21.長刀を得る
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数日が経った朝。畑に出ていた柚部を、またこめが呼びに来た。
今度はだいぶのんびりとしていて、急かす様子もなしに言う。
「左衛さんが、得物を持っていらしてますよ」
こめ・よう夫妻の住まいである門前の小家に行くと、左衛が簀子縁に腰かけて、麦湯をすすっていた。
目を細めて柚部に挨拶し、恐ろしく長い布包みを差し出す。
「お待たせしました」
手に取れば、ずっしりと重い。
一挙に速くなった鼓動を胸のうちに感じながら、柚部はおずおずと布をひらく。そこには、真新しい木材でできた二振りの長刀があった。
二刀とも柄は白樫だ。ひとつには鈍く輝く黒鉄の刃が、もう一方にはなめらかに削られた木の切先が、それぞれ取り付けられている。
「…」
板敷に置かれた二振りを見つめたまま、柚部は声を出せずにいた。
「ほら、柚部さん。手に取ってごらんなさいな」
こめに横から言われて、そうっと持ち上げてみる…木刃、次いで黒鉄長刀。懐かしさがこみ上げてくる重さと手触りだった。
「どうでしょう?お話に伺っていたのと、同じ寸法で作ってみたのですが…。いやはや、やはり実際に作るとなると長いものですなぁ…!」
左衛はしみじみと、嬉しそうな調子で言う。
「柚部さんがお使いやすいように、後からでも直せますのでご遠慮なく言ってくださいよ。ただね、私は飾りが苦手なもので…。無骨な見かけに関しては、勘弁していただけますと嬉しいですね」
はっと驚いて、柚部は左衛を見た。狼狽が先に立つ。
「左衛さん、…勘弁も何も、私にはこんな見事な刀に差し上げるお代がありません」
小太りの中年は、卵のような顔をほころばせた。
「嫌ですね、柚部さんたら。待山じゃよそと違って、お代はいただきませんよ。ねえ、こめさん?」
「そうですよ。いつか左衛さんに困りごとの出来た時、お助けしてあげればそれでいいんです」
左衛とこめに左右からにこにこ諭されて、柚部は何だか幼子に戻ってしまったような、妙な気分がした。
「…大切にいたします」
深々と頭を下げる。
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久し振りに握る長刀の感触は、畑仕事に埋もれて円くなりかけていた柚部の心を、懐かしさで揺さぶった。
離れの裏で、刃のついた方を素振りしてみる。
いつか、左衛に自分の長刀のことを詳しく伝えたことがあったが、それがほぼ再現されている。その刀職としての腕の確かさがよく知れた。
左衛という男は、流刑に処される途中でここ待山へ来たと言うが、一体どんな罪を犯したのだろうか、と柚部は思う。こめかよう、いわてに聞いてみようか…。否、と頭を振る。
自分と熊河、弥衣が今や絆を断ったように、左衛の過去もすでに終わったことなのだろう。あえて聞くまでもない、その気があればいつか本人が話してくれる。
今度は木刀に持ち替えて、上段に振り下ろしてみた。今までにない音で、切先がしなやかに宙を切り裂いた。
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畑仕事の合間を見て、長刀の素振りをするのが柚部の日課になった。
左膝を気遣いつつゆっくりと、所作を確かめるように木刀を振り下ろす。
時々、ようやこめが背後で静かに見守っている気配を感じたが、柚部は振り返らずに無心で稽古を続けた。
ゆきだけが大っぴらに傍らで見物していて、刀身の動きを飽きずに目で追っている。
木刀を毎日の鍛錬に用い、黒鉄真剣は布にくるんだまま、板敷の隅に置いていた。
自分に親しんでくれる待山の人々に何らかの危機が迫ったら、迷わずにこれを使って自分は盾になろう、柚部はそう考える。口喧嘩すら聞こえてこない静かな待山に、戦火が及ぶとは想像しにくいが、備えはあるに越したことはない。
ふと、位聡の敵意を宿した目つきを思い出した。
そうだ。例えばあの男が、力づくでいわてに言い寄って来たら、叩き出すのに一役買えるだろう。…そんな風に思って、柚部は手巾で汗を拭う。




