Afterストーリー⑥ 武器屋はロマンのかたまり
「皆さんこんにちは! ギルド《黄金の太陽》のミズリーと――」
「ロコと――」
「ゴーシュです。今日も皆さんに楽しんでもらえる配信をお届けしたいと思っています。よろしくお願いします」
ある日の昼下がり。
《黄金の太陽》の面々が挨拶をして、その日の配信が開始される。
ミズリーは元気いっぱいの笑顔で、ロコは抑揚のない声で少し眠たげに、そしてゴーシュは背筋を伸ばして姿勢良く。
各々がらしい姿を見せると、配信を心待ちにしていたリスナーたちが一斉にコメントを打ち込んでいった。
【こんにちはー!】
【ゴーシュのおじ様~! お待ちしておりましたわ~!】
【今日もミズリーちゃんの笑顔が眩しい……】
【休みの日に推しの配信を見れる幸せ】
【残業徹夜明けです。ロコちゃんに癒やされに来ました】
【↑お疲れー】
【大剣オジサンのファンクラブに入りました~】
【ゴーシュさん見習ってメイン武器を大剣にしてみました! 重くて筋肉痛です!】
【ウェイスでぇっす! 今日も推し活しまぁっす!】
【今日は何を見せてくれるんです?】
【むむ、今回の配信は珍しく室内でござるな】
【ほんとだ。これは、武器屋?】
【お買い物配信かな?】
多数のコメントが流れ、ゴーシュたちの行う配信は今日も盛況の様子だ。
そんなリスナーたちの声に応えた後、ミズリーが咳払いを挟んでから今日の配信の趣旨を説明し始める。
「ふっふっふ。何人かお気づきの方もいるみたいですね。そうです! 今日私たちは王都グラハムにある武器屋さんに来ているんです!」
ミズリーが後ろに向けて手を広げ、微精霊を介した配信画面にはその場所が映し出されていた。
木造りの店内に並んだ剣や斧、槍に弓矢、鎧に盾などなど。
様々な武器や防具が陳列されており、その手の光景が好きなリスナーたちは興奮を隠しきれない様子だった。
「今日の配信はズバリ、こちら『ドドンゴ武器屋』さんのお店を紹介する案件配信となります! 正直に言うと宣伝なんですが、きっと楽しんでいただける配信になると思います! いえ、してみせますっ!」
【おおー、案件配信だったか】
【案件配信ってなんだっけ?】
【↑どっかから宣伝してくれって依頼を受けてやる配信だな。商品とかの紹介が多い】
【↑なるほどサンクス】
【ってことは色んな武器とか防具を紹介していく感じかな?】
【案件配信って素直にぶっちゃけるの珍しいなw】
【それな】
【最近は宣伝って言わずにヤラセっぽく紹介してる配信あるからなー。ちゃんと言ってくれるの好感持てるわ】
「実は先日、俺の革靴をこのお店の主人であるドドンゴさんに補修してもらいまして。とても良い仕事をされていたんですが、お店の売れ行きが思わしくないらしく……。なんとかお力になれないかなと思った次第です」
「ですです。せっかくの優良店さんが認知されないのはもったいないですからね。皆さんに楽しんでいただきつつ、この武器屋さんの良さを知ってもらえたらと思っています!」
ゴーシュとミズリーがここに至るまでの経緯を説明し、リスナーたちからは「このギルドらしくて好き」といった内容のコメントが流れ出す。
配信文化が人々の娯楽として根づいたこの世界において、物事を周知したり注目を集めたりするのに配信はうってつけの媒体である。
魅力あるものが日の目を見ないことはゴーシュにとっても悲しいことであり、だからこそ自分たちの配信が力になれればと考えたのだ。
ちなみに後ろの方には髭面の店主ドドンゴの姿も映っていたのだが、ゴーシュたちの人情味あふれる想いに感動してズビズビと鼻をすすっていた。
「さてさて、それではさっそくドドンゴ武器屋さんの紹介をしていきましょうか」
「そうだな。ドドンゴさんからはお店のものを自由に配信していいと言われてるんだが、どうしようか?」
「ふふん。ここはやっぱり武具の紹介からじゃないでしょうか。なんかこう、色んな武器や防具があるのってロマンのかたまりって感じがしますし。むふー、どれを紹介しようか迷っちゃいますねぇ」
「ミズリー、テンションたかい」
ミズリーが鼻息を荒くするのを見て、ロコがやれやれと溜息をつく。
元々オタク気質なのめり込みを見せるミズリーのこと。
それは武具に対しても例外ではないようだ。
店内に置かれた物珍しい武器や防具を物色しつつ、どれが良いかなと目を輝かせていた。
【ミズリーちゃんの新たな一面が見れて嬉しい】
【武器に目をキラキラさせてるミズリーちゃんが可愛いw】
【美少女が武器好きなの推せる】
【↑わかりみ】
【ミズリーちゃんは新しい街に行ったらまず武器屋から巡るタイプだなw】
【それにしてもこのお店、いろんなのがあるなー】
【だな。見たことないような武器もあるし】
【これは穴場かもしれん】
【でっかい鎧とかもありますわ~】
【む、拙者の国の武器も置いてあるでござるな。いい趣味してるでござる】
品物を手に取るミズリーの姿がリスナーたちの注目を集め、配信の同時接続数もどんどんと伸びていく。
そうして《黄金の太陽》の面々が様々な武具を手に取る様子が流れ始めた。
「ねえミズリー、変な武器があった」
「お、それは二節棍って武器ですね、ロコちゃん。別名ヌンチャクとも呼ぶらしいです」
「ぬんちゃく? なんか木のぼーが鎖で繋がれてるけど」
「これは東方の国に伝わる武器でして、魔物相手に振り回して使うんですよ。前にこれを使った武術の配信を見たことあります」
「ふむふむ」
「ちなみに振り回すときには『ホワチャー!』って言うのが流儀らしいです」
「ほわちゃー」
「あわわ! 駄目ですよロコちゃん! お店の中で振り回したら危ないです!」
といった感じで、ロコがヌンチャクと呼ばれる武器を振り回すのをミズリーが慌てて止めたり――、
「妙な形をした武器があるな」
「おお、円月輪ですね。これは確かに珍しいです」
「円形の刃が付いた武器か。カッコいいけどなかなかクセのある武器みたいだな」
「たしか円月輪は達人になると投げて使うこともあるんだとか。近接も遠距離もこなせる面白い武器ですね」
「へえ、今度練習してみようかな」
「いいですね! ゴーシュさんはすぐに習得しちゃいそうで怖いですけど」
円形の刃を持ったゴーシュが様になっていて、ミズリーが手を合わせていたり――、
「ししょー、見て見て。トゲトゲのついた盾があった」
「スパイクシールドか。敵の攻撃を防ぎつつ、トゲの部分で攻撃もできる盾だな」
「ふむふむ。がんじょーそうでよき」
「ははは。ロコの大きさだとすっぽり隠れちゃうかもな」
「これで突進したらどかーんってできそう」
物騒な盾を持ちながら可愛らしく獣耳を動かすロコというギャップがリスナーたちを悶えさせたり――、
「ゴーシュさん、こんなのを試着してみましたがどうでしょうか?」
「そ、それは、踊り子の服か? そんなものまであるんだな」
「ドドンゴさんに聞いたところ、このヒラヒラした腰布が魔物を惑わす効果があるんだとか。ちょっと露出が多くて恥ずかしいですけど」
「コホン。まあ、ミズリーによく似合ってると思うぞ」
「そ、そうですか? 買っちゃおうかな……」
「ミズリーとししょー、お顔が赤い」
ゴーシュとミズリーのやり取りにロコがツッコミを入れて、「何この甘酸っぱいやり取り」、「尊いがすぎる」とコメントするリスナーがいたりと――。
そんな風にゴーシュたちがドドンゴ武器屋の商品の数々を紹介して、その日の配信は盛況のうちに終わることとなった。
ゴーシュにミズリー、ロコと、それぞれの個性が出た紹介の仕方が話題を呼ぶこととなり、案件配信とは思えないほどの視聴数を稼いで――。
元々、質の良い様々な武具を取り扱っていたこともあり、ゴーシュたちの配信で注目を集めたことが起爆剤となったのだろう。
結果として、その月のドドンゴ武器屋の売上は平常時の10倍という数字を叩き出したのだった