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第36話 獣人少女、ロコのお願い


「はい、どうぞ」


 謎の訪問者が現れてすぐのこと。


 ゴーシュとミズリーはやって来た獣人少女をテーブルに着かせ、事情を聴くことにした。


「かたじけない」


 ミズリーがソーサーに乗せた紅茶を差し出すと、獣人少女は訪れた時と同じ、変な言葉とともにぺこりとお辞儀をした。


「ふふ。熱いので気をつけてくださいね」

「わかった。……あちっ」

「だ、大丈夫ですか?」


 獣人少女は言ったそばから熱い紅茶にびっくりして、尻尾をピンと逆立てる。


「ふーふー」


 そうして今度は慎重に息を吹きかけ、恐る恐るカップに口を付けていた。


「……」

「……」


 その様子を見ていたゴーシュとミズリーは顔を寄せてひそひそと会話する。


(何だか、見たところ普通の子供って感じだな)

(そうですね。でもこの子、すっっっごく可愛いんですが)

(まあ、まずは事情を聴かないとだな……)


 ゴーシュは一つ咳払いをして、目の前に座った獣人少女に問いかける。


「えっと、ひとまず君の名前を聞いておこうか」

「私? 私は、ロコという」

「ロコか。はじめまして。俺はゴーシュでこっちは――」

「ミズリーでしょ? だいじょぶ。二人のことはよーく知ってる」


 ロコと名乗った獣人族の女の子はパタパタと尻尾を振りながら言った。


 ロコはどことなく棒読み感のある声だったが、それが地声なのだろう。

 不思議と子供らしい雰囲気に合っているなと感じさせる声だ。


「ロコはどうして俺たちのことを?」

「配信で知った。いっつも見てる。あ、この前のしゃるとろーぜ? での配信、二人ともすごくカッコ良かった」


 ロコは鼻息を荒くして身を乗り出す。

 表情はあまり変わっていなかったが、尻尾がパタパタと揺れていて、何となく興奮しているのだろうということは分かった。


「ええと、ロコちゃんはどうして私たちのギルドに来たんです?」

「ししょーに会いに来た」

「師匠って、ゴーシュさんのことですか? そういえばさっきも入り口でゴーシュさんのことをそう呼んでいましたね」

「うん。ししょーは、私にとってのししょーだから」


 ロコの言葉に、ゴーシュとミズリーは顔を向かい合わせる。


「ごめん、話が見えないんだけど……」

「ししょーは『ヤギリ』という人を知ってる?」

「ヤギリ? ああ……」


 ゴーシュは思考を巡らせ、思い当たる。


 その名前は、ある獣人族の老師の名前だった。


 もっと言えば、かつて《四神圓源流(ししんえんげんりゅう)》の理論を解説し配信していた人物である。


 つまり、ゴーシュにとっては自身の扱う武術の師というわけだ。


 ……もっとも、ゴーシュはそれを朝の運動代わりにして習得してしまったのだが。


「その人物が何か?」

「ヤギリは、私のおじいちゃんなんだ」

「え? ロコがあのヤギリ老師のお孫さん?」


 ロコがコクンと首を縦に落とす。

 そして、ロコはそのくりっとした赤い瞳でゴーシュを見つめたまま言葉を続けた。


「今、ししょーは獣人族のあいだですっごく話題になってる」

「そうなの?」

「うん。前にS級ダンジョンの配信でミズリーが解説してた。獣人族の中にも扱える者がいない伝説のすごい武術。それを、ししょーは朝の運動で身につけちゃったって。獣人族の中でも天才があらわれたって、とっても大騒ぎ」

「おおぅ……」

「ふふ。確かに、それはそうなってもおかしくないですね」


 ゴーシュが恥ずかしさと恐れ多さで(うつむ)く傍ら、ミズリーはとても楽しげに声を漏らす。


 ゴーシュの扱う《四神圓源流》は、元は人並み外れた怪力を持つ獣人族でしか扱えないと言われた伝説の武術だ。

 そして、獣人族の中にすら習得できる者がいなくなって久しく、現在ではその理論だけが残っている状態なのである。


 それを運動にちょうど良いから始めてみたという、ワケの分からない理由で中年の男性が習得してしまったというのだから、話題にならない方がおかしいと言えるだろう。


「ししょーに失われた古代武術を教わりたいって人もいっぱいいる。でも、いきなりみんなでお願いするのも迷惑だろうからって」

「なるほどー。確かにゴーシュさんのあの武術は凄まじいですからね。習いたい人がたくさんいるのも納得です。ということは、ロコちゃんもそれを習いに?」

「たしかに、それもある。でも、ここに来たのは別の理由もあって……、その……」

「……?」


 歯切れが悪くなったロコに、ゴーシュは怪訝な顔を浮かべる。


 が、ゴーシュはそこで追求しなかった。

 単に言うのをやめたと言うより、言いにくそうな話題だと感じたからだ。


「と、とにかく。《ししんえんげんりゅー》は私もおじいちゃんに教えてもらったけどできなかった。だから――」


 ロコの赤い瞳がじっとゴーシュを見つめる。


 その幼い顔は真剣そのものだった。


「だから、お願い。私を、弟子にしてください――」



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