第40話 大剣オジサンの弟子の実力
「あれは、サンドワームか。砂漠にしかいないはずの魔物が何故こんなところに……」
S級ダンジョン《ラグーナ森林》の最奥部にて。
ロコの活躍もあって幻と言われる『プリネアの花』を発見したゴーシュたちだったが、巨大なミミズ型の魔物に遭遇していた。
本来サンドワームは砂漠にしか出現しないはずなのに何故、という疑問がよぎったが、ゴーシュはその考察を保留にし、背負っていた大剣を眼前に構える。
「これは、戦うしかなさそうですね」
「ぐねぐねやろう」
【何で砂漠にしか生息しない魔物が出るんだ?】
【サンドワーム……。私たちの砂漠には稀に出現するのですが、出会ったら絶対に逃げろと言われている魔物ですね。それが何故……】
【前のS級ダンジョン配信でもこんなことあったよな。謎のでかいゴーレムが出てきたり】
【ダンジョンの生態系が変化してるのでござろうか……】
【今そんな場合じゃないだろうけど、ロコちゃんの言葉が辛辣すぎて吹いたw】
【それなw】
【ゴーシュさん、やっちゃってくだせえ!】
【ミズリーちゃんも頑張れ! ロコちゃんは危なくないようにね!】
ゴーシュはロコの前に立ちはだかるようにして、迫りくるサンドワームを警戒する。
(もう少しで間合いだ。む……)
接近した敵に向けて剣を振ろうとしたゴーシュだったが、サンドワームは頭から地面に潜ってしまう。
「ミズリー、下からだ!」
「はいっ!」
ゴーシュが指示すると同時、ミズリーが跳躍しその場を離れる。
ゴーシュもまたロコを抱えて飛び退くと、直後にサンドワームが地中から現れ体当たりを仕掛けてきた。
「ハッ――!」
片手でロコを抱えながら反撃を繰り出すゴーシュだったが、サンドワームはまたすぐ地中に逃れる。
【ああ、惜しいっ!】
【ゴーシュさん、よく反応したな】
【でもまた土の中に逃げちゃいましたわ!】
【ヒット&アウェイ戦法ってやつか】
【これは捉えにくそう】
その後もサンドワームは、地中から現れて攻撃を仕掛けてはすぐまた地中に潜るという戦法で仕掛けてくる。
地表に現れたタイミングを見計らってゴーシュとミズリーは剣を振るい、いくらかのダメージは与えるものの、決定打までは至らない。
(手はある。……が、ロコを抱えたままだと難しいか?)
ゴーシュはサンドワームの動きに警戒を払いつつ、思考を巡らせる。
「ししょーししょー」
「ん?」
と、ロコがちょんちょんと服を引っ張ってきた。
「ししょーの考えてることわかる。私がちょっとやってみていい?」
「え……?」
ロコがゴーシュの腕の中から抜け出て、地面に降り立つ。
「ぐねぐねやろう。せいばいいたす」
ロコは地中にいるであろうサンドワームを睨みつけたかと思うと、その小柄な体で空高く跳躍した。
「ろ、ロコちゃん!?」
ジャンプしたロコを見て、ミズリーが驚きの声を上げる。
ロコは空中から地面に向かって降りてきて――、
「せーの。ぱんち」
そんな抑揚のない掛け声と共に、ロコは地面を思い切りぶん殴った。
途端、辺り一帯が大きくえぐれ、大量の土砂と一緒にサンドワームが空中へと打ち上げられる。
――シュッ!?
その攻撃はサンドワームにとっても予想外だっただろう。
ゴーシュやミズリー、そして配信を見ていたリスナーたちも、小柄な獣人少女が放った一撃に驚愕させられていた。
「ししょー、ちゃんす!」
「――っ」
身を晒し、無防備となったサンドワームめがけてゴーシュが飛ぶ。
その勢いは凄まじく、すぐさま空中のサンドワームと至近距離まで迫った。
そして――。
「四神圓源流、《飛燕乱舞》」
ゴーシュが上昇の勢いそのままにサンドワームを斬り上げる。
サンドワームはなすすべなくゴーシュの剣撃を見舞われ、地面に叩きつけられることとなった。
「や、やりました!」
「ししょー、ぐっじょぶ」
地面に着地したゴーシュに、ミズリーとロコが駆け寄る。
ロコとゴーシュの見事な連携にコメント欄が大盛り上がりを見せたのは言うまでもなかった。
【ロコちゃんすげぇえええええ!】
【何だ今の!? サンドワームを地面ごとぶっ叩いたぞ】
【大剣オジサンも何だよw 人間の動きじゃねえw】
【地面が陥没しとる……】
【打ち込む時の掛け声が可愛いw】
【獣人少女、まさかの超パワーw】
【うわぁ……ようじょつよい……】
【獣人族って怪力って聞くけどここまでなの……】
【力技がすぎるw】
【朗報、怪物ギルドに期待の新人登場】
【このギルド、面白すぎるw】
【リスナーを飽きさせない配信ギルドの鑑】
【もう武術講座開いてくれw】
【↑ミズリーちゃんが解説モードになるんですね。わかります】
【素晴らしすぎますわ~!】
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