第57話 場違いな屑はすぐに消える
「ぐっ……!」
「ゴーシュさんっ!」
「ししょー!」
ゴーシュはその攻撃を受け、ミズリーとロコがいる場所まで弾き飛ばされる。
膝をついた形になりながらも、ゴーシュはニーズヘッグから視線を逸らさずにいた。
「だ、大丈夫ですか、ゴーシュさん!?」
「……ああ。何とか剣と《浮体》で凌いだ。しかし、凄まじく重いな……」
「さすがししょー。よく防いだ。でもあのトカゲ、ししょーの一撃を受けたはずなのにどうして……」
ゴーシュたちがニーズヘッグを見やると、まるで攻撃が効いていないようだ。
いや、正確には効いていないというよりも……。
「あれは……、傷を与えた箇所が再生している……?」
ゴーシュがその現象を目の当たりにして呟く。
ニーズへッグの脇腹は、ゴーシュの振るった剣で傷がついていた。
しかし、その部分はニーズヘッグの体表から発されている黒い靄のようなものに包まれたかと思うと、瞬時に修復されていく。
「黒封石に封じられた魔物は魔力を持っている……。とすれば、あれは魔法か何かの一種なんでしょうか?」
「分からん……。しかし、あれは厄介だな」
ゴーシュほどの大剣使いが負わせた傷を瞬時に回復してしまう能力。
それは普通に脅威だった。
「ハーハッハッハァ! ざまぁねえなあ、ゴーシュよ! テメェはここでお終いだ!」
その様子を見ていたアセルスが、勝ち誇った笑いを浮かべる。
魔除けの薬を使用していることから、自身に危害が及ぶことはない。
必然、ニーズへッグの攻撃はゴーシュらに向かう。
そういう安全圏にいるからこそ、アセルスには余裕があった。
【くっそ、アイツ本当にムカつく】
【お前の力じゃないだろ!】
【繰り返しになるけど、竜に踏み潰されないかなコイツ】
【お前が余計なことするから厄介なことになってるんだよ!】
【人を小馬鹿にして、踏みにじって、許せませんわ!】
【大剣オジサンが今に竜を倒すからな! 見てろよ!】
【屑のお手本】
【イキってるとそのうちバチが当たるぞ】
アセルスが高笑いする様子は配信の画面にも映り込み、リスナーたちは激しい非難の声を浴びせていく。
アセルスはそれを意に介した様子もなく、自分のものでもないのにニーズヘッグの力を見て酔いしれているようだ。
一方でニーズヘッグは一際大きな咆哮を放つ。
そして――。
「いいぞ! この調子でやっちま――プギュッ!」
「「「あ……」」」
アセルスの言葉が途中で途切れる。
配信画面には、ニーズへッグの長い尾によって吹き飛ばされるアセルスが映っていた。
ニーズヘッグは鬱陶しい蝿でも払おうと思ったのか、それとも咆哮の後の動作が偶然にもアセルスに命中したのか、それは分からない。
分からないが、アセルスは勢いよく、そして成す術なく飛んでいく。
そしてそのまま壁面に激しく衝突すると、変な体勢で地面に崩れ落ち、気を失った。
【アイツ、吹き飛ばされていったぞw】
【チッ、気絶しただけか】
【そんな所にいるから……】
【ざまぁw】
【マジでざまぁみろ】
【魔除けの薬とはw】
【竜は恐ろしいけど、これはスッキリ】
【あんだけイキってたのにこのザマかよw】
【だからお前が従えてる魔物じゃないんだってw】
【プークスクスw】
【ゴーシュさんは防いでたのに、雲泥の差だな】
【こんなこと思うのあまりよろしくありませんけど、すごく爽快でしたわ】
【ざまぁみろでござる】
【《シャルトローゼ》の時もそうだったが、やはりこの男、詰めが甘い模様】
コメント欄にはそんな声が満ち溢れていた。
ゴーシュたちもその様子を見やりながら、声を漏らす。
「やっぱり因果応報、かな……」
「ニーズヘッグがちょっと尻尾を振ったら飛んでいっちゃいましたね……。偶然当たったのか、それともあの魔除けの薬がニーズヘッグ相手には効果がなかったのか。まあ、どちらでもいいんですが」
「ざまぁみやがれ」
ゴーシュたちはすぐにアセルスから注意を引き戻し、ニーズヘッグと対峙する。
まさに、場違いな屑が退場した瞬間だった。
●あとがき
今回の展開は予想されていた方も多かったみたいですね(笑)
結局厄介なものだけ残して退場していったアセルスですが、次はゴーシュたちの戦闘回です。
ぜひご注目くださいませ。