護衛と奇襲 Ⅰ
北暦291年
ケプラー日時 1月7日 21:02
第2超巨大コロニー グリーゼ 宇宙軍工廠 第8ドック
「あれが最後の積み込みじゃな」
「ギリギリ間に合って良かったです」
アストとダニエル軍曹は出航前のアルキオネに積み込まれる最後のコンテナの様子を見届けている。
「あれはサクラメントの代表にかなり無茶を言って技術班総出で2、3日で仕上げてもらった物です」
「そりゃあ期待大じゃな」
「えぇ、本当にいい仕事をしてくれました。ダニエル軍曹も退院して間もないというのにアルキオネの整備をありがとうございました」
「当然だ。俺たちは理不尽なスケジュールに文句は言うがそれでもきっちり仕上げなけりゃならん。自分が整備したもんで死なれちゃ困るからな。それに孫が乗る戦艦じゃ。ワシが整備しないでどうする」
ガハハハッ! とドックに笑い声を響かせアスト背中を強く叩く。
「頼んだぜ。天音アスト艦長」
「お任せください。ルーナ少尉には伝えておきます」
二人は向かい合うと敬礼を交わした。
アルキオネのブリッジへ向かうアストの背中をダニエル軍曹は頷きながら見守りその背中にある男の面影を重ねた。
「立派な背中になったじゃねぇか。
"アルベルト艦長"……ワシには分かります。あなたの魂がアイツへしっかりと受け継がれとるのが」
***
アルキオネの格納庫は出航前の最終確認を行っている。
様々な機械音が鳴り響きクルー全員が作業に追われている中、新米クルーのマイケル・ワッツもトレードマークの眼鏡を新しく専用のゴーグルへ変え格納作業を行っていた。
「マイケル!それが最後のコンテナだ!そっちのハンガーを空けてくれ!」
「了解です!でも中身はなんですか?!」
「知らん!だがこれは――中央カタパルトからの予定だ!格納後の作業はサクラメントの奴らがやってくれるらしい」
「つまりサクラメント製ってことか……」
「そこを空けたらお前はブロッサムの格納の最終チェックをしろ!」
「了解しました!!」
マイケルは指示通りコンテナを格納する為のハンガーへ向かう。
その時、特徴的な赤い髪ツインテールの少女と銀髪の少女が黒衣を羽織った女性と格納庫の隅で話しているのを見つける。
「誰と話しているんだろう……?」
歩きながら様子を見ていると黒衣の女性はその場から去っていった。クリスとヴェルルはその後、何やら会話を始め(会話といってもクリスが一方的に) 話しながら恐らく中央カタパルトの方へ向かっていった。
「そういえば模擬戦の後、2人の姿はあまり見かけなかったな。ルーナは艦長や秘書さん達と毎日訓練をしていたけど……」
ヴェルルも言葉数は相変わらず少ないが以前よりはどこか親しげに見える。
「あんなに仲良くなるなんて」
急遽決まったあの模擬戦は2人の仲を縮めるのにかなり効果的だったのだろう。
だけど2人の模擬戦後の機体の状態は酷かったなぁ……
15分間、時間いっぱいに戦ったとはいえあそこまで整備が必要になるなんて――
模擬戦の最中、マイケルはブラックブロッサムの整備レクチャーを受けていたので戦闘終了後の機体状態の詳細を全く知らなかった。
驚くことに模擬戦後のブラックブロッサムの状態は両機共酷く結露しており、まるで水中にでも潜ったかの様に濡れ、激しい近接戦闘が続いた影響で両腕の損傷、摩耗が激しかった。
特にクリスの操縦していた機体はかなり無茶をしていた様で冷却機能の影響か装甲の表面は一部凍り付きとんでもない所まで内部結露している部分もあった。
両腕はほぼ全ての内部部品を綺麗さっぱり取り換えねばならない程で、誰が見ても腕ごと取り換えた方が良い状態だったが、練習ということで少しずつ修理を行った。
2人がパージしたASSAULTギアも残さず回収したが勢いよく衝突したらしく宇宙に漂うデブリ同然。良く言えば上手く絡み合い現代アートみたくなっていた。見るも無残なそれは廃棄されるそうだ。
大変ではあったが機体を弄れるのは楽しかったのでマイケルにとっては有意義な3日間であった。
そしてこのコンテナを積み込み終えたら、とうとう出航だ。
初の実戦。凶悪な犯罪集団が相手だというのに彼の胸は不思議と高鳴っているのだった。
***
アルキオネのブリッジでも最終確認が行われ、各最終確認をまとめた報告を待つのみであった。
「私がここに座るのも久しぶりですねー」
世話係のメアリー・エドワーズがCIC席へと座り肘掛けを撫でるとその感触を懐かしんだ。
「お手数をお掛けします」申し訳なさそうにサラ副長が新兵装のマニュアルや新たに加入したパイロット、運用する機体情報の一覧をモニターへ表示していく。
「いえいえ!運用できる機体数が増えたのは有難いですよね」
「えぇ。戦術の幅がかなり増えますのでそれらを指示するのが私だけでは厳しいので助かります……これがチーム編成です」
Team A
ザヴァリィ・カーメネフ
リュドミラ・スミルノフ
Team B
ゼノビア・マルティノス (DD部隊隊長)
ルーナ・オイラー
Team C
マリー・ジェンナ・ローサルト・タシェ・ドーラ・ボアルネ (DD部隊副隊長)
マイケル・ワッツ (控え)
Team D
クリスティアナ・ジゼル・タチバナ
ヴェルル・デ=グロート
「了解です。私はチャーリーとデルタ担当ですね。チャーリーはジョセフィーヌさんとマイケル君……控えというのは?」
「彼は士官学校では元々パイロット科を専攻していましたが整備士志望で配属されました。基本はそちらの人員ですが予備機体が有りますので緊急時は出撃してもらう予定です」
「珍しいですね――なるほど凄い射撃の成績です。埋もれているのは勿体ないですね……アルキオネの甲板上での援護射撃などを行えるかもですね」
「はい。なのでTeam Cはジョセフィーヌさん単独での行動が基本になりますのでよろしくお願いします」
「一人で大丈夫なんですか?」
「聞いているとは思いますが、彼女は元第7艦隊所属ですので寧ろ誰が組んでも彼女の足手纏いになるかと」
「そっか……第7艦隊。なるほどです」
「それと出港後にはなると思いますが、一花司令が現在ニューヘイヴン社と今回の任務の擦り合わせを行っている様です。まだ時間が掛かるとのことですので追って連絡がくると思いますので確認をお願いします」
「了解です!なんだかこのやり取りも懐かしくていいですね」
「私も心強いですメアリー。でも無茶はしないで下さいね」
「大丈夫です!ブランクなんて感じさせない働きをしますので期待してて下さい!」
その会話の数分後、ゼノビアからブリッジに通信が入る。
『発進準備全て整いました』
「了解。
――アスト艦長、全ての準備が整いました。ブリッジへ」
『あぁもう向かっている。定刻通りアルキオネ発進を開始する』
サラ副長がアストへ報告を入れつつメアリーとアイコンタクトを取るとすかさずメアリーがアルキオネ全体へ通達をする。
「アルキオネ出港の準備が整いました。予定通り、本日 22:00 を持ってグリーゼを出港いたします。繰り返します。アルキオネ出港の準備が整いました。予定通り、本日 22:00 を持ってグリーゼを出港いたします」
続いてサラ副長も全体へ再通達を行う。
「前日にも話した通り、グリーゼの警戒宙域を抜けるまでの間は少数ですが第51艦隊の護衛が着きます。あちらのDD部隊がアルキオネへ着艦する予定もありますので、失礼の無いよう心掛けて下さい」
―― ケプラー日時 1月7日 21:50
第2超巨大コロニー グリーゼ 宇宙軍工廠 第8ドック
アルキオネの艦長席へアストが座ると、慣れた手つきで艦長席のモニターを弄る。
そしてクルー全員へ出航前の挨拶を行う。
「艦長の天音アストだ。まずは全クルーへ感謝をしたい。突然だったにも関わらず短い期間でよくここまで完璧に準備を進めてくれた。本当にありがとう。
そして我々はこれよりCipherに奪取されたニューヘイヴン社製の新機体の捜査任務へ向かう。途中春夏秋冬司令より任務内容の更新があるかとは思うが現状は捜査任務となっている。変更指示があった際は各自臨機応変に対応しそして全員が無事にグリーゼへ帰還できる様に責任を持って任へ当たってくれ」
アストの声が艦内全体へ響く中、ブリッジではアルキオネの発進シークエンスを開始している。
「動力、CIC、武器システム、防衛システム、レーダーシステム、オンライン確認。接続全て正常」
「出力上昇、異常なし。メイン安定まで残り30秒。サブ、安定確認」
「全システム異常ありません」
「メイン安定確認、発進準備完了」
『こちらグリーゼ南8番ゲート。アルキオネ発進準備完了を確認。抜錨して下さい』
「了解。セーフティ解除」
戦艦を固定していた数十本のアームがゆっくりと順番に外れ、そして巨大なゲートが左右へ開いていく。
『南8番ゲート開放を確認。アルキオネ、発進して下さい』
「よし、アルテミス級 5番艦 アルキオネ――発進する!」
―― 1月7日 22:00 ――
この日、急遽ではあったが満を持してグリーゼ南安全宙域防衛戦の時同様。第2超巨大コロニー グリーゼ 南8番ゲートより 第20艦隊管轄近郊宙域へ向け、再びアルキオネが発進するのであった。




