第47話 久しぶりの再会
「ふぅ。ここに来るのも久しぶりだな」
ロイと話をした翌日。
ゴーシュはミズリーとロコを連れて王都グラハムのギルド協会へとやって来ていた。
最近の魔物の多発化、そしてロイと話して立てられた仮説――《シナルス河》に何か異変が起きているのではないかという件について報告するためである。
「ゴーシュさんと一緒にギルドを立ち上げる手続きをした時以来ですね。ふふ、1ヶ月くらいしか経っていないのに、何だか懐かしいです」
「でっけー建物」
ミズリーが昔を懐かしむように笑い、ロコがギルド協会の建物を見ながら呟いていた。
***
「あ、ゴーシュさんじゃないですか! お久しぶりでっす!」
ゴーシュたちがギルド協会の建物内に入ると、すぐにそんな声が響いた。
カウンター向こうで元気の良い笑顔を弾けさせたのは、受付嬢のアイルである。
アイルのその声でざわつき始めたのは、普段からゴーシュらの配信を見ている者たちだろう。
遠巻きに羨望と尊敬の眼差しを向け、ひそひそと何かを語り合っていた。
「やあアイルさん。こんにちは」
「もー、私のことは呼び捨てで良いって言ったじゃないですか」
「そ、そうだったな」
アイルの勢いに押されてゴーシュは思わず引きつった笑いを浮かべる。
「そういえば、アイルのおかげで助かってるよ。ありがとうな、あんなに良いギルド物件を紹介してくれて」
「いえいえいえ、受付嬢としてお役に立てて嬉しいでっす。というか、私の見る目は間違っていなかったですね。いやぁ、見てますよゴーシュさんたちの配信。すごく楽しませてもらってます!」
「ふふ。相変わらずお元気そうで何よりです、アイルさん」
「ミズリーさんもこんにちは! ミズリーさんはこの前会ったばっかりですけど」
「そうですね。またぜひお茶しに行きましょう」
「ぜひっ!」
アイルはミズリーに対してはくだけた感じで挨拶をする。
この二人は度々プライベートでも一緒にお茶を飲みに出かける仲であり、微笑ましいことだなとゴーシュは思った。
「はじめまして」
「あ、あ~! 本物のロコちゃんだ! 可愛い~!」
アイルはロコの姿を認めると、まるでお気に入りの靴を露店で見つけたかのような喜びを爆発させる。
恐らくカウンターに阻まれていなければロコを抱きしめていたに違いない。
そのあまりの勢いにゴーシュもミズリーも乾いた笑いを浮かべていた。
「ミズリーさん、今度お茶行く時ロコちゃんも一緒に連れてきてくださいよ」
「はは、そうですね。ロコちゃんが良ければ」
「ところでアイル、今日は報告をしたくてここに来たんだが」
「あ、しまった。つい皆さんに会えてテンションが上っちゃってました。気を取り直して、どのようなご報告ですか?」
「実はな――」
受付嬢モードに切り替わったアイルに向けて、ゴーシュは魔物多発化の件に関して話していく。
話を聞き終えたアイルは難しい顔になり、メモを取るために走らせていたペンを止めた。
「うぅむ、気になる話ですね。というより、もっと上の人に相談した方が良い案件な気がします。ちょっと待っていてくださいね」
アイルはそう言い残してスタスタと二階に上がり、ある部屋の中へと消えていった。
恐らく上司の部屋だろうなと思いつつ、ゴーシュたちはカウンター前で待つことにする。
そして、程なくしてアイルがゴーシュたちの元へと戻って来たのだが、何故か興奮気味の様子だった。
「と、と、とんでもない人がいました。サインでも貰っておけば良かったかな」
「アイル?」
「あ、す、すみませんお待たせして。え……と、今ギルド協会長の方に報告しに行ったんですが、皆さんの話を直接聞きたいそうで。ですので、今私が出てきた部屋に向かってもらえますか? あと、一人来客がいたんですけど、その人も同席するとのことでっす」
「……? あ、ああ、分かった。とりあえずその部屋に行ってみるよ」
「じ、じゃあよろしくお願いします」
落ち着きがないアイルの様子に怪訝な顔を浮かべながらも、ゴーシュたちは二階にあるというギルド協会長の執務室へと向かうことにする。
「失礼します」
「ああ、お入りください」
声が返ってきて、ゴーシュは扉を開ける。
中に入ると、ギルド協会長と思わしき男性の姿。
そしてその男性の斜め横のソファーに座っていた一人の人物が目に留まる。
「ふふ、お久しぶり」
「え……?」
「お、お姉ちゃん?」
それは、ミズリーの姉であり、現配信業界のトップと評される稀代の歌姫――メルビス・アローニャの姿だった。