第32話 大剣オジサンと歌姫メルビス
「おい、離せ! 離せよっ!」
「うぅ……。酷いですよぅギルド長。私を置いて逃げようとするなんてぇ……」
《シャルトローゼ》での騒動の元凶が判明して間もなく。
首謀者であるアセルスと、その協力者であるプリムは詳しい聴取を受けるため、店の別室へと連行されていった。
「ゴーシュ様」
引きずられていく二人を見ていたゴーシュに声がかけられる。
ゴーシュが声のした方に向き直ると、《シャルトローゼ》の支配人グルドが深々と礼をしていた。
「此度の件、店の代表者として深く感謝いたします。本当にありがとうございました」
「そ、そんな。顔を上げてください。俺はできることをやったまでで……」
「ふふふ。やっぱりゴーシュさんは謙虚ですねぇ」
グルドに頭を下げられ困惑するゴーシュだったが、その周囲には人だかりができていた。
騒動に巻き込まれた《シャルトローゼ》の客たちである。
客たちは口々に感謝の言葉を告げ、中にはゴーシュを見知った者もいたようだ。
「ゴーシュのおじ様! お会いできるなんて幸運ですわ! ワタクシ、ゴーシュおじ様の配信をいつも視聴しておりまして、おじ様のファンクラブにも入りましたの。あ、ワタクシ、公爵家のメイシャ・アルダンと申しますわ。そのぅ……、今度ワタクシの屋敷で一緒にお茶でもいかがかなと思いまして……」
というゴーシュとお近づきになりたい公爵令嬢や、
「ゴーシュ殿。私はマルグード領の領主ケイネス・ロンハルクという者なのだが、以前より貴殿を我が騎士団に迎え入れたく、配信のコメントで呼びかけていた者で……。何? そうか、やはり他のコメントに押し流されて見れていなかったか。どうだろうか? 騎士団長の座を用意しているのだが――」
とゴーシュを勧誘したい領主に、
「ほっほっ本当に今日はありがとうございました! あのあの、私、王都で配信ギルドをやっていまして、今度配信のコラボをさせていただけないかなぁ、なんて思ったりして……。あ、ハイ! 今度連絡させていただきますっ!」
おどおどしながらもゴーシュとコラボ配信を希望する配信者、
「ゴーシュさん! どうかオレを弟子にしてください!」
ゴーシュの弟子になりたいと申し入れる者、などなど。
さすが王都一の高級レストラン《シャルトローゼ》といったところか。
各界の著名人や高貴な身分にあたる者たちがゴーシュに声をかけてきた。
いつの間にかミズリーも同じように取り囲まれ、大勢から感謝と尊敬の念を伝えられている。
そうして、ゴーシュたちが各人の対応に追われ、それが落ち着くまでにはかなりの時間がかかった。
***
「ミズリー、一体なんだと思う? ここの支配人……グルドさん、話があるから残ってくれということだけど」
「うーむ、そうですねぇ。お礼でも伝えたいんじゃないでしょうか?」
「さっきあれだけ言ってもらったのになぁ」
ゴーシュとミズリー以外の客たちが《シャルトローゼ》を退店した後のこと。
二人は店の奥にある別室に来るよう頼まれていた。
高価そうな絨毯が引かれた長い廊下にいくつもの部屋が並ぶ様は、さすが王都一の名店だと感じさせる。
と、ゴーシュたちがある部屋の横を通る際、中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
――はぁ!? 何でだよ! 何でそんな大金払わなきゃ……。み、店と迷惑かけた客たちへの損害賠償? これでも安い方って……。そ、そこを何とか……。
――ギルド長ぅ……。もう諦めましょうよぅ。この黒服さんたち怖いですよぅ……。
「……」
「……」
ゴーシュとミズリーの耳に届いたのはそんな悲鳴じみた声だ。
「因果応報、ですかね」
「そうかもな……」
中の様子を想像はあまりしたくなかったが、アセルスとプリムは自分たちがしでかしたことについて、相応の報いを受けることになるらしかった。
そうしてしばし歩き、二人は最奥の部屋まで辿り着く。
「ようこそ、ゴーシュ様、ミズリー様。お時間を頂戴し申し訳ございません」
「い、いえ……」
ゴーシュたちが部屋の中に足を踏み入れると、支配人のグルドに出迎えられる。
部屋にはメルビスもいて、グルドの後ろで小さく手を振っていた。
ゴーシュはメルビスのことが気になりながらも、グルドとの会話に応じる。
「ゴーシュ様、ミズリー様。改めて、ありがとうございました。お二人をお呼びしたのは、あるお願いをお聞きいただけないかと思いまして」
「お願い、ですか?」
「はい。もしよろしければなのですが、お二人の配信ギルド《黄金の太陽》のスポンサーとなることをお許しいただけないかと思いまして」
「「え……」」
グルドの申し出に、ゴーシュとミズリーは目を見開く。
王都一の名店と名高い高級レストラン《シャルトローゼ》。
その代表を務めるグルドが、自分たちのギルドの後援――つまりスポンサーになりたいのだという。
通常、配信ギルドとして大手の商会などとスポンサー契約を結ぶことは一級の名誉であるとされる。
高い影響力、資質を認められ、なおかつ将来性に期待されるというハードルをクリアして初めて到達できる地点と考えられているからだ。
また、有名な店舗や商会が後ろ盾に付いてくれることになれば、資金面でも当然潤うことになる。
そして、現在までに《シャルトローゼ》がスポンサー契約を結んだことがあるのは歌姫メルビスただ一人、というのは有名な話だ。
「そ、そんな、良いんですか? 俺たちみたいな立ち上げたばかりのギルドが、《シャルトローゼ》とスポンサー契約を結べるなんて……」
「はい。むしろ、ぜひにと考えております」
「どうしてそこまで?」
「お二人の剣の腕前は大変なものだと、そこにいらっしゃるメルビス様からも聞き及んでおります。常人では討伐が難しい、強靭な魔物を狩ることもあるでしょう。そうした魔物が食用だった場合、素材として買い取らせていただけるなどすれば、当店にとっても得のある話なのです」
「な、なるほど」
グルドの商売人としての手腕に感嘆しつつ、働きかけたのはメルビスだろうなとゴーシュは推測する。
ゴーシュが目を向けると、メルビスはお茶目にウインクで返してみせた。
「ええ。俺たちにとっても感謝しかないお話です。ぜひお願いできればと」
「おお、ありがとうございます。お近づきの印に、当店をご利用いただけるチケットを何枚かお渡ししたく――」
「え、良いんですか!?」
グルドの申し出に素早すぎるスピードで反応したのはミズリーである。
ゴーシュは苦笑しつつ、ミズリーにとっては何よりの話かと思い、ありがたく頂戴することにした。
「無事、話はまとまったようですね。最後に私からも」
声をかけてきたのは、それまで黙していたメルビスだ。
メルビスはゴーシュの前にやって来ると、深々と頭を下げた。
「メルビス?」
「ゴーシュさん、今回の件、私からも最大限の感謝を。私の歌唱配信が無事に終了できたのも、ゴーシュさんのおかげです」
「い、いや。俺の方こそ、あんな風にメルビスの歌が聴けて良かったというか……」
「ふふふ。そう仰っていただけると嬉しいですね」
ゴーシュの反応を見て、メルビスは満足げに笑みをこぼす。
それを受けてゴーシュは照れくさそうに頭を搔いていたが、メルビスに向けてある想いを告げることにした。
「メルビス。俺からも、君に伝えたいことがある」
「はい、何でしょうか?」
「俺はメルビスの歌に感謝してる。そして今日、改めて思ったんだ。メルビスのように、人の心に何かを残せるようなことがしたいって」
「……」
「だから、俺も君に負けないよう頑張るよ」
ゴーシュはそう言って、メルビスに手を差し出す。
メルビスは差し出された手とゴーシュの顔を交互に見やり――、
「ええ。期待しています、ゴーシュさん」
とても嬉しそうにはにかんで、その手を握った。
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