再会と新世代 Ⅷ
アルキオネの後方とはいえ、まるで訓練中かのように、悠然と戦場へ躍り出ている訓練艦にブリッジ内は騒然とする。
見逃した報告は――無い……独断でここまで来たのか!?
「リリア、現在位置は?」
『ディオニューソス級の後方です。追ってはいますが、訓練用の装備では追いつけそうもありません』
目立たず背後を取る予定のルートが崩れる上、今 立ち止まればENIMに取り付かれる可能性があるが――
「分かった。――リリア大尉のトワソンを捕捉しろ!現場でのBUSTERギアへの換装を行わせる。本艦をBコンテナ射出方向へ回頭」
「Copy――」
「アーシア、ソフィア。アルキオネの後方に訓練艦が来てる。ENIMに襲われるのも時間の問題だ。リリアと共に援護へ向かってくれ」
『訓練艦!?リリアさんも来てるんですか?!了解です!』
『れいきゃく かんりょう いどうするね』
『本艦はリニアカタパルトの照準を合わせるため、自動回頭を始めます。総員、衝撃などに備えてください。繰り返します――』
アルキオネがゆっくりと約180°旋回を始め、最大船速から急激に速度を落とし、静止する。そして中央リニアカタパルトの照準を後方のトワソンへ合わせる。
『Bコンテナの射出を開始します。第5気密シャッター閉鎖。Bコンテナ中央リニアカタパルトへ固定』
『進路オールクリア――Bコンテナ射出します』
中央リニアカタパルトから勢いよく大型ブースター付きのコンテナが射出された。
「リリア、Bコンテナを射出した。コンテナがそちらの速度に合わせる」
『了解。――射出されたコンテナの軌道を確認。訓練用B装備をパージ。ドッキングモードへ移行します』
訓練用の肩部、腰部、背部に接続されていた装備が順序良く外れ、アルキオネから射出されたコンテナの軌道へ機体の位置を調整する。
コンテナはトワソンとの距離を認識し、逆方向へブースターを吹かすと徐々に射出時の速度を緩め、減速からトワソンと同じ平行方向へ加速していく。
「――見つけた」
リリアはDDの背面をコンテナに向ける。徐々に速度が等速に近づくとコンテナが開き、機体に覆い被さった。内部では肩部腰部にBUSTERギアが接続され、手元に対ENIMライフルが装備される。
――Drive Doll GFifP-OT055MC "再起動"シークエンス開始――
メインエンジン/コンプリーテッド――
AI D/起動――ヴィジランスレッド感知――
メインモニター/オンライン――
姿勢制御システム/オンライン――
ウェポンシステム/オンライン――
BUSTERギア コネクション正常
登録母艦 U275B-AR-5――アルキオネ 通信再接続
「BUSTERギア接続完了」
コンテナのブースターが最大まで加速すると包み込んでいたトワソンを切り離し離脱する。
パージされた訓練用の装備を回収しつつアルキオネの方向へ移動していく。
「リリア・ソコロフ、ディオニューソス級 12番艦 テレテの援護へ向かう」
リリアは実戦用のBUSTERギアが接続されたことによって、訓練機用に掛かっていたウェポンシステムのレストリクションモードが外れていることに喜ぶ。
「これで、無駄な機能が修正できる」
トワソンを最大速で操縦しながらも、自分の愛機ヴィナミスのシステム設定に近づけるため、本来ならば優秀なはずのオート機能や、アシスト機能類を端からオフに切り替えていく。
ソフィアが2度も初弾を外したのは、このアシスト機能の所為か……優秀過ぎる機体も慣れなければ無駄が多いだけね……
訓練生に被害が出る前に――間に合えばいいけど……
「テレテとの通信は!?」
「何度も呼び掛けてはいますが繋がりません!向こうに通信士が居ないか、拒絶されている可能性有り」
俺達との通信さえ拒否している。つまり通報艦とのやり取りすらしていない可能性が――
「訓練艦テレテ よりDDの発艦を確認!数、4機です」
やはり何の情報も得ていない……戦闘開始時の想定より明らかにENIM数が多いんだぞ……出ていったところでその内餌食になるだけだ
まさかENIMよりも味方が厄介になるとは……
***
「小型 60 中型 20 大型 2 だろ?俺らが余裕で全滅させてやる」
「でもさ~訓練用の武器とかで倒せるもんなの?」
「口開けたところに撃てばいいだけだろ?」
あの負け方はマグレだ……この戦いで俺も本当のエースパイロットに
「来たぞ、散開しろ」
訓練機のトワソンに5体の小型ENIMが群がる。
その内の1体が口を開くと両顎が1段階突き出し、牙を剝き出すと喰い付こうとエリオットに迫る。
授業で見た資料よりグロテスクだな――でも訓練通り口が開いてれば
「1発で余裕」
オートで制御された照準通り、エリオットは大きく広がった口へ小型小銃を撃つ。
「俺の記念すべき1体目だ。ありがたいと思え」
たった1発で簡単に倒したと思った最初のENIM。しかしエリオットの放った弾丸は剝き出しの牙に阻まれた。実戦用の実弾であれば恐らく牙を砕き、そのまま倒せていただろうが、華麗に放ったその一撃は無残にも弾かれる。
「――は!?」
左手に持つ盾にENIMが喰らい付くと光子口砲を発射しようと口内が光り始める。
「うわぁ!!このっ、盾を放せ!!」
使い物にならない小型小銃を捨て、急いで近接武装を取り出し思い切り叩いた。
しかし、叩いた場所がどれだけグチャグチャになろうとも、全く離れようとしない。
「こいつら本当に生き物なのか……?!」
エリオットがそう呟いた瞬間に盾とDDの左腕が光子口砲によって消し飛ぶ。
「うぅぅっ!これ以上無様になってたまるかぁ!」
その時、聞きなれた仲間の通信音声が聞こえた。
『うわぁぁぁ!エリオット助けて!!』
何をこいつは馬鹿なことを言っているんだ?今はこちらも自分自身のことで手一杯だというのに。
そうは思いながらもエリオットは音声先の機体が気になり一瞬だけ視線を向ける。
『助け……』音声が途切れるように聞こえたのと同時に、視線の先にいた機体は光子口砲にコックピットを貫かれ、一切の間もなく爆散した。
「……嘘だろ?」エリオットは悲観的になり動きを止めた。しかしENIMはそんな彼を容赦なく襲う。
1機がやられると、先程まで意気揚々と立ち向かっていた訓練生達は背中を見せ逃げ惑った――
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