第一章 月満と宇佐美と、うさちゃん号 その3
宇佐美は、深刻な表情になり、話し始めた。
「…今から約百年後の未来では、地球上のありとあらゆる生物が半分ほどしか生息していないのです…」
「え?」
宇佐美の言葉は、月満にとって衝撃的だった。
「百年後の地球は、気候変動の激しさで、ありとあらゆる生物は半減、そして地球もほぼ半分が茶色くなってきているのです…」
「地球の半分が茶色?」
「はい、その気候変動の激しさは、地球温暖化、戦争、人間のエゴによって、全世界の人口は半分にまでなり、他の生物も自然環境も、この時代とは比べ物にならないほどひどい状態なのです」
「……」
月満は、何と言っていいか分からず、言葉が出なかった。
「茶色くなってしまった部分は、人間や動物が暮らせる環境ではありません。ですが、世界中のありとあらゆる機関が研究、開発をして、なんとか再び人間や動物が暮らせる環境を取り戻そうと必死なのです!」
「…そうだったんだ…。でも、じゃあなんでその追ってる博士って人、この時代に来たの?」
「あ、はい。実は、臼持 一太郎という科学者を追っておりまして、年は35歳くらいの男性で、この時代に現れる…と言って良いのでしょうか…とあるものを採取するために、わざわざやってきたのです」
月満は宇佐美に尋ねた。
「未来では、過去に行き来することなんてできるの?」
「そう簡単ではありません。現に私たちがこの時代に訪れたことによって、私たちの未来と、この時代に来る未来は変わってしまうはずです。いわゆる並行世界です。まあ、どうやってこの時代に来たのかというと、話は非常に長くなりますが、簡単に言うと、膨大なエネルギーが一定期間生み出される場所を利用して来ました」
「それが、あの古井戸ってわけか」
「はい、その通りです」
「それで、いったいこの時代に現れるものってなに?」
彼女は、慎重に言葉を選んで答えているようだった。
「…今から約40年後の未来、この地球上で不定期に、しかもどこでどう発生するのかも分からない、エネルギー光球が発見されました」
「エネルギー光球?エネルギー資源不足の日本にとっては良いことなんじゃないの?」
月満は単純にそう思った。
「いいえ、そう簡単ではないのです。これは狂真性光動力といい、別名、ラプソディックパワーと呼ばれるものです」
「えっと…それがなんでダメなの?」
宇佐美は、さらに慎重に言葉を選んだ。
「このエネルギーは、小さい光球ではあるものの、そのパワーは計り知れず、核とはまた別の意味で危険なエネルギーなのです」
突然の出来事と、未知のエネルギーの危険性。月満は理解が追いついていなかった。
「そして、人の精神を蝕み、心を狂わせ、破壊的衝動に駆られるのがこのエネルギーの最大の特徴です」
「…それって、なんか変なクスリ…みたいな感じなのか…」
月満は、何と言っていいか分からなかった。彼女は、さらに話を続けた。
「現にこのエネルギーが発見されたとき、各国は競うようにして研究、実用実験を重ねてきました。その結果、大小さまざまな争いが勃発し、ついには戦争にまで発展してしまい、人口はこの時代の半分にも満たなくなり、他の生物も半分ほど絶滅しました」
「それがさっき言ってた、地球の半分が…」
「はい、茶色です」
他の生物も自然環境も今とは比べ物にならないほどひどい状態であることを、宇佐美は月満に訴えていた。
「…マジかよ…」
宇佐美の嘘とは思えない、慎重な面持ちと態度に、月満は彼女の言葉を信じた。しかし、月満はふと思った。
「思ったんだけど、なんでそんなに危険なエネルギーなのに、そのなんとかって博士は、それをいとも簡単に手に入れようとするのっておかしくない?」
「臼持博士は、自分が開発した特殊ジェネレーター装置を使えば大丈夫だと慢心を起こしているのです。そして、そのエネルギーを使って自分のやりたいことに集中したいがために、欲に駆られていると言っても過言ではありません。はっきり言って、とても危険なのです!」
宇佐美は、必死に月満に向かって訴えていた。
「世界の…いや、地球の半分が茶色くなって、人口も他の生物も半分になってしまうくらいだから、そりゃあそうだよな…」
月満は、宇佐美の必死な訴えから危機感を感じてはいたが、それを実感することはまだできていなかった。
「ですから、まずはそれを止めなければなりません!お願いです!協力してください!」
月満が協力してくれることに、宇佐美はホッとし、少し表情が明るくなった。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
宇佐美は深く、月満に感謝した。
「…それで、その危険なパワーと博士って人は、どこにいるの?いったいどんな人なの?」
「はい、予測では……」