家族の日々の証だった。
畳み終えたとき、弟が鉛筆を握りしめて困った顔をしていた。優斗は隣に腰を下ろし、「ここはこう考えるといいよ」とやさしく声をかけた。解けた瞬間の弟の笑顔は、夕暮れの光よりもまぶしかった。
母が鍋を火から下ろし、振り返ったとき、部屋はすでに整っていて、弟の笑い声が響いていた。驚いた母の目に、ほんの少し涙のきらめきが宿った。
「ありがとう、優斗」
その一言に、家族の温かなぬくもりが重なり合っていった。
――家族を手伝うことは、ほんの小さな行動かもしれない。けれど、その小さな優しさが家の空気を柔らかくし、心を結び直す力になるのだ。




