備忘録の16
夏休み。
おばさんと神社に行く。
五円玉を投げ入れ、手を合わせる。
「神様、どうか、どうか…」
おばさんとボクは同じことを願っている。
神社から十分ほどのコンビニでお弁当を三つ買う。
「あとシール三枚だね」
シールが二十五枚たまると、一枚の絵皿がもらえる。
お弁当をもち、コンビニ横の坂道を歩いて繊維問屋へ向かう。
「ご苦労さま、暑かったでしょ」
玄関で、ばあちゃんと、水槽の金魚がボクたちを出迎える。
おばさんとボクはスリッパを履いて、いつも事務室横の応接室に入る。
革張りのおっきいソファでおばさん、ばあちゃんとお弁当を食べる。食後は、会長さんがお菓子をもってきてくれる。
「これもよかったら、食べてね」
三十分くらいゆっくりごはんを食べた後、たまにモップがけのお手伝いをする。
ツルツルした床にスーッとオレンジ色のモップを滑らせるのがちょっと好きだった。
「じゃあ、もうそろそろ行くか」
「うん」
ボクのモップ遊びが終わると、おばさんとともに「じゃ、行ってくるね」とばあちゃんに声をかけて、繊維問屋を出る。
坂道を国道へ向かって、二、三分歩いたところに、病院がある。
「あ~。生き返る」
クーラーのきいた病院のエントランスは涼しい。
「いるかな」
「今日は検査ないから、いると思うよ」
いつものエレベーターの中での会話。
看護ステーションの看護師さんたちに「こんにちは」と言って、西側、つきあたりの個室へ行く。
ドアを開けて、カーテンからヒョイと顔を見せると「お~、ご苦労様さん」とじいちゃんが出迎える。
だいたいじいちゃんはグルメ番組を見ている。
「またそんなの見て、なおさらストレスたまるでしょ」
「見るだけでムっと胸焼けするからちょうどいいんだ」
じいちゃんとおばさんは決まって、そんな会話をする。
「今日は、なに、うまいもの食ってきたのよ」
じいちゃんのお昼ごはん確認がいつもある。
「ボクはあんかけ焼きそばで、おばさんは冷たいそば。あとシール三枚でたまるの」
「そんな皿ばっかりためてどうすんのよ」
じいちゃんはあきれているように見せながら、ボクのシール集めの進捗状況を確認する。
「じいちゃん、また明日ね」
おばさんが、着替えやティッシュを補充し、一休みしてから、また繊維問屋に戻る。
「社長元気そうだったかい?」
会長さんがいう。
ばあちゃんも「じいちゃん今日はどうだった?」と聞く。
「またねぇ、グルメ番組見てんのさ。こっちもグっとくるからやめてほしんだよね」
春休み、夏休み、冬休み。
ボクは一年で二枚の絵皿をためた。
それが三年続いて五枚。
小学五年生の冬休み前に絵皿集めは終わった。
じいちゃんは、たぶんおいしいごはんを食べられるようになった。
辛くて悲しいけど、ほんのちょっと安心した。




