第25話 結婚式の際もぜひご贔屓に
「こんな感じでいいかな?」
「バッチリです、ゴーシュさん! というより、すっごくカッコいいです!」
夜――。
ゴーシュとミズリーは王都有数の高級レストラン《シャルトローゼ》に向かうための準備をしていた。
さすが高級レストランというだけあって格式が高いらしい。
《シャルトローゼ》にはドレスコードが定められていたため、ゴーシュとミズリーは衣装のレンタルをすることにしたのだ。
「ミズリーもすごく似合っているよ。普段より大人っぽい印象だな」
「ふへへ~。そう言われると嬉しくなっちゃいます~」
顔を蕩けさせたミズリーを見て、やっぱりちょっと子供っぽいかもなとゴーシュは苦笑した。
「良いですねぇ、お客様。とってもお似合いだと思いますよ~」
服飾店の店員も、衣装を来た二人を見て溜息を漏らす。
「あ、ありがとうございます」
「うんうん。男性のお客様はジュストコール風の衣服にアスコットタイが紳士的な雰囲気に大変よくマッチしていると思います。女性のお客様はアリストクラットドレスですね。元々のスタイルがとても良い方なのでこれもすごく素敵です。やっぱりフランセーズまでいくと少しかしこまりすぎちゃうかと思いますしこれくれいがちょうど良――」
「「……」」
ペラペラと語りだす店員。
ほとんど何を言っているのか分からず、ゴーシュとミズリーは揃って苦笑いを浮かべるしかない。
「と、とりあえずこちらをレンタルでお願いします」
「ありがとうございますー。あ、そうだ、お客様」
やっと解放されるかと安堵の息をついたゴーシュだったが、店員から声がかけられる。
「ぜひお二人のお姿を当店のフェアリー・チューブ配信に載せさせていただきたいのですがいかがでしょう? 当店としても宣伝になりますし、もちろんその分お値引きさせていただきますよ」
「えっと、それはまったく構いませんが……」
なるほど、こういう宣伝の仕方もあるのかとゴーシュは感嘆しつつ、思案顔になった。
「でも俺も入って良いんですか? 何というか、俺みたいな冴えないオッサンが入るより、ミズリーだけの方が良いのでは?」
「何を言ってるんですか。今のゴーシュさん、とってもカッコいいですよ! あ、普段からもですけど」
「ですです。とてもハンサムな感じで、きっとファンができるくらいですよ」
「ま、まあ店員さんが良いのでしたら……」
「ありがとうございますー」
過大評価だなぁと思いつつ、ゴーシュはミズリーと揃って簡単な撮影をされることになった。
ちなみにこの後、普段とは異なる装いに身を包んだゴーシュとミズリーの姿が公開されると、それぞれのファンが悶えることになるのだが、それはまた別のお話である。
「と、そろそろ時間だな」
「そうですね。《シャルトローゼ》に向かいましょう」
「どうも、ありがとうございました~」
ゴーシュとミズリーは撮影と会計を済ませた後で店員に見送られることになる。
「あ、当店は結婚式を上げる時のドレスやタキシードなどの衣装も手掛けておりますので、その際はぜひ~」
「ふぇっ!? け、け、結婚……!?」
最後に店員が発した営業文句を受けて、ミズリーは分かりやすく赤面する。
それからミズリーが平静を取り戻すまでには少し時間がかかった。
***
「あれが王都随一の高級レストラン《シャルトローゼ》か……」
「すごく幻想的な場所ですねぇ。あそこで配信したくなっちゃいます」
高台に向かう馬車の窓から外を覗いたゴーシュとミズリーは思わず声を漏らす。
店の奥には観賞用の小さな滝があり、そこから流れる水は店の周囲に引かれていた。
入り口に向かう通路を取り囲むようにして張り巡らされている水路は夜の灯りを受けて輝き、何とも小洒落た空間を演出している。
「到着致しましたお客様。それではごゆっくりお楽しみください」
店に向かう送迎用の馬車が停止し、御者が声をかけてくる。
これもまた管理が行き届いているのか、対応が丁寧である。
(なるほど。なら俺も恥ずかしくないよう振る舞わなきゃな)
「それじゃ降りようか、ミズリー。手を」
「え? は、はい」
馬車のステップから降りる際、ゴーシュに手を差し出され、ミズリーは反射的にその手を取った。
ゴーシュにエスコートされるまま手を引かれながら、ミズリーは心の内で思う。
(こ、これは……何というか、すごくオトナです! それに、ゴーシュさんの手に自然と触れることができて……。あ、ヤバいです。また何度でも来たくなっちゃう。これが名店の力……!)
ひとつ付け加えると、別に店は関係無いのだが……。
何にせよ、ミズリーにとっては早くも刺激的な時間を過ごせていることに満足感を感じているようだった。