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第4話 脚光を浴びる田舎農家のオッサン


「えっ? 何コレ?」


 ゴーシュがいつもの如く畑に出てきてフェアリー・チューブを開いたところ。

 昨日の配信動画の情報を表示させて、ゴーシュは目を疑った。


【昨日の配信動画の最大同時接続数:17,190】


 ――ゴシゴシ、と。ゴーシュは目を擦る。


【昨日の配信動画の最大同時接続数:17,190】


「いやいや、怖い怖い。何で同接数が5桁いってるんだ?」


 ゴーシュは目を擦るだけでなく、頬をつねってみるが表示された文字列は変わらない。どうやら夢でもないようだ。


「そうか、これは何かの不具合だな。昨日最後に見た時の同接数は3とかだったし……」


 時の大賢者によって動画配信の文化が広がって以降、フェアリー・チューブで配信を行う者は右肩上がりに増えている。

 が、数多(あまた)いる配信者の中でも同接数が5桁を超えるような者は一握りだ。


 熟練冒険者が超高難易度ダンジョンを攻略する配信や、人気の歌姫が歌唱する配信、有名配信者が大手商会とコラボレーションして行う配信など。日の目を浴びた一部の配信者が到達する領域なのである。


 それを田舎で農家をやっているゴーシュが達成しましたなどと言われても、信じられないのは当然のことだった。


「ま、まぁ……。今日もいつも通り配信やっていくか」


 ゴーシュは先程表示された情報が引っかかりながらも、今日の分の配信を始めることにする。

 フェアリー・チューブの配信画面を準備し、微精霊に念じた。


「ど、どうもー。今日の配信始めま――って、はぁっ!?」


 ゴーシュが素っ頓狂な声を上げたのも無理はない。

 配信を始めて数秒もしないうちに、今まで見たこともない量のコメントが画面に溢れていたからだ。


【こんにちは!】

【こんぬつわー】

【こんにちはですわ!】

【ゴーシュさんこんにちは! 今日も見に来ました♪】


【キター!】

【初見です! よろしくお願いします!】

【同じく初見】

【期待】


【おお、イケおじじゃん!】

【ハンサムなおじ様!】

【イケボいいねぇ】

【渋い。だがそれが良い】


【一体何が始まるんです?】

【昨日の動画見ましたよー!】

【昨日ツマンネって言った者です。調子乗ってすいませんでした(土下座)】


【同時接続数:2,519】

【同時接続数:3,100】

【同時接続数:4,659】


「えっ? 何? 何が起こってんの?」


 ゴーシュは予想もしていなかった事態に固まる。


 コメントの嵐、嵐。

 新しいコメントに押し流されて、各コメントを確認することすら難しい状況だ。


 昨日までは一つ一つのコメントに(といってもそのほとんどは「ニャオチン」というリスナーによるものだったのだが)反応する余裕があったのに。


【同時接続数:5,098】


 見ると、まだ配信の挨拶をしただけの段階なのに、同接数が五千を超えていた。


「え、えーと。皆さん、見る配信を間違えてない?」


【あってるよー】

【あっていますわ!】

【お前の配信が見たいんだよ!】

【まあ驚くのも無理はないw】

【もしかして昨日の件まだ気づいてないんか?】


「おおぅ……」


 ゴーシュが一言発するとコメントが勢いよく流れていく。

 どうやら表示されている同接数は不具合ではないようだが、ゴーシュにとってみれば何故このようなことになっているのか意味不明である。


 配信が待ちきれないのか、早く始めてくれという趣旨のコメントが流れ始め、ゴーシュは戸惑いながらも咳払いを一つ挟む。


「そ、それじゃあ、今日は『正しい薪の割り方』についてやっていこうと思います」


【地味w】

【地味だな確かに】

【地味ぃ!】


「……」


 コメントを見るに反応はあまり良くなさそうだ。

 ゴーシュも何となく場違いなことをしているような気はしたが、とりあえず始めることにする。


「コホン。それじゃあまずこの樹を斬り倒します」


 ゴーシュは言って、巨大な樹を前にする。


 直径は長身のゴーシュの三倍ほどはあるだろうか。その樹は大樹と言っても差し支えなく、上の方はもはや配信画面に収まっていない。


 ゴーシュがいるモスリフの地特有の樹であり、通常ここまで育ってしまうと加工するのは不可能である。


【は?】

【え? これ斬るの?】

【世界樹か何かですの?】

【いや、オレこの前世界樹見に行ってきたけど雪積もってたぞ。違うんじゃねえかな?】

【でもデカい!】


【薪割りってそこからかよw】

【まずは世界樹を斬ります】

【おいおい。斬るのに何時間かかるんだよこれ】

【薪割りはフツー斧だろw】


 ゴーシュが大剣を手にして構えるとコメント欄が一気に賑やかになる。ゴーシュはあまり気にしないことにして、大剣を握る手に力を込めた。


「えー、まずはこういうデカい樹を斬ります。――どりゃっ!」


 一閃――。


 ゴーシュが大剣を横薙ぎに払うと、大樹はメキメキと音を立てて倒れていく。

 そして数秒後には地響きを立てながら大樹が倒れ込んだ。


【!?!?!?!?】

【一回で斬るのかよw】

【一撃!?】

【ファーwww】


【地味って言ってすいません。腹切ります】

【誰だよ地味とか言ってた奴。あ、オレか……】

【手の平クルー】

【どうやったんだよそれw】


【悲報:世界樹、倒れる】

【悲報、オッサン、世界樹を斬る】

【被ったw】

【だから世界樹じゃないだろw】


【あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……】

【お、おおお落ち着け。きっと切れ目が元から入ってたんだ!】

【↑その切れ目はどうやって入れたんだよw】

【明らかに剣の長さより樹の方が太かったんですが、それはどうやったんですかね?】


【その大剣は何? 聖剣かなんか?】

【普通の剣に見えるけど……】

【オッサン凄すぎワロタw】

【すごいですわ!】


【同時接続数:23,691】


 コメント欄は喝采の嵐となるが、ゴーシュはどう反応していいやら困惑してしまう。

 いつの間にやら同接数も最高値を更新していた。


「は、はは……。皆さんありがとう。でも、そんなに珍しいことじゃ……」


 ゴーシュは農家としてこのような薪割りをするのは初めてではなかったが、リスナーたちにとっては衝撃的な出来事だった。

「珍しいというより見たことないんですが」という趣旨のコメントが溢れかえる。


「で、次は薪のサイズに加工していきます。この時のコツはなるべく手数を少なくすることで――」


 ――スパスパスパッ。


 包丁で野菜を斬るかのようなスピードで、ゴーシュは大樹を斬っていく。大剣を軽々と振り回して加工し始めるとコメント欄はお祭り騒ぎとなった。


【もうやめて! 世界樹のライフはゼロよ!】

【このオッサン、何者なんだ?】

【恐ろしく速い剣閃、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね】

【見えるか? 俺には見えん】

【すいません嘘つきましたオレも見えてません】


【私はマルグード領の領主ケイネス・ロンハルクと申す。私の管轄する騎士団に加入してもらえないだろうか? ゴーシュ殿に直接メッセージを送れないようなのでこちらに失礼する。見かけたら是非メッセージを送ってほしい】

【領主出てきたw】

【領主w】


【誰かオッサンのまとめ記事作ってこいよ】

【もう作った】

【こりゃあ伸びるぞ!】


【ゴーシュさんがいつか日の目を浴びる時があると信じていました。私、嬉しいです!】


「とまあ、こんな風にやっていくと手際よく薪が作れます。……って、こんな感じで良いのかな? 皆さんの参考になっていると嬉しいんですが」


【早すぎぃ!】

【参考にはならないw】

【こんなん参考になるかw】

【でもおもしろいですわ!】

【5分もたってないんですが……】


【ゴーシュさん、オレ、ファンになりました!】

【我、剣の道を極めたと思っていたが、まだまだだったようだな……】

【オッサン凄すぎるw】

【ちょっと過去の動画も見てこよ】


【何でこんな逸材が埋もれてたんだ? いや、マジで】

【投稿してるのが農耕動画ばっかりだったからな】

【それはキツいw】


【オッサン、配信の企画はイマイチな模様】

【若い層は見んわな】

【私はずっと見てましたよ!】


 薪割りを終えた後もコメント欄は変わらず盛況で、ゴーシュは引きつった笑みを浮かべるしかない。

 自分の配信動画が賑わっていることの嬉しさよりも、困惑と戸惑いの方が大きかった。


「えーと、それじゃあ今日はこんなところで……。皆さん、見に来てくれて本当にありがとう」


【お疲れ様でしたー!】

【おつ!】

【面白かった!】

【また見に来ますわ!】


【紳士な感じで好感持てるねー】

【《炎天(えんてん)大蛇(だいじゃ)》の迷惑系配信者も見習ってもろて】

【わたしあそこ嫌いー】

【俺も】

【他配信のこと話題に出すなよ。おっさんに対してもマナー違反だぞ】


【この人、そのうち同接数が6桁いくんじゃね?】

【また魔物討伐の配信見たいなー】

【それな。まあ、またやるだろ】


【期待のおっさんルーキーあらわる】

【おっさんルーキーw】

【オールドルーキーの方が良い】

【オールドルーキー、響きがカッコいいですわね!】


【ゴーシュさん、ありがとうございました!】


「ふぅ……」


 延々とコメントが流れていたため、終了するタイミングが分からず、ゴーシュが配信を切ったのはそれから十分程が経ってからだった。


「何故こんなことになっているんだか分からんが、何だかとんでもないことになってる気がする……」


 ゴーシュは大きく息を吐き出す。

 そして、大剣を抱えながら帰路へとつくことにした。


   ***


 一方その頃――。

 王都グラハムのとある屋敷にて。


「……」


 金の髪を持つ美少女が、本日配信されたゴーシュの動画を見ていた。

 少女はゴーシュの動画を見て、樹を伐採する前のシーンを何度も何度も繰り返し再生する。


 そして――。


「ふふふ。ゴーシュさんの居場所、分かりました! モスリフへレッツゴーです!」


 少女は立ち上がり、満面の笑みを浮かべていた。



●○● 読者の皆様へ大切なお願い ●○●


お読みいただき本当にありがとうございます。


ここまでのお話で、


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