備忘録の12
ばあちゃんの家は、降雪量の多い、とある港町の小路にある。
小路は、地面にいろんな石ころが埋め込まれたデコボコ道で、舗装されていない。
地盤も、しっかりしていないので、車が小路を通ると、築40年のばあちゃんちの居間は「ガタガタ」と揺れる。
とくに配達業者の2トントラックが頑張って小路に入ってきたときは、揺れが激しい。
そんな小路にあるばあちゃんちは、冬になると、雪かきが大変になる。まず、雪捨て場がない。
小路にある家の人たちが、みんな自分の敷地の雪を小路に出してしまうと、道幅が狭くなって、車が通れなくなる。
だから、ここの小路に住む人たちはみんな、赤いソリをもっている。ソリは立てると1.5メートルくらい高さがある。
このソリにみんな家の雪を積んで、3、4分、50メートルくらいの距離を引っ張っていって、崖に向けてひっくり返して雪を捨てに行く。
これを何往復もする。
重労働だけど、じいちゃんがいないから、おばさんが頑張るしかない。
雪をスコップで、ソリに詰めては、崖まで引っ張って運んで、捨て、空のソリを引いて戻ってきては、雪を詰めての繰り返しだ。
ばあちゃんは、雪が降るたび、居間のレースのカーテンを開けて「降ってきたわ」とぼやく。
ばあちゃんはとくに玄関前が気になるので、雪が降りやまなくても、玄関前の雪だけ、いたちごっこのようにかく。
一方で、車4台停めることができる敷地は、放置される。
おばさんの出番だ。
雪かきにも手順がある。
まず、①雪を集める。5~10センチくらいの積雪なら、雪を集めるのに適したT字のスコップを使う。よく野球場のグラウンド整備に使うトンボのようなものだ。
ただ積雪があまりに多いと、ショベルカーのように、T字スコップで雪を押し集めようとしても、途中で押し詰まってしまう。だから積雪が多いときは、ダンプを使うのが定石だ。
次に、②集めた雪をソリに詰める。詰めすぎてしまうと、崖に運んでいる最中に、小路に雪がこぼれていき、近所の人たちから反感を買ってしまう。だから。こぼれないであろう適切な量に調整する。そして、スコップの裏でペンペン叩いて固めてあげる。
そして、やっと③ソリを崖まで引いていく。これが一番大変だ。ソリといえども、重い。大人2人をソリに乗せて引いているようなものだ。結構、腰にくる。
ここで終わりかと思いきや、最後に小技が必要になる。④ソリからの排雪だ。
崖への小道は、冬になると少し傾斜がつく。その傾斜を利用して、ちょっと小走りで崖に向かってソリを引き、その勢いにのり、ソリのひもを掴んだまま、遠心力を使ってソリ本体だけ、崖の方に出すと、詰め込んだ雪を効率よく崖下に落とすことができる。
もちろん、おばさんは、プロだ。こなれている。
ただ、たまに、詰め込んだ雪の量が多すぎて、遠心力に耐え切れず、ソリごと、崖下へ投げとばすことがあるので、注意が必要だ。
そんな、重労働を繰り返しているおばさんは、敷地に積もっている雪の量を見るだけで、
「これだったら、10往復で終わりそうだわ」
と、除雪にかかる労働量をソリ往復に換算するようになった。
生活習慣病である。




