本格始動と新年 Ⅶ´
後ろから見ている4人はアストの射撃に唖然としていた。
シューティンググラスを掛けると所持している武器に応じた射撃訓練プログラムが開始され、マンターゲットと奇形なターゲットのホログラムがランダムに表示される。マンターゲットは表示されては消えるを繰り返し、奇形なターゲットは撃たれるまで徐々にこちらへ前進してくる。
身体は目標に対して正面を向き、右腕を伸ばして左肘を小さく曲げ腰を少し落とす。
奇形なターゲットの高得点場所は必ずしも中央にあるだけではなく、様々な位置にあるので狙い難い。これはENIMの不同一性を表現したものだ。
しかし、この奇形ターゲットが開発された時代には2mサイズの超小型ENIMがいることが想定されていたが、7m以下の小型ENIMの存在が未だに確認されていない為、生身で相対するこのターゲットの意味は殆ど無い。
アストは確実に奇形なターゲットが表示された瞬間に高得点箇所へのみ正確に射撃を行う。
その射撃の正確さとマンターゲットに一切気を取られない判断と反射神経に
「はっや……!」と思わずザヴァリィは呟いた。
システムが終了しクリアタイムと得点が表示されるが、アストはそれを見ずにシューティンググラスとイヤーマフを外し振り返るとザヴァリィへ拳銃を返した。
「これ本当に同じ銃……?」ザヴァリィはまるで手品のタネを探す様に拳銃を確認する。
「正直、DDがある今はあまり意味のないスキルだ……」
「流石アスト様!」
「普段とのギャップ……本当に」
「本物の宇宙の騎士ですわ!」
大興奮の彼女達は指導を受けようと群がるが、丁度良いタイミングでサラ副長から連絡が入る。
そろそろ次の予定の時間だったか。ありがとうサラ副長――
『アスト艦長、一花司令がお呼びです。』
「また、直接なのか?」
『はい。かなり重要なお話の様です』
「……わかった」
どうせ――年末年始のパーティーをするわ!――とか言うんだろうなぁ
と思いつつアストは通話を切ると、4人へ訓練を続けるように指示を出し、司令官室へと向かった。
***
ケプラー日時 12月31日 18:39
第2超巨大コロニー グリーゼ 完全独立部隊アサナトス 司令官室
「本当は皆を集めて新年まで盛り上がりたかったのだけれど」
一花の真剣な表情にアストは気を引き締め「というと?」と内容を聞く。
「――12月25日 22:10頃 グリーゼヘ輸送中だった物資が何者かに奪われたわ」
「なるほど。それは由々しき事態だな――」
「その中にはニューヘイブン社製の新型DDが積まれていたのよ。位置情報を見ると援軍が間に合わない的確な位置で襲われている。情報が漏洩していると見た方がいいわ」
情報漏洩……それもニューヘイブン社製の新型DDともなると護衛していた艦隊もそこまで軟ではないハズだが……
「一体どんな奴らが?」
「護衛していた第13艦隊と宙域を管轄している第20艦隊の情報によるとCypherと名乗っている宇宙海賊の仕業ね」
「サイファー?」
「知らないかしら?数年前から現れた犯罪組織よ。色々調べたけどその界隈では急成長株ね。情報を送るわ、表に出しちゃいけない情報だから読んだ後は削除してね」
緊急性の高い事案だが約1週間前の情報、かなり遅い報告だな……
戦闘情報、輸送物資情報、そしてCypherの情報を受け取り、ササッと気になる部分を読んでいく。
情報が洩れ、相手が用意周到だったとは言え、ここまで見事にしてやられるとは……
「新型DD以外にも新型の武装ギアまで積んでいたのか……」
***
「新型DD以外にも新型の武装まで積んでいたか……」
同刻 宇宙連合軍管轄外宙域 Cypher偽装小惑星基地
開いたコンテナの中には16機のDrive Dollと共に新型の武装ギアが格納されていた。
「こりゃぁ高値で取引できやすね」
「あぁ、情報にはないこの武装ギアまでは奴らも知らなかったようだがな……機体だけ偽装艦へ積め。15機分用意されていないこの武装ギアは試作機の可能性が高い、解析して有用であれば我々で使用する」
「了解しやした!」
ドレークは真新しい武装ギアへ近付き優しく撫でる。
「――面白い物であってくれよ?」
ドレークはそういうとニヒルな笑みを浮かべるのであった。




