Afterストーリー④ キノコ狩りと驚愕の晩酌配信
「あ、ありましたよ、ゴーシュさん!」
「え、もう?」
ある日の午後――。
ゴーシュたちのギルド《黄金の太陽》の面々は、とある洞窟ダンジョンを訪れていた。
洞窟内の小さな穴に頭を突っ込んでいたミズリーがモゾモゾと抜け出し、配信を視聴していたリスナーたちに向けて笑顔を弾けさせる。
「やりました皆さん! レア食材『アオミドリタケ』ゲットです!」
ミズリーの手には1本のキノコが握られており、それを見たリスナーたちがいっせいにコメントを打ち込んだ。
【おおー!】
【これが幻のキノコ?】
【よく見つけたなぁミズリーちゃん】
【まだ配信開始してから5分しか経ってないw】
【さすが豪運少女ミズリーちゃん】
【めちゃくちゃ旨いらしいな、このキノコ】
【話には聞いたことあるけど食べたことない】
【アオミドリタケって、確か市場で買えば1本1万ゴルドーは下らないとか……】
【ひぇー】
【ドヤ顔ミズリーちゃんかわいいw】
リスナーたちが流したコメントを見て、ミズリーは満面の笑みを浮かべる。
「よく見つけたなぁ、ミズリー。滅多に見つけられないキノコだっていうのに」
「ありがとうございます、ゴーシュさん。でも、お酒のつまみにするにはもっともっと採らないとですからね。……おっと、あちらにも」
そうしてまた目当てのものを見つけたのか、ミズリーはパタパタと駆け出していった。
ちなみに今行われているのはミズリー発案の「幻のキノコ見つけます! 見つけられたらそのまま晩酌配信します!」という企画配信である。
実のところゴーシュよりも酒豪であるミズリーなのだが、それを知らないリスナーたちは「ミズリーちゃんと大剣オジサンが晩酌配信やるの!? 絶対に見ねば!」と言って注目を寄せていた。
実際に今やっている配信も同接数は7万を超え、相当な数のリスナーが訪れている。
「ししょー、これは食べれる?」
「おおロコ。どれどれ」
と、ゴーシュの元に駆けてきた獣人少女ロコがキノコを差し出してくる。
ゴーシュはそのキノコを手に取りまじまじと観察した。
「これはアオミドリタケじゃないな。よく似てるけど別の種類だ」
「しょぼん……」
「でも、ちゃんと食えるキノコだぞ。というか普通に旨いやつだ。これはお手柄だよ、ロコ」
「ふふ。ならよかった」
【大剣オジサンに頭撫でられて喜んでるロコちゃんが癒やし】
【キノコまで鑑定できるゴーシュのおじ様、素敵ですわ!】
【キノコ鑑定士、ゴーシュさんw】
【さすが元農家w】
【なんだかキノコ狩りに行きたくなってきたでござる】
【分かる。でもオレには一緒に行ってくれる美少女も獣人少女もいないんだ……】
【↑悲しいなぁ……】
リスナーたちがそんなコメントを流す一方で、ミズリーは2本目のアオミドリタケを見つけていた。
***
「フンフーン。フンフフ~ン♪」
夜になって。
配信画面には、エプロン姿のミズリーが歌姫メルビスの新曲を口ずさみながら料理をする光景が映し出されていた。
【前にもこんな光景見ましたけど、最高です】
【エプロン姿のミズリーちゃんは天使。これ次の試験に出ます】
【ほんとこの子、何やっても可愛いな】
【明日から仕事なんですが元気出ました。ありがとうございます】
【↑仕事がんばー】
「お待たせミズリー。お酒、買ってきたよ」
「あ、おかえりなさいゴーシュさん、ロコちゃん。お買い物、ありがとうございます。こっちもちょうどできたところです」
この後の晩酌配信に備えて買い出しに出かけていたゴーシュとロコがギルドに戻ってきて、ミズリーが料理をテーブルの上に並べていく。
「おお、良い匂いだね」
「ふふん。ゴーシュさんに教えていただいたキノコ料理、アオミドリタケのバター炒めです! あ、ロコちゃんの採ってくれたものはお鍋にしてありますよー」
「おいしそー。さっすがミズリー」
【親子の帰りを料理で出迎える奥さんかな?】
【↑オレも同じこと思ったw】
【さて、俺も酒の準備準備】
【ワタクシもですわ! ゴーシュのおじ様との晩酌配信に備えて一級品の果実酒を取り寄せましたの!】
【↑気合い入りすぎw】
【いい時代になったもんだ。こうして推しと一緒に酒が飲めるんだから】
【ほんと、配信文化を広めてくれた大賢者様に感謝だなぁ】
【今日は久しぶりにお酒のむぞー】
【ちょっと待って、ロコちゃんが持ってるの何あれ。樽?】
【え? その樽にお酒が入ってるわけじゃないよね?】
【まさかw そんなに飲めるわけ……ないよな?】
【仮に今日の分だとして誰が飲むん? 大剣オジサン、そんなに酒強かったんか?】
始めは思い思いのコメントを流していたリスナーたち。
しかし、怪力自慢のロコが大樽をテーブルの上に乗せると、次第に動揺したコメントへと変わっていった。
「さて、ロコはさすがにジュースだな」
「うん。準備おーけー」
「皆さん、お酒は持ちましたか? あ、未成年の方はジュースですね。それではいきますよー。……乾杯ですっ!」
【かんぱーい!】
【乾杯ですわ~!】
【カンパーイ!】
【乾杯でござる!】
ミズリーが元気よく宣言して、リスナーたちも準備していた酒やジュースに口をつけていく。
そして、配信画面の中にはミズリーが麦酒を一気に飲み干す姿が映し出された。
ゴーシュたちにとっては見慣れた光景だったが、ミズリーの飲みっぷりを初めて見たリスナーたちは慌てふためいた様子を見せる。
【ちょっと待って、ミズリーちゃんの飲みっぷりが凄まじいんだけどw】
【おいおい、それ酒だよね? 大丈夫?】
【いや、めっちゃ美味しそうに飲んでるw】
【泡でヒゲができてるのカワイイw】
【ミズリーちゃん、その可愛さで酒豪なのギャップありすぎw】
【ほんとこの子、底が知れないw】
【というか今更だけどミズリーちゃん成人してたんだなw】
【待って待って、早くも2杯目いこうとしてる】
【2杯目も一気かーい!】
【みんなはあまり無理せず飲みましょう】
【無理だってw こんなペースついていけるかよw】
【同時接続数:178,398】
ゴーシュはリスナーたちが沸き立つ様子を横目で見やり、短く息をついた。
(まあやっぱりこうなるよなぁ……)
自分が初めてミズリーの飲みっぷりを見た時も驚いたものだと、ゴーシュは懐かしい思いに耽りながらチビチビと酒を煽る。
そうして、《黄金の太陽》初の晩酌配信は大盛りあがりを見せ、それが終わる頃にはリスナーたちが「第2弾待ってます!」という文字を打ち込むのだった。