Afterストーリー② 大剣オジサンのヌシ釣り配信
「ゴーシュさん? ゴーシュさんだっ!」
「ほんとだ! ミズリーちゃんもいる!」
「ロコちゃんだー。カワイイ~!」
巨大な魚の影が目撃されたと噂になっているシナルス河の中流にて。
配信をしようとやって来たゴーシュたちだったが、あっという間に大勢の人間に取り囲まれることになった。
黒封石から復活した魔物を討伐したことに対しての称賛や、日頃の配信を見ているというリスナーたちからの声援を受け、ゴーシュはたじろいでしまう。
「さすがししょー。すごい人気」
「はは……。ありがたいことなんだが、ちょっと照れくさいな」
「ふふ。でも嬉しいですね。これだけの人が温かい言葉をかけてくれるのは」
どうやらゴーシュたちに駆け寄ってきた者たちも気を遣ってくれたらしい。
ゴーシュたちが配信を行うために来たのだと知ると、画面に映り込まないよう離れたところから見守ってくれている。
「さて、それじゃ始めるか」
ゴーシュが微精霊との交信を開始すると、すぐに辺りはリスナーたちのコメントで埋め尽くされていった。
【こんにちはー!】
【ゴーシュのおじ様、今日も見に来ましたわー!】
【ヒャッホーイ! 大剣オジサンの配信だ!】
【もう少しモスリフでゆっくりしてきても良かったんやで?】
【うん、今日もミズリーちゃんが可愛い】
【ロコちゃんに癒やされにきました】
【相変わらずの盛況ぶり。すごいでござるな】
【ゴーシュさんチィッス! 今日もイケオジぶり、パネェッス!】
【今日は何やるんだ?】
【見た感じ、これって川?】
【あー、シナルス河か。今話題になってるヌシでも見つけに来たんかな?】
【クックック。今日も楽しみだ】
【同時接続数:79,586】
「どうも皆さん、ゴーシュです。今日も配信を視聴してくださりありがとうございます。今日はですね、このシナルス河にいるという巨大魚を見つけに来ました」
「本日の企画はズバリ、『シナルス河のヌシ釣り配信』ですっ! あ、一応ギルド協会の方にも許可は貰っていますよ」
「でっかいおさかな、わくわく。喰える?」
多くのリスナーが熱視線を送る中、ゴーシュにミズリー、ロコが続き、今回の配信の趣旨を説明していく。
ミズリーがギルド協会の受付嬢アイルから聞いた話によれば、巨大魚は特に昼過ぎの時間帯に姿を見かけることが多いらしい。
巨大魚が現れてから開始すると間に合わない可能性があるため、ミズリーの発案で予め配信をしながら待とうという流れになっている。
「ふっふっふ。噂になっている魚も相当に大きいようですが、私たちにもとっておきがあります。じゃじゃーん! 今日はこんなものを用意してきました!」
ミズリーが意気揚々とリスナーたちの前に持ち上げたのは巨大な竿だった。
長さは背の高いゴーシュの三倍ほどあるだろうか。
まさに大型の魚を釣り上げるための竿といった感じで、コメント欄の興奮度も高まっていく。
ちなみにミズリーが掲げた竿は、ゴーシュたちのスポンサーである高級レストラン《シャルトローゼ》から提供してもらったものである。
巨大魚を釣り上げたら捌いてもらうおまけ付きだ。
まだ巨大魚が現れるという時間までは余裕があるため、それまでは普通の釣りでも楽しみながら過ごすことになった。
***
「ししょー、釣れた?」
「い、いや……」
それから半刻ほどが経過して。
巨大魚が出るまで普通の魚釣りの配信を流していたゴーシュだったが、釣果は未だにゼロだった。
「あはは……。まあ、数時間経っても釣れないこともあるらしいですからね。気長に待ちましょう、ゴーシュさん」
苦笑いを浮かべながらフォローするミズリーだったが、こちらは既に50匹以上の魚を釣り上げている。
ちなみに以前、『レアモンスターを見つけるまで帰れません配信』という企画をやったことがあるのだが、その時ゴーシュは298体目でやっと見つけ、ミズリーの方は3体目で見つけるという結果になっていた。
【大剣オジサン、やっぱり運は悪い模様】
【ミズリーちゃん、それはフォローになってないよw】
【というかミズリー殿が釣りすぎなんではござろうか?】
【同じポイントと餌でどうしてそこまで差が出るんだよw】
【ロコちゃん、さっき手づかみで魚取ってたよなw】
【↑可愛かったよなw】
【ご、ゴーシュのおじ様、ファイトですわ!】
【天に愛されているミズリーさん】
ゴーシュにとっては散々な結果だが、逆にミズリーが釣り上げたり、ロコが魚を捕獲する度にコメント欄は盛り上がりを見せていた。
普通の魚釣り配信ではなかなか見ない光景である。
「ししょー、元気だして。でかいおさかな、釣り上げて『おめーばんかい』しよう」
「ありがとな、ロコ。でも、汚名を挽回するのはマズいな」
ゴーシュとロコがそんな微笑ましいやり取りを交わしている時だった。
幅広い川の中程に、ゆらりと動く影が映ったのだ。
「あ、巨大魚が出ましたよ! ゴーシュさん、こちらを!」
「よし、何とかして釣り上げよう!」
ミズリーが慌てて大型の竿を取り出し、針先に釣った魚を取り付ける。
それをゴーシュは影のいる辺りに投げ入れた。
【きたきた!】
【さて、大剣オジサン、名誉挽回なるか?】
【ってかデカい! あんな大きい魚いるんか!?】
【マジパネェ! あれ釣り上げたら英雄だぜ!】
【さすがに水中じゃいつもの魔物討伐のようにはいかんからなw】
【ゴーシュのおじ様、頑張ってくださいまし!】
【クックック、これは見ものだな】
【同時接続数:119,666】
【同時接続数:180,788】
【同時接続数:227,900】
巨大魚の出現とともに、同接数も一気に増えていく。
そして、ゴーシュが投げ入れた竿が一気に引かれた。
「きた! 喰った!」
それは凄まじい勢いと重量感で、ゴーシュの手にしていた竿が一気にしなる。
まるで暴れまわる大岩を釣り上げようとしているみたいだと、ゴーシュは竿を握る手に力を込めた。
が――。
「うおっ!?」
ボキッ、と。
突然、竿が鈍い音を立てて折れてしまったのだ。
【あっ!】
【あのデカい竿が折れた!?】
【マジかよ……】
【くそ、せっかくヒットしたのに!】
【これじゃあさすがに大剣オジサンでも無理だわな】
【残念ですわ……。でもあんなの反則ですわ!】
竿を折られてはどうしようもない。
期待していたリスナーたちも、これは仕方がないなと、ゴーシュらを励ますコメントを打ち込んでいく。
「あー、逃げられちゃいましたね。でも、この竿で駄目ならしょがないですね」
「デカ魚め、これで勝ったと思うなよ」
ミズリーとロコも落胆の色を見せ、遠ざかっていく巨大な影を眺めていた。
「いや、まだ何とかなるはず」
しかし、ゴーシュはまだ諦めていなかった。
一匹も釣り上げられずに終われるかという思いを胸に、ゴーシュは逃げる影を追って川辺を疾駆する。
「ご、ゴーシュさん!?」
「ししょー、ちょーはやい。でも、追いついてもどうするんだろう」
ミズリーとロコが驚きの声を上げ、走るゴーシュの背中を見つめた。
すると、ゴーシュは背負っていた大剣を手に大きく跳躍してみせる。
「どりゃっ――!」
瞬間、川の水が割れた。
いや、正確には川の水ごと何かが打ち上げられた。
ゴーシュが叩きつけた剣の衝撃で、銀色に輝く魚影が空中を舞ったのである。
巨大魚はどうすることもできず、そのまま対岸の川辺に打ち付けられることとなった。
【ひえーっ!】
【そんなのアリかよw】
【なるほど、これが四神圓源流の魚釣りか……。ってんなワケあるかい!】
【大剣オジサン、本日の釣果、1匹】
【また何ていう規格外なw】
【この人の配信、ほんとに飽きないな】
【川の水を割るとか、さすがでござる】
【竿を折られたなら川の水ごと打ち上げればいい】
【ホントなんなのこの人w】
【巨大魚、ゲットですわ~!】
【同時接続数:319,204】
リスナーたちもその光景に大盛りあがりを見せ、周りにいたレジャー客は引きつった笑みを浮かべている。
「は、はは……。さすがゴーシュさんですね」
「ししょー最強。でもこれって魚釣り?」
ミズリーとロコまでもが呆気にとられており、その視線の先でゴーシュは照れくさそうに頭を掻いていた。





