第56話 強敵、ニーズヘッグ
「さあ、せいぜい足掻いてみせるんだな! ゴーシュよぉ!」
鍾乳洞の奥地にて。
アセルスが封印を解いたことで、そこには巨大な漆黒の竜が現れていた。
――グルガァアアアアアアッ!!!
アセルスの声を受けたわけではないだろうが、黒竜はひときわ大きく咆哮したかと思うと、鋭い眼光をゴーシュたちに向ける。
「漆黒の竜……。そういえば昔、魔物考古学者さんの配信で聞いたことありますね。古代には普通の魔物よりも遥かに大きな、黒い凶暴な竜がいたと。確か、《ニーズヘッグ》と呼ばれていましたが」
「ニーズヘッグ……。それがあの竜の名前か」
「ツノがでっかい。しっぽもでっかい。つばさもめっぽうでっかい。見るからに強そう」
「そうですね、ロコちゃん。でも、臆せずいきましょう」
「がってんしょーち」
ゴーシュたちは互いに頷き合い、黒竜ニーズヘッグと対峙する。
【だだだ大丈夫かな? 確かにゴーシュさんたちが止めてくれないと、とんでもないことになりそうだけど……】
【あんな魔物が山から降りてきたら逃げるしかねえよ……。ゴーシュさん、頼む!】
【逃げようともしない大剣オジサン。だが、それがいい】
【しかしあの竜、これまで大剣オジサンが戦ってきたフレイムドラゴンやクリスタルゴーレムよりも更にでかいぞ】
【確かにこんな魔物、封印するしかないのも納得ですわ……!】
【なんかアセルスが偉そうにしてるのが腹立つ。竜に踏まれて潰れちゃえばいいのに】
【↑オレもまったく同じこと思ってたわ】
【魔除けの薬を使ってるって言ってたが、あの竜に効果あるのか?】
【第一お前の力じゃないだろって感じ】
【どうでもいいさ! 大剣オジサンたちがあの竜を倒しちまえば丸く収まるってもんよ!】
【そうだな!】
【ゴーシュさん、ミズリーちゃん、ロコちゃん、やっちまえ!】
【くっ、応援することしかできないのが歯がゆいでござる!】
【同時接続数:648,007】
【同時接続数:762,298】
【同時接続数:897,568】
同接数も急増し、皆がニーズヘッグを食い止めようとするゴーシュに声援を送っている。
その声を背に受けるようにして、ゴーシュはニーズヘッグを睨めつけた。
(こんな魔物が人里の方へ行ったら、間違いなく大きな被害が出る。絶対にここで食い止めてみせる……!)
ゴーシュはニーズヘッグの挙動を注視しながら、ジリジリと距離を詰める。
ニーズヘッグもまた、目の前にいるゴーシュを脅威と感じ取ったのか、敵意をあらわにしていた。
そして両者睨み合いのような格好が続き――。
「四神圓源流、《紫電一閃》――」
先に動いたのはゴーシュだった。
ニーズヘッグの至近距離まで一足飛びに接近し、先制攻撃を見舞おうと大剣を横薙ぎに払う。
その距離から攻撃を仕掛けられるとは思っていなかったのか、ニーズヘッグは驚いたように短く咆哮し、即座に前足を振り上げて迎撃態勢を取る。
が――、その迎撃よりもゴーシュの人並み外れた速度の方が上だった。
「ハッ――!」
――ゴガァアアア!
瞬速の剣撃がニーズヘッグを捉え、ゴーシュは確かな手応えを感じ取る。
【おぉおおおお!!!】
【捉えたでござる!】
【やったか!?】
【さすが大剣オジサン!】
【黒竜がナンボのもんじゃい!】
【よっしゃぁあああ!】
【ゴーシュさんならやってくれると思ってたぜ!】
【ワタクシもですわ!】
リスナーたちのコメントが歓喜一色に染まり、すれ違いざまに攻撃を放ったゴーシュはニーズヘッグを振り返る。
さしもの巨大竜も、ゴーシュの一撃を食らってはひとたまりもない。
そう、思われた。
「なっ――」
ゴーシュに向け、何かが勢いよく振り下ろされる。
それは今ゴーシュが一太刀を浴びせたはずの、ニーズヘッグの鉤爪だった。