Afterストーリー⑤ ロコの着せ替え配信
「着せ替え配信……?」
ある日の午前中――。
いつもの如く寝坊したミズリーが遅めの昼食を作り、それを皆で食した後のことである。
ミズリーが今日の配信について提案があると言って、ゴーシュとロコはその内容を聞いていた。
「ですです、着せ替え配信です。ゴーシュさん、前に行った服飾店さん覚えてます?」
「ああ。《シャルトローゼ》に行く前に服をレンタルした店だよな。もちろん覚えてるよ」
「あそこのオーナーさんから連絡があって、何でもお礼がしたいんだそうです」
「お礼? 何でまた」
「私たちがお洋服をレンタルした時、お店の配信動画に載せるって話があったと思うんですが、それがどうやら結構な宣伝になったようでして……。それで服を何着かプレゼントしてくれるそうなんです」
「へぇ……」
きっとミズリーのドレス姿が注目を浴びたんだろうなと、ゴーシュは感心する。
実際にはゴーシュの正装姿も密かな人気を集めていたのだが……。
「それでですね、お店に来て選んでいいってことらしいです」
「ああ、なるほど。それで着せ替え配信をさせてもらおうと」
「ふっふっふ。その通りです! お店の人にも許可は貰いましたし、盛り上がること間違いなしですよ!」
ウキウキした様子でミズリーが小躍りする。
ミズリーらしいなとゴーシュが苦笑していたところ、膝の上に乗っていたロコが声を上げる。
「確か、私がこのギルドに来る前だよね。そういえば私もそのお洋服屋さんが宣伝してる配信見たことある。すんごく人が集まってた」
「お、そうなんですね、ロコちゃん」
「でも、ししょーやミズリーみたいな大人が着るお洋服ばっかりなんだよね?」
「そんなことはありませんよ。そのお店は品揃え豊富で子供用の服も置いてあるんです。というか、今回の配信のメインはロコちゃんですからね」
「え? 私?」
「そうです。何と言っても、『着せ替え』配信ですから!」
ミズリーはそう言って、困惑する様子のロコとは対象的に満面の笑みを浮かべていた。
***
「ロコちゃん、すっごく可愛いです! やっぱり私の見る目に狂いはなかったです!」
「そろそろ疲れてきた……」
服飾店の試着室前にて。
子供用のメイド服に身を包んだロコがげんなりとした表情を浮かべていた。
ミズリーが色んな種類の服を持ってきてはロコに着せ替えさせているためである。
「でも、いつもと違って新鮮だな。それに、どの服もロコに似合ってるぞ」
「ほ、ほんと? ししょーがそういうならもう少し着てみようかな……」
ゴーシュが言って、ロコは少し照れたようにはにかむ。
その様子が配信画面に映し出され、リスナーたちも勢いよくコメントを打ち込んでいた。
【ロコちゃん、可愛い……。それに喜ぶミズリーちゃんが尊い……】
【そういえば一時期、獣人族を真似たコスプレが流行ったことあったよな。その理由が分かった気がするぜ……】
【ケモミミとモフモフ尻尾にメイド服とか、似合わないわけがないんだよなぁ】
【すっごく癒やされます!】
【ロコさんがお可愛いですわ~! やはりケモミミ、モフモフは正義ですわ~!】
【いいな~。今度わたしもこのお洋服屋さん行こうっと】
【そして同接数がめっちゃ伸びてるw】
【そりゃそうだわw】
【同時接続数:245,909】
「本当によくお似合いですよ、お客様~」
「店員さん! このメイド服も追加で! あ、プレゼント分を超えたものはもちろんお支払いしますので!」
「お買い上げありがとうございます~」
そうしてミズリーはロコが着た服を片っ端から買い込んでいく。
今着ているメイド服、白のワンピース、ゴシックドレスにエプロン、カジュアルなショートパンツ服に東方の国で流行っているという着物などなど。
ミズリーはロコに着せた服の全てを購入すると決め、結果として店内には衣服の山が出来上がっていく。
(こりゃ当分の間、着せかえ配信には困らなそうだな……)
増え続ける衣服の山を見ながら、ゴーシュは引きつった笑いを浮かべていた。