第27話 王都一の高級レストラン《シャルトローゼ》
「はぁー、まさか幻のキラキラサーモンが食べれるなんて。幸せですー」
「本当だな。それに、さっきの、グレートボアの芳醇肉だっけ? あんなの初めて食べたよ。さすが王都一の高級レストランだな」
運ばれてくるコース料理も半ばというところ。
ゴーシュとミズリーは絶品料理の数々に舌鼓を打っていた。
「だいぶお客さんも増えてきましたね」
「ああ。きっと、この後に予定されているメルビスの歌唱配信が目当てなんだろう。早めに来ておいて良かったな」
ゴーシュは卓上に置かれた果実酒をミズリーに注いでやりながら相槌を打つ。
「あ、ありがとうございます、ゴーシュさん」
酒を注がれたミズリーは照れながら言ったが、これで早くも10杯目である。
(酒を飲みながらリスナーと雑談する『晩酌配信』ってものがあると聞いたけど。ミズリーなら平気でやっちゃいそうだな……)
ゴーシュは美味しそうに果実酒を呷るミズリーを見て、そんなことを考える。
そして、自分も果実酒を呷り一息ついた。
酒で酔いが回ったからか、それとも《シャルトローゼ》の雰囲気がそうさせるのか、ゴーシュはミズリーに対し、ぽつりと言葉を漏らす。
「ミズリー、ありがとうな」
「え? どうしたんですか、改まって」
「いや、ミズリーが声をかけてくれなければ、俺は今も田舎で農家をやっていただろうからな。ミズリーとの配信ギルドはまだ始めたばかりだけど、これまで体験できなかったようなこともできて、本当に感謝してる。だから、ちゃんと伝えておきたくて」
「ゴーシュさん……」
それは、ゴーシュの本心からの言葉だった。
真っ直ぐに自分を追い求め、転機のきっかけを与えてくれたミズリーへの感謝。
そして、彼女に報いたいという気持ちをゴーシュは言葉として紡いでいく。
バックミュージックの穏やかなピアノの曲も手伝って、二人の間に緩やかな時間が流れる。
そして、ゴーシュの言葉を受けたミズリーは――。
(こ、これ以上はマズいです……! 私、今絶対に変な顔になってます! ゴーシュさんの言葉が眩しすぎてニヤケちゃいます!)
案の定というべきか、平常運転というべきか、興奮を押さえつけるのに必死だった。
***
「お、いよいよだな」
会場がにわかにざわつき始め、歌姫メルビスの歌唱が始まることが知らされた。
会場内の灯りが落とされ、誰もが食事の手を止めている。
あのメルビスの歌唱が生で聞けるということもあってか緊張している客もいて、それはゴーシュも同じだった。
対するミズリーは目をキラキラと輝かせており、姉を応援する妹の姿がそこにはあった。
大勢の注目が集まる中で、歌姫メルビスが姿を見せる。
奥の方の扉から、一段高いステージへと。
メルビスはただ歩いているだけだったが、観客たちは一様に息を呑み、その様子を見守っていた。
(これが、フェアリー・チューブでもトップを誇る配信者の空気感か……)
ゴーシュがそう考えながら眺めていると、歩くメルビスは視線だけをゴーシュの方に向ける。
その時、メルビスがわずかに口の端を上げたことに気づいたのはゴーシュだけだった。
(今の、笑ったのか? 挨拶のつもりかな……)
稀代の歌姫と呼ばれるほどの存在なのに中々お茶目なところがあるんだなと、ゴーシュは壇上に上がるメルビスを見て苦笑した。