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第55話 大剣オジサン、強敵に立ち向かう


「アセルス……」


 黒封石を探し鍾乳洞を進んだゴーシュたちの先に待っていたのは、《炎天の大蛇》のギルド長、アセルスだった。


 アセルスは何が面白いのか、下卑た笑みを浮かべ、ゴーシュを見据えている。


 その思わぬ人物の登場に、ゴーシュたちの配信を見ているリスナーたちもざわついていた。


【おい、あれって前ゴーシュさんにボコされたアセルスって奴じゃねえか?】

【あの《シャルトローゼ》で騒ぎを起こした奴か。何でアイツがここに来てるんだ?】

【なんかケタケタ笑ってて気持ち悪いですわ】

【さっき大剣オジサンに恨みを晴らさせてもらうとか言ってなかったか?】


【もしかして大剣オジサンにやられたのを根に持って邪魔しに来たってこと?】

【いやいや、逆恨みもいいところだろ】

【クックック。見下げ果てた奴だ】

【と言ってもあんな輩がゴーシュ殿に敵うでござろうか? また返り討ちにされるのが関の山なのでは?】


「どうしてあのチャラチャラ横暴最っ低ギルド長さんがここに? というか、あの横にあるのが黒封石じゃないですか?」

「ミズリー、たぶん正解。あの黒い石から変な匂いがプンプンする」


 ミズリーとロコが言って、離れた位置にいるアセルスと、その横にある巨大な黒い石を見やる。


 そこにあったのは、まさに書物に描かれていたものと同じ――古代の凶悪な魔物を封じているとされる、黒封石だった。


 黒封石には鍾乳洞から湧き出た水が(したた)っており、その水がゴーシュたちの辿ってきた方へと流れている。


 そうして長年に渡り水の侵食を受けたからだろう。

 黒封石は上部が変形し、所々にヒビのようなものも見て取れる。


「アセルス。何故お前がここに?」

「はんっ。さっきも言っただろうが。お前に恨みを晴らすためだよ、ゴーシュ」

「恨み……?」

「テメェのせいで俺のギルドは崩壊状態になっちまった。多額の賠償金まで払うハメになって、得意先の商会からも契約を打ち切られてな!」

「いやいや、全部自業自得じゃないですか。ゴーシュさんのせいでも何でもないですよね?」

「ししょー。あのえらそーなヤツ、ぶっとばしてもいい?」


 アセルスの勝手な言い分にミズリーとロコがもっともな指摘を入れ、それはリスナーたちもまったくの同意見だった


【なに言ってるんだアイツ?】

【さすが迷惑系配信者。思考回路が色々とおかしい】

【ミズリーちゃんの言う通り自業自得じゃねえか!】


【自分の思い通りにいかなかったから他人のせいにしてきたんでござろうな。悲しい男でござる】

【最っ低ですわ!】

【まあでもああいう輩っているよな。自分を棚に上げて無理やり人のせいにする奴】

【↑わかる。ウチの上司がそれだわ。って言ってもあそこまでじゃないけど】

【みんなに叩かれてて草。でも、そりゃそうなるよな】


 そんなコメントが流れ、アセルスの目にも留まったが、当の本人は動じる素振りを見せない。

 それどころか、アセルスはそんな状況を心地いいとすら感じているようだ。


 今のアセルスは全てを失ったと自覚しており、だからこそ、失うもののない人間としての行動原理を持つに至っていた。


「はっ。何とでも言え、クソリスナーども。俺はゴーシュへの復讐が果たせりゃもう何でも良いんだよ」

「アセルス、お前まさか……」

「クックック。聞いたぜゴーシュよ。テメェはこの黒い石を保護しに来たんだろ? めちゃくちゃに強力な魔物を封じ込めてるってこの石をな。だから……、こうしてやるんだよォッ!」

「――っ」


 アセルスが突如、取り出した剣の柄で黒封石を叩く。


 本来であれば多少の衝撃では破壊できない代物だが、そこにあるのは生憎と水の侵食で劣化した黒封石だ。


 アセルスの加えた一撃が決定打となり、ピシピシと音を立てて崩壊していく。


【何やってんだお前ぇ!?】

【おいおいおいおい】

【はぁ!? 馬鹿なのコイツ!】

【めちゃくちゃ強い魔物を封印してるって言ってただろうが!】


【やだ……無敵の人、怖い……】

【え? は? あれ割れたらマズいんじゃないの?】

【空気読めないどころの話じゃない】

【悲報。逆恨み男、古代の魔物を復活させる】


【ヤバいですよ!】

【ミズリーちゃんたち逃げてー!】

【もしかすると魔物が里の方まで降りてくるかもしれません! モスリフの近くに住んでいる人は急いで避難してください!】


 アセルスの凶行にリスナーたちも慌てふためき、コメント欄は阿鼻叫喚の図となる。

 対してアセルスは目的を果たせたとでもいうかのように、場違いな高笑いをしていた。


「な、何してるんですか! そんなことしたらあなただって――!」

「クックック。そいつはどうかねえ?」


 ミズリーの放った言葉にアセルスは余裕の表情を浮かべる。

 その手には、紫色の液体が入った小瓶があった。


 アセルスはその瓶を開けて中身を飲み干す。


「あれは……。魔除けの薬か?」

「フフフ。そうさゴーシュ。ここに来る前、かっぱらって来たんだよ。これで復活した魔物はテメェらだけを襲うって寸法だ。どうだ、名案だろう?」


 なるほど、この鍾乳洞に来るまでの大量の魔物をどうやって(しの)いできたのかと腑に落ちなかったがそういうことかと、ゴーシュは合点がいく。


「さぁて、強靭凶悪な魔物様のお目覚めだ! 仲良く蹂躙される様子を大勢のリスナーたちに見てもらえや、ゴーシュ!」


 アセルスが勝ち誇ったように言って、黒封石が大きな音と共に崩壊する。


 その中から姿を現したのは、漆黒の竜だった。


 ――グガォアアアアアアア!!!


 漆黒の竜の体躯は広い鍾乳洞の天井にも届き得るほどに巨大。

 永きに渡って封印されていた鬱憤を晴らすかのように尾を振り回し、近くにあった壁面を破壊していた。


「カカカッ! こいつは壮観だ! お前がやられる様が今から楽しみだ!」


 嘲笑を向けてくるアセルスには取り合わず、ゴーシュは大剣を眼前に構える。

 ゴーシュはそのまま対象から目を逸らさず、隣にいた二人の仲間に声をかけた。


「ミズリー、ロコ。協力してくれるか?」

「ええ。聞かれるまでもありませんよ、ゴーシュさん」

「巨大トカゲめ。せいばいいたす」


 ミズリーとロコがゴーシュの声に応じ、現れた敵に対し臨戦態勢を取る。


 そんな強敵に立ち向かおうとするゴーシュたちの姿が、世界中に配信されていた。



 世界が伝説を目撃するまで、あと僅か――。


●あとがき

第1話の最後の一文がここに繋がってきます。

ぜひ今後の展開もお楽しみいただけますと幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 古代の強力な魔物に現代の弱い魔物様に作られた魔除けが効きますかねぇ?
[一言] 魔除けがあってもマップ攻撃だったら死ぬんじゃね?
[一言] そもそもそんな魔除けの薬が効くのやら
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