第45話 耐久配信の成功、そして――
「これで487体目、ですっ!」
「おおー。ミズリーすごい」
王都グラハムの外れにある丘陵地帯――。
その場所でゴーシュたちは本日の配信を行っていた。
今回の配信の概要は、ミズリー立案の「魔物500体を倒すまで帰れません!」という企画である。
動画配信オタクの顔も持つミズリーによれば、昨今の配信業界ではこういった「耐久配信」なるものが人気ジャンルの一つということなのだが……。
【いやいやいや、ミズリーちゃんたち凄すぎぃ!】
【この手の耐久配信って50とかが普通なんですけどね……】
【討伐メーター、大剣オジサン:305、ミズリーちゃん:112、ロコちゃん:70】
【↑だからオカシイってw】
【ミズリー殿は素早い魔物が得意、ロコ殿は大型の魔物が得意のようでござるな。そしてゴーシュ殿はどっちでもいけると。しかし、それぞれが規格外すぎるでござる】
【ござるの言う通りだわ】
【耐久配信がただの無双配信でワロタw】
【A級冒険者のシグルド・ベイクだ。ウチの配信ギルドでもこの前耐久配信やったんだがな、その時は70が限度だったぜ。ギルドメンバー8人いるけどな!】
【ワケガワカラナイヨ】
【同時接続数:287,890】
ここのところ、ゴーシュたちのギルド《黄金の太陽》の同時接続数は右肩上がりとなっていた。
日に日にファン登録者数も増え、飛ぶ鳥を落とす勢いである。
「よし、これで499体だ。最後は……ロコの方だな」
「ロコちゃん決めちゃってください!」
「よし、ばっちこい」
ロコが独特な掛け声を発して腰を落とす。
そして向かってくる危険度B級の大型魔物、ワイルドボアの突進に対して正拳突きをお見舞いした。
――ブゴォオオオオオ!
「ふっ。ざまみろ、てやんでい」
ワイルドボアが地面にどしんと倒れ込み、ロコの一撃が500体討伐企画の締めくくりとなった。
【500体討伐おめ!】
【まだ始まって2時間くらいしか経っていないんですが……】
【ロコさんカッコいいですわ!】
【だからロコちゃんのその変な掛け声はなんなのw】
【クセになる可愛さ】
【カッコいい、可愛い、強い、面白い。三拍子揃った怪物ギルド】
【↑四拍子じゃねえかw】
【同接数30万近い!】
【これはそのうち50万いくだろうな】
【魔物討伐の配信以外も面白いからなこのギルド。とんでもないわ】
コメント欄も大熱狂である。
そうしてその日もまた、ギルド《黄金の太陽》の配信は多くのリスナーたちに驚きと満足感を与えたのだった。
***
「やりましたね、ゴーシュさん、ロコちゃん!」
「ぶいっ」
「二人ともお疲れ様。リスナーの人たちも喜んでくれて何よりだ」
ゴーシュたちは配信を切り終えた後で、互いの健闘を称え合った。
討伐された魔物が山のように積み重なっていて、それを眺めながらミズリーが得意げに胸を張る。
「食用の魔物もけっこう討伐できましたからねぇ。《シャルトローゼ》の支配人のグルドさんに連絡して、使える分は引き取ってもらいましょうか」
「骨とかの素材の持ち帰りは私にお任せ」
ロコが持参していた巨大バッグに使えそうな戦利品を詰め込み、ゴーシュとミズリーもそれを手伝う。
「……」
「どうしました? ゴーシュさん」
「ん? ああ、いや」
ミズリーに声をかけられ、何かを考えていたゴーシュが顔を上げた。
「今日の配信、思ったより早く終わったなと思って」
「ええ。ロコちゃんがギルドに加入してくれたおかげで魔物の討伐にかかる時間もいつも以上でしたね」
「……早かったのは確かにそれもあるが、魔物の数が多すぎないかと思ってな」
「あ、言われてみれば確かに」
ゴーシュの言葉でミズリーは丘陵地帯を見回す。
ゴーシュたちが今いる丘は、街道から離れた場所ではあるが、ここまで多くの魔物が跋扈していたのは不自然だった。
「最近、魔物が多く現れるようになったって度々配信ニュースでも見かけるよな」
「そうですね……。念のため、ギルド協会や冒険者協会にも報告しておきましょうか」
「ああ。そうしようか」
そんなやり取りを交わし、素材の回収と《シャルトローゼ》への連絡を済ませた後で、ゴーシュはまた思考を巡らせる。
(思えば、二度のS級ダンジョン攻略配信を行った際にも普段この地方では見かけない魔物に出くわした。何かの前触れじゃなきゃいいが……)
そうして、ゴーシュは疑問を抱えたまま帰路につくことになった。
その日の夜のこと――。
ゴーシュに対してある人物から交信魔法による連絡が届く。
「おう、ゴーシュ。悪いなこんな夜遅くに。今ちょっといいか?」
それは、ゴーシュが王都に来る前、モスリフで農地を引き継いでもらった友人――ロイだった。