第46話 報せと、ある気づき
「ロイか。久しぶりだな」
夜――。
交信魔法で連絡をしてきたのは、ゴーシュが田舎モスリフの地にいる頃からの友人ロイだった。
引き継いでもらった農地についての質問だろうかとゴーシュは考えたが、こんな夜に連絡を寄越してくるというのも妙である。
「ほんと久しぶりだな。ミズリーさんとは相変わらず上手くやってるか?」
「ああ。おかげさまで配信の方も順調だ。今は食器を洗ってもらっているよ」
「くっ、新婚さんかよ。……ってまあそれはいい。今日はお前に知らせておきたいことがあってな」
「知らせておきたいこと?」
ゴーシュが聞き返してロイは少し真剣な表情になる。
「ゴーシュがモスリフを出ていく時に引き継いだあの農地なんだがな。何か変なんだよ」
「変、とは?」
「これを言えば元農家のお前には分かる話だと思うんだが、作物の育ちが異常なんだ。それこそ、もう収穫できるんじゃないかってくらいでな」
「え? まだ雨季の前なのにか?」
「ああ」
ゴーシュはロイの言葉に目を見開く。
ゴーシュが元々育てていた作物は、基本的にこの後に来る雨季を経て収穫期を迎えるものが大半だった。
しかし、農地を引き継いだロイの話によれば、もうほとんどの作物が収穫できるほどに実っているのだという。
「それから、そんな作物に釣られて来るのか、魔物の数も多い。まあ、こっちは村の奴らも協力してくれてるし、ゴーシュが前に基礎を教えてくれた《四神圓源流》だっけか? あれのおかげで何とか駆除できちゃいるんだが」
「魔物の数が多い、か……」
ゴーシュはすぐに、最近身の回りで起きている魔物の異常発生について思い当たった。
そして、その話をロイにも共有する。
「実は最近王都の周辺でも魔物が大量に現れたり、普通この地域じゃ見かけない魔物を見るようになってな。何か関係しているんだろうか?」
「つっても、ここと王都じゃ結構距離あるけどな。……いや、待てよ。ゴーシュ、その魔物の異常発生があったのってどの辺りだ?」
「《青水晶の洞窟》や《ラグーナ森林》、後は王都近くの丘陵地帯とかだな」
「ふぅむ……」
ゴーシュが挙げた土地の名前を聞いて、ロイはそれらの場所を一つ一つ思い浮かべる。
「あー、やっぱりそうかもなぁ」
「何だ、何か気づいたか?」
「たぶんだけどな。……なあ、ゴーシュ。モスリフの農地とお前が今挙げた場所とで共通していることって何だと思う?」
「共通していること……。あ、《シナルス河》か」
ゴーシュはポンと手を叩き、ある河の名前を口にした。
《シナルス河》とは、モスリフと王都グラハムを通る広大な河川である。
その豊富な水量から、《シナルス河》の周辺は農業を行うのに適した土地だとされてきたのだが、今考えるべきことは別にあった。
「となると、《シナルス河》が魔物の異常発生に何らかの影響を与えている?」
「恐らくな」
そういえば、自分がモスリフの地で駆除したフレイムドラゴンも、最近になって現れた新種の魔物だったなと、ゴーシュは思い当たる。
「そうか……。詳しく調べてみる必要があるな。明日、ギルド協会や冒険者協会にも報告するつもりだったから、ちょうど良い」
「ああ。そうした方がいいな。何か分かったらこっちにも教えてくれると助かる」
「分かった。連絡、感謝するよ」
ゴーシュは画面越しのロイに向けてしっかりと頷く。
ロイもまた頷き返し、その後で、柔らかい笑みを浮かべた。
「どうした? ロイ」
「いや、なんか以前にも増して、良い顔するようになったなって思ってさ。お前、変わったと思うぞ」
「そうか?」
「はっはっは。何より何より。ま、こっち来ることがあったらまた一杯やろうや。伝説の大剣オジサンの話も聞きてえしな」
「あのな……」
ロイがからかってきてゴーシュは溜息を漏らす。
(変わった、か。不思議と悪い気はしないな……。でも、俺が変われたのは、きっと……)
ゴーシュが後ろを振り返ると、そこには鼻歌混じりで食器を洗うミズリーの姿がある。
「……」
そうしてふと、ゴーシュは自分が自然と笑みを浮かべていることに気づいたのだった。