第48話 そして事態は急転する
「こんにちは、ゴーシュさん。またお会いできて嬉しいです」
ギルド協会長の執務室にて。
部屋の中に入ったゴーシュの目の前に現れたのはメルビスだった。
メルビスが差し出してきた手を握り、ゴーシュは困惑した表情を浮かべる。
「どうしてメルビスがギルド協会に?」
「私がお呼びしたのです」
メルビスに向いていた皆の意識を引き寄せたのは、奥にいた利発そうな男性だ。
歳はゴーシュよりも少し若いくらいだろうか。
柔和な笑みを浮かべるその様からは人の良さが窺えた。
「と、申し遅れました。王都グラハムのギルド協会長を務めさせていただいていおります、ケイト・アルマンと申します」
ケイトと名乗ったその男性は、ゴーシュたちに向けて深々と腰を折る。
ゴーシュたちもケイトに倣い、一人ずつ挨拶を交わしたところでソファーに座るよう促された。
「改めて、ゴーシュさん、ミズリーさん、ロコさん。本日はお会いできて光栄です」
「ケイトさんは俺たちのことを知っているんですか?」
「ええ、もちろん。日頃から皆さんの配信を視聴しておりますからね。とても楽しく拝見させてもらっています」
「おお、協会長さんも見てくれているんですね! ありがとうございます!」
「ふふん。私たち、ゆーめーじん」
ミズリーとロコが嬉しそうな反応を見せる。
(なるほど。今のギルドは配信を生業にしているところも多いからな。所属するギルドの配信のチェックという意味合いもあるんだろうが、見てくれているのは嬉しいものだな)
ゴーシュはそのように考え、軽く咳払いを挟む。
そして、ソファーに座り直し、ケイトに対し本題を切り出すことにした。
「本日はご報告したいことがありまして協会に来たんですが」
「ええ。先程、受付嬢のアイルからも簡単に聞いております。何でも、魔物の多発化について思い当たることがあるのだとか」
「はい。昨日、モスリフの地にいる友人から連絡を受けまして――」
ゴーシュが昨夜のロイとの話も混じえ、《シナルス河》に何か異変が起きているかもしれないという仮説を語っていく。
「なるほど……。魔物の頻出や突発がある地域には、《シナルス河》に近いという共通点がある、ですか。気になりますね」
ケイトは顎に手を当て、ゴーシュの語った内容を頭の中で整理していた。
すると、少し時間が経った後で今度はケイトがゴーシュたちに切り出す。
「実は、最近の魔物の多発化については私も気になっていたのです。そして、それこそがメルビスさんをお呼びしていた理由でもあります」
「え?」
「魔物の多発化についてはギルド協会の方でも警告をしていますが、まだまだ周知が足りていない状況です。街道から少し外れた場所でピクニックを楽しんでいたら、魔物に遭遇してしまったという話も聞きます。そこで、多くの注目を集めている配信者の方に協力をお願いし、注意喚起してもらうのが良いのではないかという結論に至ったのです」
「ああ、なるほど。それでメルビスに?」
ゴーシュの斜め向かいに座っている
「私はゴーシュさんや他の冒険者さんたちみたいに剣を振ることはできませんからね。歌の配信をする前後など、リスナーの方たちに呼びかけをすれば多少は効果があるでしょうし。こういった形で少しでもお力になれればと」
「そうか。メルビスらしいな」
「ふふ。配信でお役に立てるなら何よりですから」
歌唱をしている時とは異なる雰囲気で微笑むメルビスを見て、ゴーシュは思う。
(本当に、メルビスらしいな)
鬱屈した日々を送っていた自分に光を見せてくれた人物。
配信で人を笑顔にしたいと、そう思わせてくれた人物。
ゴーシュにとっては、だからメルビスの想いが嬉しかった。
と同時に、献身的であり続ける歌姫にゴーシュは尊敬の念を抱いていた。
「でも、《しるなすがわ》? 《しすなるがわ》? の方はどうするの?」
「《シナルス河》ですね、ロコちゃん。確かに、そっちが今は気になりますね」
「ああ。起こっていることへの対処はメルビスが協力してくれるとしても、原因を究明したいところだな」
「それについては、ギルド協会の方にお任せいただければと。解析の魔法が得意な方にお願いすれば、水質などから何かが分かるかもしれません」
ゴーシュたちのやり取りをケイトが引き継ぎ、今後の対応について方向性を定める。
「結果が分かったら皆さんにも報告します。この度は情報の提供、本当にありがとうございます」
そうして、その日はメルビスとも別れ、ゴーシュたちは一旦ギルドに戻り、ケイトからの報告を待つことにした。
――その三日後。
昼食を終えて団らんしていたゴーシュたちの元へ、ケイトから微精霊を介した交信連絡が届く。
そして――。
「ゴーシュさん。《シナルス河》の調査に関して、恐ろしいことが判明しました。すみませんが、至急ギルド協会の方に来ていただけますか?」
ケイトはゴーシュに対し、慌てた様子で告げたのだった。