新たな部隊と舞台 Ⅳ
北暦108年に初めてその姿が確認され、人類は多くの犠牲を払いながらも"それ"を排除した。その後も幾度となく現れるその宇宙怪獣は、小型であれ大型であっても1体たりとも同じ形状の物は存在しなかった。故に、こう名付けられた――
Extraterrestrial Non-Identical Monster《地球外 不同一性 怪獣》――通称 ENIM
それから71年が経った北暦179年、数多くのENIMと戦ってきた人類は、ついに生きたままのENIMを捕縛することに成功し、その生体データを使い人型兵器を開発した。
全長10mほどの何処か可憐な少女を連想させる人型兵器はDrive Dollと名付けられ、前線へ配備されると人類の戦力は飛躍的に向上し、ENIMの捕縛さえ以前よりは安易なものになった。
1体たりとも同じ形状をしていない筈のENIM。しかし、数万体のサンプルに1体。全くの同一個体を発見した。
幸か不幸か、その個体は人類が最初に遭遇した個体と同一個体だったのだ。
最も人間を殺害した一番最初のENIM。
人類が苦戦した理由はただ対応できなかっただけではない、そのENIMには他の個体にはない特殊な力があった。
今では光子口砲と呼ばれるENIM共通の低出力レーザービーム、その攻撃の規模が明らかに突出して、広範囲かつ高出力だったのだ。
同一個体、尚且つ通常のENIMにはない特別な力を持つ特殊個体、それらはNamedと呼称し個々に識別する名を与えた。
「ステルス!?特殊個体か!?」
リリアは瞬時に触手に絡まれた左側の光子銃砲 2門をパージし、対ENIMライフルで先程切り離した装備を打ち抜き、誘爆させた。
爆発で絡めていた触手の4、5本が吹き飛ぶも、痛覚がないENIMは何事もなかったかの様に爆煙から飛び出すと、再び姿を消し行方を眩ました。
あんなのが居るなんて……
「アルキオネ、応答してください――」
『……ヴィ……ス…………か?』
さっきからノイズが酷すぎる。まさか……これもあいつが?
「厄介ね……アーシア聞こえる?」
『…………』 『――REAR ALERT!!』
また後ろ!?
「――くっ!!」
今度は右の光子銃砲 を狙って?!
「そんなに欲しいなら……!」
光子銃砲の銃身に絡みつこうとする触手に、代わりに敢えて手元の対ENIMライフルを構え、その長い銃身を差し出す。
案の定、がっちりと巻き付いてきた無数の触手はライフルを伝ってDD本体へ到達しようとグニャグニャ蠢く。
そんな気味の悪い宇宙怪獣をリリアは冷たく煽る。
「お前が掴んできたんだから、離さないでよ?」
相手に掴まれたままの大口径の銃口をスカラベの様な顔に照準を合わせ、リロード済みのマガジンが空になるまで何度もトリガーを引く。
ギィィィィィヤァァァァ!!!!!!!!
ENIMは自分の行動を阻害されて怒り狂った様に叫ぶ。
リリアは操縦席のモニター越しにベコベコになったスカラベの顔を冷徹な瞳で見つめ、淡々とライフルの弾丸を顔面付近に何度も叩き込んだ。
流石に危機を感じたのか、それともDD越しにリリアの視線の圧を感じたのか、触手を解き、怯えた様に姿を消す。
『リリアさん!?……大丈夫ですか!?』
通信が安定した? 奴が離れたからか?
「アーシア、あれは恐らくNamedだ」
リリアが自身の周囲を警戒していると撤退するガラマス搭載機のDDが1機、爆散する。
「あんな簡単に!?」
続けざまにガラマスのメインエンジンが突如として爆発する。それでもガラマスの対空自動砲座は何も居ないように見える明後日の方向へ弾幕をバラ撒き続けている。
「――これ以上は…………」リリアはライフルを構えるも、あのENIMを見つけることができない。
「――っ!?」ライフルの照準に一瞬、重装甲に包まれたDDが映り込む。
「あれは――ソフィア?」
『おまたせ』
『すまないリリア!Namedのジャミングの影響でそちらへデータを転送できない。ソフィアに任せて一度緊急着艦してくれ』
「――了解」
通信が、天音艦長の声が、ちゃんと聞こえる……よかった
ソフィアはガラマスのブリッジを護るようにイヴサ アセンドを近くに着ける。
「どこにいるんだろ?」
『――REAR ALERT!!』
警報音が鳴ってもイヴサ アセンドは振り返る以外微動だにしなかった。
「でーたどおり、うしろからくるんだ。――きみのなまえ、サレプティシャスっていうんでしょ?」
姿を現したNamedサレプティシャスは勢いよく多重装甲をを纏ったイヴサ アセンドへ完璧に組み付いた。
触手は徐々に締め付ける力を強めていくと外部装甲が少しずつ軋む音を上げる。
「ちからくらべ?」
ソフィアの可愛くゆったりとした口調から一転、左右で握っているレバーを勢いよく、思いっ切り押し込んだ。
最も外側にある黒く巨大な装甲が手の平を開くかのように触手を引きちぎりながらゆっくりと開いていく。
複合多重装甲の第3装甲は形状を変え、素体のイヴサ アセンドを超える大きさのサブアームと巨大な手を展開した。
触手を失ったサレプティシャスは装甲が薄くなったと判断し、歪んだ口をガゴッと左右に大きく開き、光子口砲を発射する。
「やるね。だけど――」
イヴサ アセンドの前面に、光り輝く円形の光子の壁が現れ、出力の低いレーザービームを弾いた。
DEFENSEギア 光子境界
「きかないよ?」
左右の巨大な手が三度逃げようとしたサレプティシャスを挟み込んだ。
「どうしよ。つかまえちゃった……でも、でーた があるってことは――」
いらない こ だよね?
複合多重装甲の第3装甲に素体と共に包まれていた光子固定砲を第2装甲の胸部から腹部に固定し真正面へ構える。
ヴィミナスが装備していたBUSTERギアの光子銃砲を超える、巨大な直列2連のタービンが徐々に回転し始め、背部の灰色の第2装甲が展開し小型推進器の複合体と放熱板が露わになる。
光子収束率――48%
巨大な手で拘束しているサレプティシャスを巨大な銃口の目の前まで移動させる。
「ぜんぽうにみかたなし、ふぉとんらんちゃー はっしゃ」
トリガーを引くと同時に、光子固定砲の反動を相殺するだけのスラスターを吹かす。
サレプティシャスは逃げるすべもなく過剰な光子に包まれた。爆発すらも光子に飲まれ跡形もなく消滅したが、大量に生み出した光子を吐き出すかの様に、極太のレーザービームの照射は続いた。
徐々に光子の線が細くなり照射を終えると、光子固定砲の接続を解除し、胸元の複合多重装甲第2装甲がゆっくり展開する。排熱機構が作動し バシュゥー と大量の熱気と共に、白いイヴサ アセンドの素体が露出した。
「あすと、たおした」
『あぁ、えっと……やりすぎ』
踏ん張るどころか、すっきりしちゃったよ……
だけど、俺たちがもう少し早ければ犠牲は少なかったかもしれない。
その後、この戦局は彼女たち3人によって形勢を逆転し、勝利したのであった。
本当はNamedは捕獲した方が良かったんだけど、どちらにせよ目立つことに変わりないし……まぁ、良しとしよう。
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