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第52話 始まりの地にて


「おぉー。久しぶりですね、モスリフ!」

「ししょーのこきょー。わくわく」


 夕暮れ迫る時間帯――。


 ゴーシュたちはギルド協会に準備してもらった馬車に揺られ、王都グラハムからモスリフの地へとやって来ていた。


 ミズリーとロコは馬車の外を眺め、目的地が近づいてきたことに興奮気味の様子だ。

 いや、目的地というよりもゴーシュの生まれ故郷が近づいてきたことに対してかもしれないが。


「約1ヶ月ぶりか。そんなに経っていないのに何だか懐かしい気がするな」

「ふふふ。私とおんなじですね」


 ミズリーは馬車の窓から顔を離して座り直すと、ゴーシュの隣で柔らかく笑っていた。


(半年前にモスリフに向かう馬車の中では一人だったな。解雇されて、それで、意気消沈していたっけ……)


 一年も経っていないことなのに感傷に浸るなんていよいよ歳かもなと、ゴーシュは自嘲気味な笑みを浮かべる。


 そして、ミズリーとロコと共に乗っている馬車の揺れをどこか心地よく感じていた。


   ***


「おう、ゴーシュ。来てくれたか」


 馬車から降りてモスリフの村の入り口まで来ると、そこにはロイが立っていた。

 どうやらゴーシュたちの到着を待ってくれていたらしい。


「久しぶりだな、ロイ。また会えて嬉しいよ」

「へっ。こっちの台詞だぜ」


 ロイが言って、久々の再会を果たしたゴーシュの胸を拳で軽く叩いた。


「ロイさん、お久しぶりです!」

「おお。ミズリーさんも久しぶりだなぁ。どうだい? ゴーシュとは上手くやってるかい?」

「はいっ! ゴーシュさんはとっても良くしてくれていますので! 配信だけじゃなく、夜も付き合ってくれて、本当に毎日充実しています!」

「そ、そうか……」


 夜のお酒にも付き合ってくれて、というのが正しいのだが、ミズリーが微妙にすっ飛ばした発言をしたせいでまたロイに誤解を与えてしまったようだ。

 引きつった笑いを浮かべていたロイに、続けてロコが声をかける。


「ししょーの友だちのおっさん、こんちは」

「お、おぅ。ロコちゃん、だったな。配信見て知ってるよ」


 ロコからは辛辣な言葉で挨拶され、ロイの表情はますます苦いものになった。


 そんな友人を不憫に思い、ゴーシュは話題を切り替えることにする。


「ところでロイ。あれから目立った変化はないか?」

「おう。相変わらず魔物はよく出るが、何とか村の奴らと協力して対処できてるな。といっても、このままだとマズそうだが……」

「へー。ロイのおっさんって強いんだね」


 ロコにまたもおっさん呼ばわりされ、ガクリと肩を落とすロイ。

 が、まあ確かに幼いロコからしてみればおっさんかと、切り替えて応じる。


「強いつってもゴーシュには全然及ばんがな。俺も村の奴らも、魔物に太刀打ちできるようになったのはゴーシュに色々と教えてもらったからだし。あの《四神圓源流》とやらはできんけど」

「おおー、さすがししょー」

「ああ。ほんとコイツはバケモンだからな」


 自分が師事しているゴーシュの凄さが認められていることに嬉しくなったのか、ロコが尻尾をパタパタと振りながら目を輝かせる。

 その流れに乗って、ミズリーもかねてよりゴーシュに掛け合っていたことを切り出すことにした。


「改めて思いますけど、ゴーシュさんって本当に影響力が凄いですね。やっぱりこれは《四神圓源流》の講座配信をやってもらうしかないですね! リスナーさんたちからも圧倒的に要望が多い配信の企画ですし!」

「いや、さすがにヤギリ老師が解説していたものを俺が、というのもおこがましいよ。というか恐れ多い……」

「でも、おじいちゃんはやってほしいって言ってたよ? というか、はよやれって言ってた」

「え、そうなの?」

「ほらほら。ヤギリさんからも公認のようですし、やるしかないですよ」

「う……、む。考えておく……」


 逃げ道を塞がれゴーシュが観念すると、ミズリーはぱぁっと笑顔をはじけさせる。


「ハッハッハ。すっかり有名配信者になっちまったな、ゴーシュよ。このままいけば世界一の配信者になれるんじゃないか?」

「……いや、まだまだだよ。大勢のリスナーたちに見てもらえているのもミズリーやロコの協力あってのものだ」


 ゴーシュのそれは謙遜ではなく、自らを卑下してのものでもない。

 本心から出た言葉だった。


 それに、自分を変えてくれた歌姫メルビスのこともある。


 まだまだ数字の上でも彼女には及んでいないと、そして、ゴーシュは更に上を目指したいとも思っていた。


「くっくっく。本当に良い顔するようになったな」


 そんなゴーシュを見てロイが嬉しそうに笑う。

 その顔は友人の変化を心から喜んでいるように見えた。


「と、そういえばゴーシュが注意喚起で配信していた黒封石のことだが、あれは明日保護しに向かうんだったよな?」

「そのつもりだ。《シナルス河》の上流は深い森の中だし、陽も落ちてから進むには危険だろうしな」


 ゴーシュが答え、ロイも頷く。


「なら、しっかりと準備していくんだな。お前の家も掃除しておいたし、泊まるにはちょうどいいだろう」

「すまないな、ロイ。恩に着る」

「いいってことよ。その代わり、事が終わったら酒でも飲もうや。お前の畑の野菜ももう収穫できる頃合いだし、いい肉もあるからな。皆で一緒にバーベキューでもやろうぜ」

「おお、ばーべきゅー」

「私、モスリフのお酒、興味あります!」

「お? ミズリーさんも飲めるのか。そいつは楽しみだな」


(ロイの奴、ミズリーの酒豪っぷりを知ったら驚くだろうな……)


 呑気な笑顔を浮かべているロイに、ゴーシュは頬を掻きつつ苦笑した。


 しばらくすると、来訪に気づいた村の者たちが押しかけてくる。


 そうして、ゴーシュたちは日々の配信の称賛や、今回の魔物多発化への対処に関して期待を寄せられ、慌ただしい凱旋となるのだった。


   ***


「う、む……」


 深夜――。


 明日の黒封石の保護に向けての緊張からか、ゴーシュは目を覚ます。


 寝ていたソファーから身体を起こし、ベッドの方を見やるとミズリーとロコが穏やかな寝息を立てていた。

 若干、ミズリーの抱き枕化しているロコが寝苦しそうではあるが……。


「……ちょっと、歩いてくるかな」


 そのままでは寝付けそうになかったので、ゴーシュは外に出ることにした。


 二人を起こさないようにしつつ、ゴーシュはそっと部屋を抜け出し、扉を閉める。


 そして少し時間が経って――。


「あれ……? ゴーシュさん?」


 目を覚ましたミズリーがゴーシュの不在に気づき、もぞりとベッドの上に身を起こした。



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