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第37話 朝の日課、そしてS級ダンジョンへ


 ――トットット。


 ゴーシュの朝は早い。


 軽快なリズムで足音を刻みながら、今は日課となっている朝のランニング中だ。


 いつもは一人でこなしている習慣だったが、今日は少し違ったところがあった。


「ししょー!」


 ゴーシュの後ろから、とてとてと可愛らしい足音が近づいてくる。


 その音の主は、ゴーシュの隣までやって来ると、腰から生えた尻尾を楽しげに揺らした。


「ししょー、おはよう」

「ロコ、もう起きてきたのか」

「うん。ししょーの弟子にしてもらうためだから」


 ロコはそう言ってきりりと気合の入った表情を浮かべる。


 昨晩、ゴーシュとミズリーのギルド《黄金の太陽》を訪れた獣人少女ロコは、突然ゴーシュの弟子になりたいと申し出た。


 夜も遅くだったため、とりあえずはロコに泊まってもらうことにしたゴーシュだったが、朝から猛烈なアピールを受けている。


 ちなみにその頃。

 ロコを自分のベッドに誘い、寝ぼけて抱きまくらのようにしていたミズリーはというと……。


「ふみゅ……。ロコちゃん、モフモフですぅ……」


 とっくにベッドから抜け出たロコに対して寝言を呟いていた。


   ***


「ししょー、次は何やるの?」

「ええと、《四神圓源流》の基本となる型の動作かな。ヤギリ老師――ロコのお祖父さんが配信で流していたものを俺なりにやってるだけなんだけど」

「ああ、あれね。じゃあ私もそれやる」


 ゴーシュと並び、正拳突きの素振りを始めるロコ。


「ししょー、次は?」

「ん……。次は腕立て伏せや腹筋かな。ヤギリ老師が《四神圓源流》を身につけるためには基礎筋力や体力も大事って言ってたから」

「じゃあ私も」


 次はゴーシュと並び、ギルド前の庭で筋力トレーニングを行うロコ。


「ししょー、次は次は?」

「次は――」


 そうやって、ロコはゴーシュの朝の日課に付き合っていった。


「ロコは凄いな。自分で言うのもなんだが、けっこう子供にはハードなトレーニングだと思うが」

「ふふふ。獣人族は力が強いから。このくらいへっちゃらへーき」

「……」


 ゴーシュに足を押さえてもらいながら腹筋をするロコだったが、その言葉通り余裕すら感じさせる様子だ。

 よほどの熱意だなと思いつつ、ゴーシュはロコに問いかける。


「ロコはどうしてそんなに《四神圓源流》を習いたいんだ?」

「……おじいちゃんが、悲しんでたから」

「ヤギリ老師が?」

「うん。獣人族に残った伝説の武術の理論。おじいちゃんはそれを習得することが夢だったみたい。でも、おじいちゃんには扱えなかったみたいで」

「……」

「だから、おじいちゃんがずっと求めてきた武術がどんなものなのかって、私は知りたくなった」


 ロコは表情を変えずに、しかしはっきりと言葉にした。

 その言葉にはロコの意思がこもっているような気がしてゴーシュもまた真剣な表情になる。


「おじいちゃん、喜んでた。ししょーの配信を見て、やっと《ししんえんげんりゅー》を扱える者が現れたって。やっぱり自分が必死に残してきた理論は間違っていなかったんだって」

「そういえば、ヤギリ老師は今どうしてるんだ? 最近は配信でも見かけないが」

「……おじいちゃん、元気だった。それが、ある日突然……」


 ロコは獣耳を力なく垂らし、とても悲しそうな表情を浮かべていた。

 その様子を見たゴーシュは察して、目を細める。


「そうか……。それは悪いことを聞い――」

「ぎっくり腰で、動けなくなって……」


 予想とはだいぶ違う言葉が告げられて、ゴーシュはガクッと肩を落とした。


「どうしたの? ししょー」

「い、いや。それはお大事にだな」


 ゴーシュはどこか安堵しつつ、ほっと溜息をつく。


(俺が師匠というのはガラじゃないよなぁ。まあでも、ロコもすごく素直でいい子だし。こうして一緒に運動できる仲間がいるのは良いことかもな……)


 足を押さえたロコが必死に腹筋に勤しむ姿を見ながら、ゴーシュはそんなことを考えていた。


   ***


「あぁあああ! また寝坊しましたぁあああ!」


 ゴーシュとロコが朝のトレーニングを終えてくつろいでいると、ミズリーが慌ただしく階段を降りてきた。


「ミズリー、ねぼすけさん」

「うぅ、すみません。ロコちゃんも起きてたのに……」

「ハハハ。まあ、今日の配信は午後からだし、ゆっくりで大丈夫だよ」


 ゴーシュとミズリーがやり取りを交わすのを見て、ロコがぴこんと獣耳を立てる。


「そういえば今日、二人は配信をするの?」

「ああ。今日は元々S級ダンジョンに出かけて配信するつもりだったんだけど」


 ゴーシュとしてはミズリーとも話して、ロコについてどうするかを考えるつもりだった。

 だからその日の配信は行わず、ロコのことを優先しようと考えていたのだが……。


「じゃあ、私も行っていい?」

「ロコちゃんも一緒にダンジョンへ?」

「うん。二人の配信を間近で見てみたい。あ、もちろん迷惑じゃなければだけど」


 ロコの申し出にゴーシュとミズリーは顔を見合わせる。

 ダンジョンに連れていけばもちろん魔物とも出くわすことになるからだ。


 ゴーシュとミズリーのどちらかが守れば問題ないかと考えられたが、今日の配信はS級ダンジョンだ。

 不測の事態が起こらないともいえない。


「う、うーん? 私たちはもちろん良いですけど、ロコちゃんが危なくないかなぁって」

「それはしんぱいむよー。こう見えても私、けっこう強い」

「え?」


 ロコが意外なことを言って、胸を張る。


「そういえば昨日、ロコは一人でここまでやって来たんだよな。獣人が住む里って山奥にあるって聞いたことあるけど、途中で魔物とかに襲われなかったのか?」

「魔物? 魔物は全部ぶったおしてきた」

「へ、へぇ……」


 ロコが力こぶを作るポーズをとって、鼻を鳴らした。


 小柄な体躯からは想像もできないが、さすがに怪力を持つと言われる獣人族ということなのだろうかと、ゴーシュは思考を巡らせる。


「お願い。邪魔にならないようにするから」


 無垢な瞳で懇願され、ゴーシュは迷いながらも了解することにした。


「分かった。その代わり、俺かミズリーの近くにいるようにするんだぞ?」

「らじゃー」


 ロコが今度はビシッと敬礼の姿勢をとる。


 そうして、ゴーシュたちは三人でS級ダンジョン《ラグーナ森林》へと向かうことにした。



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