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第2章 大剣オジサンは更なる注目を浴びる

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第28話 歌姫メルビスの歌唱とゴーシュの決意


「《シャルトローゼ》にお越しの皆様、こんばんは」


 壇上に上がったメルビスは皆を見渡し、透き通った声で挨拶をする。


 メルビスの歌唱が生で聞けることを心待ちにしていた客たちは、落ち着かない様子で視線を送っていた。


(凄いな……。挨拶をしているだけなのに、会場の雰囲気がメルビスに染められていくみたいだ)


 ゴーシュもまた緊張した面持ちでメルビスを見つめる。


 今日のメルビスの歌唱は配信されるということもあり、微精霊の交信を介して視聴しているフェアリー・チューブのリスナーたちも興奮気味にコメントを打ち込んでいた。


【待ってました!】

【今日もメルビスちゃんがカッコ可愛い】

【ふつくしい……】

【会場で聞ける人たちが羨ましい!】

【といっても《シャルトローゼ》のチケットなんて私たちじゃ手に入りませんしね】


【会場も良い雰囲気だなぁ。一生に一度でいいから行ってみたい】

【↑そもそも相手いるのか? あそこ、カップルで行く場所だぞ】

【↑許さない、絶対に】

【ごめんてw】


【今日歌うのはこの前発表した新曲かな?】

【あれめっちゃいい曲だよなぁ】

【さすがメルビスさんの配信は人が大勢いますね】

【まだ歌う前なのに同接数がヤバいw】


【同時接続数:684,909】


 フェアリー・チューブ上ではそのようなやり取りが繰り広げられ、ゴーシュたちがいる会場とはまた違った盛り上がりを見せていた。


「それでは、皆様の時間に少しばかりの歌を添えさせていただきます。どうぞ、お聞きください――」


   ***


 音楽という文化がなぜこの世界にあり、人々の心に残るのか?


 メルビスの歌唱はその答えを示すかのようだった。

 それほどまでに、圧巻だった。


 落ち着いた曲調。

 それでいて不思議と心を力強く揺さぶるかのように響くメルビスの美声。


 絶妙な加減で調和されたその旋律は、全ての聴衆の心を惹き付け、情熱という感情を与えていく。


 配信文化がこの世界にあって良かった、と。

 フェアリー・チューブのリスナーがコメントを打ち込んだ。


 そのコメントに多くの人間が賛同し、メルビスの歌唱を聴くことができる幸運に感謝する。


 ――現在のフェアリー・チューブで、トップを誇る稀代の歌姫。


 それを証明するかのような時間が流れていく。


「凄いですよね」


 曲の間奏に入って、ミズリーがゴーシュにだけ聞こえる声量で呟いた。

 ゴーシュは心の底から同意して頷く。


「ああ、本当に凄い。改めて思い知らされるよ。彼女が特別なんだってこと」

「ふふ。お姉ちゃん、小さい頃からいっぱい努力してきましたからね。来る日も来る日も、家にいる時はずっと歌を歌っていて。歌でみんなの心に何かを残せるような、そんな人になるんだって」


 ミズリーは柔らかく笑い、そしてその後に少しだけ真剣な表情を浮かべて続けた。


「実は私、お姉ちゃんにちょっとだけ嫉妬していた時期があったんです」

「そうなのか?」


 今度はミズリーが小さく頷く。

 ミズリーのことを、常に前だけ見ているような少女だと思っていたゴーシュにとって、その話は少し意外だった。


「まだ私が小さい、昔のことですけどね。配信を始めて、大勢の人から注目を浴びていくお姉ちゃんを見て、嬉しくて、でも同時にどこか寂しくて。私とは違うなぁって、ちょっと卑屈になったりもして」

「……」

「でも、ある日お姉ちゃんが言ったんです。別に私と同じである必要はない。私にとっては歌が特別だったけど、ミズリーにはミズリーの特別がきっとあるはずだからと。それを見つけなさいって」

「そうか……。良いお姉さんなんだな」

「はい。本当に、尊敬できる自慢のお姉ちゃんです」


 ミズリーが金の髪を揺らしながら、屈託なく笑う。

 それを見て、ゴーシュはどこか温かい気持ちに包まれるのを感じていた。


(俺にとってそうだったように、ミズリーにとってもメルビスは大きな影響を与えてくれた人なんだろうな)


 再び歌い始めたメルビスに視線をやりながら、ゴーシュは感傷に浸る。


 と同時に、新たな決意を心の内に浮かべていた。


(やっぱり、俺もあんな風になりたいな。メルビスのように、人の心に何かを残せるような、そんな配信ができるように……)


 ゴーシュはそんな想いを抱き、自然と笑みを浮かべる。


 そして、その視線の先ではメルビスが最後の小節を歌い終えたところだった。


【同時接続数:1,398,579】




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