第39話 獣人少女ロコはお役に立ちます
「ゴーシュさん、そっち行きました!」
「四神圓源流、《紫電一閃》――」
S級ダンジョン《ラグーナ森林》の攻略を開始してから1時間ほどが経ち――。
ゴーシュたちは順調にS級ダンジョン《ラグーナ森林》を進んでいった。
現れる魔物を次々に倒し、コメント欄も盛り上がりを見せる。
【これこれ! この爽快感ですよ!】
【大剣オジサン、今日も元気に無双中】
【討伐メーター:129】
【バケモンかよw】
【ミズリーちゃんもカッコいい!】
【さっきあっさり倒してたのって危険度B級のデビルプラントですよね? この前出くわして泣きそうになりました。仇取ってくれてありがとうございます】
【相変わらず規格外だw】
【大剣オジサンとミズリーちゃんも凄いけど、《ラグーナ森林》って綺麗だなー】
【樹がぼんわりと光ってて景色がキレイですわ~!】
【こういうのが家で見れるのも配信の良いところよな】
【拙者の国にも紅葉というのがあるでござるが、それとはまた違った趣があっていいでござるな】
【魔物が強すぎて俺たちじゃ行けないからなw】
【メルビスちゃんの歌配信終わったんで来ました~】
【めっちゃ人いるw】
【画面の端で手を叩いてるロコちゃんが癒やしなんだがw】
【同時接続数:137,779】
「おおー。ししょーはやっぱりすごい」
ロコが無邪気にぱちぱちと手を叩いて見守る中、ゴーシュとミズリーは快調に進んでいく。
気づけば、先日配信したS級ダンジョン《青水晶の洞窟》攻略配信の時の同時接続数を上回っていた。
そのことを喜びつつも、歩いていたミズリーが溜息を漏らす。
「うーん。でも『プリネアの花』が見つかりませんねぇ。けっこう進んだと思うんですが」
「まあ、幻の花と言われるくらいレアなものだからな。気長に探すとしよう」
ゴーシュは大剣を背負い直し、息をつく。
と、ロコが耳をピクピクと動かしながら尋ねてきた。
「ねえ、ミズリー。その『プリネアの花』ってどんな花なの?」
「青白くて綺麗なお花だって言われていますね。何でも、とーっても甘い蜜を含んでいることから、それでしか作れないお菓子があるんだとか」
「ははは。実は今回、ミズリーが『プリネアの花』を探したがっているのはそれが目的だからね」
「ゴーシュさんってば、それは内緒ですよぅ!」
ミズリーがゴーシュの肩をポカポカと叩くその隣で、ロコが何やら考え込んでいた。
「甘い、蜜……」
そうして、何かに気づいたようにロコが顔を上げる。
「それなら、わかるかも」
「「え……?」」
「獣人族は鼻がきく。で、あっちから甘い香りがする」
ロコはそう言って、ある方角を指差した。
「お、それじゃあその方向に進んでいけば『プリネアの花』があるかもな」
「すごい! ロコちゃん、そんなこと分かるんですね!」
「ふふん。お役に立てたならよかった」
【ロコちゃん優秀!】
【お役に立ちまくりだよそれはw】
【ロコちゃんのドヤ顔、いただきました!】
【守りたい、この笑顔】
【この子マジでギルドに入ってくれんかな】
【だよな。何というか、癒やしオーラがすごい】
【大剣オジサンの周り、凄い子しかおらんなw】
ゴーシュに頭を撫でられ、ロコがご満悦な顔を浮かべる。
そして一行は、ロコの誘導で《ラグーナ森林》の更に奥地へと進んでいった。
10分ほど経った頃だろうか。
《ラグーナ森林》特有の光る木々の数も少なくなって、開けた場所に出たところでミズリーが声を上げる。
「あっ! あの遠くに見えるのが『プリネアの花』じゃないですか?」
「おお、凄いなロコ。偉いぞ」
「ありがたきしあわせ」
ゴーシュに頭を撫でられ、ロコがまた変な言葉で返す。
【ロコちゃんの言葉遣い独特だなw】
【ツボるw】
【ロコちゃんが嬉しそうで何より】
【『プリネアの花』ゲットだぜ!】
【ミズリーちゃん良かったね。これで甘いお菓子が食べられるよ!】
【ミッション達成でござるな】
【クックック。おめでたい】
【今回の配信も素晴らしかったですわ!】
リスナーたちも『プリネアの花』を見つけたゴーシュたちを祝うムードになっていく。
――しかし、ゴーシュたちの《ラグーナ森林》の攻略はまだこれで終わりではなかった。
「な、何だか揺れてません?」
「これは……」
「地面、ぶるぶる」
ゴーシュたちは地面の振動を感じ取り、皆が警戒態勢をとる。
振動は徐々に近づくように大きくなっていき、そしてその現象を引き起こした主が姿を現す。
――シュルルルルルッ!
「えぇ!? あれって確か砂漠地方にしか生息しない魔物ですよね? 何でこんな所に!?」
「……っ」
「でっかいミミズー」
そこに姿を現したのは、ロコの言った通り、巨大なミミズのような魔物――《サンドワーム》だった。