第41話 大剣オジサン、信頼される
「『プリネアの花』、無事ゲットできましたー!」
「ぱちぱちぱち」
サンドワームとの戦闘終了後、ミズリーが手に入れた『プリネアの花』を掲げて高らかに声を上げる。
隣にいたロコは無表情ながらも尻尾が揺れていて、どこか嬉しそうだ。
リスナーからも称賛と祝福の声が多数寄せられ、ゴーシュたちはS級ダンジョン《ラグーナ森林》の攻略配信を成功のもとに終えることができた。
「これで甘いお菓子が作れ――コホン、今回の配信の目標をクリアできましたね」
「ミズリー、欲望だだもれ」
「でも、何にせよ目標を達成できて良かったな。リスナーの人たちも盛り上がってくれたみたいで良かった」
ゴーシュたちは配信を終えた後で帰路につく。
「どうでした、ロコちゃん? 配信を見学してみて」
「うん。楽しかった。ししょーの戦いを近くで見れてとっても興奮した」
「そうでしょうそうでしょう。でも、ロコちゃんも強くてびっくりしちゃいました。リスナーの人たちも大盛りあがりでしたよ? コメントでたくさん褒めてくれていましたしね」
「こめんと……」
「……? どうしました、ロコちゃん」
不意にロコが頭から生えた耳を垂らし、悲しげな顔を浮かべた。
ミズリーはそんなロコの様子が気にかかって声をかけるが、当のロコはどこか上の空だ。
(……コメントに何かあったのか? 好意的なコメントばかりだったと思うが……。念のため後で変なものがなかったかチェックしてみるか)
ゴーシュは同じくロコの様子が心配にかかりながらも、まずは安全にダンジョンを抜けることを優先する。
そうして、陽が落ちる前にゴーシュたちは無事ギルドへと到着することができた。
***
「それでは今日も一日お疲れ様でした!」
夕食の折になって。
ミズリーが元気よく言って乾杯の音頭を取った。
ロコにはぬるめに温めたミルクが注がれ、目の前にはミズリーが腕によりをかけて作ったごちそうが並んでいる。
「……」
ロコはいつものごとく無表情で変わらないように見えるのだが、尻尾がだらんと垂れて力ない。
ゴーシュは時折ロコの方を見やりながら食事に手を付けていった。
ミズリーも気になっていたようで、チラチラとロコの方に目をやっている。
(コメントの話題が出てからどこか元気がないように見えるな。一応コメントをチェックしたんだが、別に変なものは無かったし)
「そういえばロコのお祖父さんとは明日になれば話ができるんだったか?」
「え……? あ、うん。明日なら微精霊との交信でお話できるって」
「そうか。ならその時に挨拶させてもらうよ。昨日今日と話せなかったからな」
「うん……。おじいちゃんもししょーとお話をしたがってたし、喜ぶと思う」
やはりどことなく元気がないなと、ゴーシュはロコを見て感じる。
(そういえば、ロコが昨日ギルドに来た時、俺の弟子になる以外にも目的があるって言っていたな……。もしかして、それが関係してるのか?)
「ごちそうさま。おいしかった」
ロコはぺこりと行儀よく頭を下げて、ミズリーに礼を言った。
そして自分の食器を片付けた後、そそくさと寝室のある二階へと上がってしまう。
「ロコちゃん、どうしたんでしょうか……。気になりますね」
「……」
ミズリーが不安げな視線を送ってきて、ゴーシュは考え込む。
そして、放っておけるゴーシュではなかった。
「俺、ちょっとロコと話してくるよ。ミズリーは悪いが食器の片付けを頼む」
「あ……。はいっ!」
ミズリーが嬉しそうに笑顔を浮かべる。
その笑みは、ゴーシュに寄せる信頼を表すかのようだった。
「と、その前にミズリーに一つ相談があるんだが」
「はい、何でしょう?」
「ロコのことなんだが――」
ロコを追う前に、ゴーシュはミズリーにある話を持ちかける。
それはミズリーにとっても半ば予想していた話だったようで、ゴーシュが話を終えると二つ返事が返ってきた。
「ふふ。もちろん。というより、私も同じことをゴーシュさんにお話しようと思っていました」
「そうか。なら、決まりだな」
「はい。ロコちゃんのこと、よろしくお願いします、ゴーシュさん」
二人はそんなやり取りをした後、互いに笑みを交わす。
そして、ゴーシュはロコの後を追って階段を登っていった。