第34話 規格外の料理配信、一方その頃――
「どうも皆さん。配信ギルド《黄金の太陽》のゴーシュです」
「こんにちは! ミズリーでっす! 今日も笑顔で配信をやっていきます!」
あるとても晴れた日。
ゴーシュとミズリーは王都外れにある草原にやって来ていた。
二人は微精霊との交信を接続し、世界中の人々に届けるべくフェアリー・チューブの配信を開始する。
ゴーシュとミズリーが配信を始めるとすぐに大勢のリスナーが集まり、二人に宛てたコメントが打ち込まれた。
【こんにちはー♪】
【今日も大剣オジサンとミズリーちゃんの配信が見られる幸せ】
【《シャルトローゼ》の配信で知りました! お二人とも、とってもカッコ良かったです!】
【スポンサー契約おめでとう!】
【あの歌姫メルビスちゃんもあの一件について報告動画を出してたね】
【お二人にとても感謝してましたよー】
【メルビスちゃんも律儀だなぁ。そこが推せる】
【今日は何の配信だ?】
【この前の『レアモンスターを見つけるまで帰れません配信』めっちゃ面白かったです!】
【あれまたやってほしいなー】
【確かゴーシュさんの方は見つけるまでに普通の魔物を297体倒すハメになったんだっけか? ミズリーちゃんの方は3体目で見つけてたけどw】
【大剣オジサン、そういう運は悪い模様w】
【今日も王都地方は天気いいねー】
【ほんとでござる。こっちは雷が鳴っててちょっと怖いでござる】
【東の国の方はヤバいらしいな】
【クックック。今日も楽しみだ】
【毎日の楽しみ】
【ゴーシュのおじ様、今日も見に来ましたわ~!】
【同時接続数:56,899】
「皆さん、いつも温かいコメントありがとうございます。全部のコメントにすぐ反応はできないかもしれないんですが、とても励みになっています」
「ふふ。ゴーシュさんらしいですねぇ。と、さっそくなんですが、今日の配信についてです! 今日もこちらの大布に企画内容を書いてきました。ジャジャン!」
ミズリーは得意げな笑顔を浮かべ、今日の配信内容を書いた大布を広げる。
しかし……。
「……ミズリー。また逆だな」
初配信の時と同じように文字を逆さまに広げてしまい、またもリスナーたちの笑いを誘っていた。
「うぅ、またやっちゃいました……。き、気を取り直して。本日はこちら、『でっかいイノシシ肉で料理をしてみた!』です!」
「草原に来ているのは何故かと言うと、まず素材を捕るためですね」
【なるほど、料理配信かー】
【でっかいイノシシってことはワイルドボアとかかな?】
【今日はけっこう緩めの配信だね】
【だな】
【いや、ワイルドボアって危険度B級の魔物なんですけど。なんかここの人たち、感覚麻痺してません?】
【それなw そもそも料理配信で同接数5万超えって異常だよw】
【コメント欄が訓練されているw】
ミズリーが今日の配信内容を告げると、リスナーたちはそんなコメントを流していく。
「フフン。狩るのはただのイノシシじゃありませんよ? ズバリ、『グレートボア』を狩ります!」
【は?】
【グレートボアってあの危険度A級の魔物?】
【いやいや、あれって二人で倒せるものなのか?】
【いや、フレイムドラゴンなんかと同じく討伐隊を組織して狩る魔物って聞いたが?】
【クックック。いったいいつからワイルドボアを狩ると錯覚していた?】
【さすが大剣オジサンとミズリーちゃん】
【相変わらず規格外すぎますわ! そこが素敵ですけれど!】
ミズリーはリスナーたちの反応を見ると、恍惚とした表情を浮かべた。
「いやぁ。この前《シャルトローゼ》で食べたお肉がとっても美味しくって。あのお肉を家庭でも楽しめないかなと。あ、もちろん《シャルトローゼ》のようにはいかないと思いますが。皆さんもぜひ《シャルトローゼ》に足を運んでみてくださいね♪」
【ミズリーちゃんはやっぱり可愛いなぁ】
【スポンサーの宣伝をすることを忘れない配信者の鑑】
【なるほど。余ったお肉は《シャルトローゼ》に引き取ってもらうのでござるな】
【でも確かにこの二人なら余裕かもな。古代種のでかいゴーレムも倒してたし】
「グレートボアについては最近この辺りの草原に出没するって《シャルトローゼ》の人たちから聞いたので。お、さっそくあそこにいましたよ。それじゃ、ひと狩りいってみましょう!」
これから危険度A級の魔物を討伐するとは思えないテンションでミズリーが宣言する。
目の前には通常の猪型のモンスターの5倍はあろうかというグレートボア。
通常ならば出会っただけで震え上がるサイズだろう。
しかしその後、ミズリーと連携したゴーシュがグレートボアにトドメを刺すまでに、1分もかからなかった。
***
一方その頃――。
「よし。準備ばんたん」
ある山の奥にある村にて、一人の獣人少女が荷造りを終えたところだった。
「それじゃ、おじいちゃん。行ってくる」
獣人の少女はそのように告げると、自らの身の丈以上はあろうかという巨大バッグを軽々と背負い、歩き出す。
(やっと……。やっと『ししょー』に会える……!)
頭から生えた獣人族特有の耳がピンと立ち、尻尾はとても嬉しそうに揺れていた。