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第49話 危機への対処と、荒れる男


「失礼いたします」

「おお。お待ちしておりました、皆さん」


 王都グラハムのギルド協会にて。


 緊急の報せを受けたゴーシュたちは、その日の内にギルド協会長ケイトの執務室を訪れていた。

 今日は執務室の中にいたのはケイトのみで、メルビスは来ていないらしい。


「それで、ケイトさん。《シナルス河》の調査について判明したことというのは?」

「はい。早速で申し訳ありませんが、こちらをご覧いただきたいのです」


 挨拶を早々に済ませ、ケイトが差し出してきたのは一冊の書物だ。

 どうやらかなり古い書物のようで、背の部分を始めとしてところどころ剥がれ落ちている。


(配信文化が根付いた現代で書物というのも珍しいな……)


 ゴーシュはそのようなことを考えながら、ミズリーやロコと一緒に開かれた本を覗き込む。

 そこに書かれていたのは黒い石の絵だった。


「んーと? 《こくふーせき》?」


 文字を読み上げたロコに向けてケイトが頷く。

 聞いたことがない石の名前だなと思いつつ、ゴーシュはケイトに視線を送った。


「《黒封石》――。それがここに描かれている石の名前です。この世界に配信文化が広まる前の代物だとされているため、書物でしか見つけることができなかったのですが」

「その黒封石というのが何か?」

「はい。《シナルス河》に異変がないか、調査を行っていたことはご存知かと思います。そして、解析方法の詳細については割愛しますが、河の水からこの《黒封石》の成分が発見されたのです」

「なるほど。それで、黒封石というのは……」

「この本によれば、『魔力を持つ魔物を封じるための石』とされています」

「え……?」


 ケイトは神妙な面持ちになってゴーシュらを見回す。

 そして座り直して姿勢を正すと、言葉を続けた。


「かつて時の大賢者様がこの世界に配信文化を広めるよりもずっと前のこと。この世界には魔力を持つ魔物が跋扈(ばっこ)していたと言います。魔力を持った魔物は現代の魔物よりも遥かに強かったとも」

「それ、私もおじいちゃんから聞いたことがある」

「そうなんですか? ロコちゃん」

「うん。獣人族の間では悪い子を叱る時によく使われる。早く寝ないと昔のちょーこわい魔物が出てきて食べられちゃうぞー、って」


 ロコがやけに実感のこもった声で呟き、獣耳をピクピクと反応させる。

 その様子に少しだけ場の空気が和むが、やはり全員今は黒封石のことが気になるようで、再び開かれた本に目を落としていた。


「この本には、強大な魔力を持つ魔物に対抗するため人々は黒封石を用い、各地の魔物を封じるために一致団結したとあります。もしかすると今この世界に国家間での争いがないのは、そういう理由があるのかもしれませんね」


 ケイトは一旦言葉を切り、そして続ける。


「とにかく、黒封石というのはそういった危険な魔物を封じるための石だということです。よほど凶悪な魔物を封じている石だと考えていいでしょう」

「ふむ……。しかし、《シナルス河》にその黒封石の成分が含まれていたとなると……」

「ゴーシュさんの考えている通りだと思います。恐らく、《シナルス河》の上流に黒封石があるのでしょう」


「あれ? でもそうなると魔物の多発化とどう関係してくるんでしょうか?」

「これは推測になりますが、凶悪な魔物を封じている黒封石に何らかの異常が発生しているのだと思います。そしてそれが《シナルス河》の上流にあり、封じられている魔物の魔力が流れ出しているのではないかと」

「ま、まさか、黒封石に封じられた魔物が復活しちゃってたり?」

「いえ、恐らくそれはないでしょう。もしそうなっていればもっと何かしらの騒ぎが起きていてもおかしくありません。もっとも、このまま異常を放置すれば分かりませんが……」

「協会長さんってば、また怖いことを……」


 ケイトが答えた言葉に、ミズリーは引きつった表情を浮かべていた。


(なるほど。となるとロイが言っていた、モスリフの地で俺の農地の作物が異常に成長が早いというのもその流れ出した魔力が原因なのかも。いずれにせよ、《シナルス河》の上流にあるであろう黒封石に何かしらの対処が必要ということになるな……)


 ゴーシュはそこまで考えたところで、顔を上げてケイトにある申し出をする。


「ケイトさん。その黒封石の調査と対処、俺たちにやらせてもらえませんか?」

「……ありがとうございます。実は、本日ゴーシュさんたちをお呼びしたのは、それをお願いするためでもあったのです。皆さんが声を上げてくださるのであれば、これほど心強いことはありません」

「黒封石をこのまま放置したら、凶悪な魔物が復活しちゃうかもしれないってことですもんね。やりましょう、ゴーシュさん!」

「ふふん。ししょーと私たちにおまかせあれ」


 ミズリーにロコも続き、ゴーシュたちは互いに頷き合う。

 それぞれの表情に恐れはなく、決意に満ち溢れていた。


「ゴーシュさんたちにお願いしたいことは二つ。黒封石の現状の確認と、《シナルス河》の上流からの移動です。その応急措置が取れれば、後日運搬と保管のための部隊を結成し、より安全な場所で管理することができるでしょう」

「分かりました」

「《シナルス河》の源流はモスリフから近い。ですから、一度モスリフを経由して向かわれるのが良いでしょう」

「そうですね。その辺の地域なら土地勘もありますし。それじゃあ、早速出発の準備を――」

「あ、ゴーシュさん」


 ゴーシュが席を立とうとしたところでケイトから声がかかる。

 そして、かけられたのは意外な申し出だった。


「今回の黒封石の調査についてなのですが、その様子をぜひ配信していただきたいのです」

「配信を? それは構いませんが、何故?」

「黒封石というのは《シナルス河》の上流以外にも存在している可能性が高いです。もし今後同じようなことが起こった時のため、なるべく映像的な資料として残しておいた方が良いと思うのです。また、多くの人に対する周知ができれば、黒封石の理解を広めることにも繋がり予防にもなるかと思います」

「なるほど……。確かにそうですね。分かりました。黒封石の調査については配信を繋いだ状況で行うことにします」

「はい。よろしくお願い致します。それから――」


 ケイトは席を立ち、ゴーシュたちに対して頭を下げる。

 それは、危機に立ち向かう者たちに対する辞儀だった。


「今回の一件、ゴーシュさんたちのギルド以上の適任はいないと思っています。引き受けてくださったことに対して、最大限の感謝を――」


 そうして、ゴーシュたちは《シナルス河》の上流、まずはモスリフに向けて出発することになった。


   ***


 一方その頃――。


「畜生……。ゴーシュの野郎……」


 ギルド《炎天の大蛇》にて。


「全部……。全部アイツのせいだ。アイツがいなけりゃもっと上手くいってたんだ……。クソッ!」


 酒瓶を片手に声を荒げる男――アセルス・ロービッシュの姿があった。



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