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第24話 【SIDE:炎天の大蛇】誤った選択


「クックック。やっぱりこの手の配信は儲かるな。堪んねぇぜ」


 《炎天の大蛇》のギルド長執務室にて。


 ギルド長アセルス・ロービッシュは机に積まれた金貨を前にしてほくそ笑んでいた。

 先月のフェアリー・チューブの広告収益としての金銭が送られてきたのである。


「ギルド長ってば、ほんと人の注目を集める天才ですぅ。この調子なら魔物討伐の配信なんて古臭いことしなくても大丈夫そうじゃないですか?」

「そうだなプリム。お前の言う通り、もう魔物討伐の配信なんてヤメだヤメ。適当にどっかの飲食店に行ってクレーム入れてた方が手っ取り早く稼げるってもんよ」

「ですよねですよね?」

「ああ。お前にも良い思いさせてやるぜ、プリム」

「フフフ、ギルド長ってばぁ。大好きですぅ~♪」


 アセルスの甘言にぶりっ子のような振る舞いで返したのは、《炎天の大蛇》のギルドメンバー、プリムである。


 執務机を挟んでではなく、アセルスの首に抱きつくようにして絡むその姿は、まさしく愛人女性としての振る舞いだった。


 対するアセルスも満足そうに下卑た笑みを浮かべ、執務机にどかっと足を乗せる。


 ある時点(、、、、)を境にして魔物討伐の配信が失敗続きであるにもかかわらず、《炎天の大蛇》は配信により多くの収益を叩き出していた。


 その「ある時点」というのは言わずもがな、ゴーシュを笑いものにして追放した日のことなのだが……。

 冴えない中年のオッサンが自分たちのギルドに貢献していたなど、アセルスたちは想像すらしない。


 先の配信でも魔物討伐で醜態を晒してしまったアセルスだったが、配信自体は変わらず好調であるため、上機嫌だった。


「ギルド長! た、たた、大変ッス!」


 しかしそんなアセルスの慢心を打ち破るかのように、男性のギルドメンバーが駆け込んできた。

 プリムと同じく、ゴーシュの追放配信の際に一緒にいたギルドメンバー、ニールである。


「どうしたよ、そんなに血相変えて」

「これ見てくださいッス!」

「何だこれ? S級ダンジョン《青水晶の洞窟》攻略配信……?」


 ニールが開いたフェアリー・チューブの過去配信動画を見て、アセルスがそこに表示されていた配信タイトルを呟く。


 配信を糧とするギルドでありながら、市場分析等に怠惰であるアセルスにとっては、初めて見る動画だった。


「これ、立ち上げたばっかりのギルドが先日行った配信なんッスが、タイトルの通りS級ダンジョン攻略に挑戦した配信でして……」

「ハハハ! 新参のギルドがS級ダンジョン攻略に挑戦だと? そんなことできるわけねえじゃねえか。配信業界なめんじゃねえぞ!」

「プークスクス。ギルド長の言う通りですぅ。ニールさんってばちょーウケますぅ」


 ニールの発言を聞いたアセルスは大口を開けて笑う。

 隣に立っていたプリムも同じ。


 発足間もないギルドがS級ダンジョン攻略などできるわけないと。

 そこに限ってはアセルスやプリムの考えはもっともである。


 しかし――。


「と、とにかく、内容を見てもらえば分かるッス。適当なところから流すッス」

「美少女が触手系のモンスターに絡め取られてるとかか? それなら見てやるぜ?」

「もー、ギルド長ってばぁ」


 アセルスはニヤニヤと笑いながら、映し出された配信動画を覗き込む。

 そこには、中年の男性と金髪の少女の後ろ姿が映っていて、ダンジョン内の魔物と出くわしたところだった。


「なんだよ、ギルドつっても二人で攻略しようとしてんのかよ。馬鹿じゃねえのか?」


 アセルスは嘲笑を漏らすが、画面に映された少女が巨大な魔物を撹乱する様子が流されると、表情が変わる。


「――っ。なんかこの子、めちゃくちゃ強くねえか? 相手にしているゴーレムもめちゃくちゃな強さだろ。……っていうかこれ! 前にウチのギルドに来た娘じゃねえか!?」


 ゴーシュの追放配信の後、《炎天の大蛇》を訪れたミズリーのことはアセルスも記憶していた。


 その時は単に「めちゃくちゃ可愛い女の子」という印象だったのだが、画面の中の少女は常人離れした動きで巨大な魔物――クリスタルゴーレムと互角に渡り合っている。


「あの娘、こんなに強かったのか……。くそっ、あの時なんとしてでもギルドに入ってもらえば良かったぜ」

「これも凄いんッスが、見てもらいたいのはこの後ッス」

「え?」


 ニールが曇った表情を浮かべていて、アセルスは思わず声を漏らす。


 そして、その場面は流された。


「はぁっ!?」


 アセルスが素っ頓狂な声を上げたのも無理はない。


 そこに映し出されたのは、かつて自分が半年前に解雇を命じた中年男性――ゴーシュ・クロスナーがクリスタルゴーレムを討伐するところだったからだ。


「な、な、なんでゴーシュの野郎がこんな……」

「今、巷ではこの二人のギルドが噂になってるッス」

「……」

「ちなみに、この配信の同接数は最大で12万を超えたッス」

「じゅ、12万!? ウチのギルドでも最大は1万ちょっとだぞ!?」

「でも、そりゃ納得ッス。立ち上げたばかりのギルドがたった二人でS級ダンジョンを攻略しちゃったんッスから。世間は大賑わいッスよ。……あ、ちなみに自分、ミズリーちゃんのファンクラブに入ったッス」


 アセルスは開いた口が塞がらなかった。


 自分がギルドの負債だと決めつけて解雇した冴えないオッサンが、S級ダンジョンを攻略できる実力の持ち主でしたなどといきなり言われても、信じることなどできるはずがなかった。


「ふざけんな! こんな……ゴーシュの野郎が、こんな……」

「ゴーシュさんの無双っぷりも凄いって世間では大評判ッス。領主が騎士団長の座を用意したとか、A級冒険者が弟子にしてほしいとか。とある令嬢が婚約を申し込もうとしてるって噂も――」

「もういい! こんなんデタラメに決まってる! どうせ大金で傭兵団雇って、後ろから魔法でサポートさせてたとかそんなんだろ!」

「い、いや、どう見てもそんな感じじゃ――」

「うるせぇ! とにかく、今はとっとと出てけ!」


 アセルスの勢いに追い出されるようにして、ニールは執務室から出ていくしかなかった。


「まさかあのゴーシュさんがこんな実力の持ち主だったなんて、ちょー意外ですぅ」

「くっ……」


 アセルスは顔をしかめ、苛立たしげに拳を叩きつける。


 ――自分がどれだけの逸材を追い出したか、そのうち思い知ると思いますけどね。


 思い出されたのは、《炎天の大蛇》を訪れたミズリーが去り際に残していった言葉だった。


「どうします? ゴーシュさんに謝ってギルドに戻ってきてもらうとか」

「ふざけんな。そんなこと、できるわけねえだろ!」

「怒らないでくださいよぅ……」


 プリムの発した言葉も、アセルスにとっては自身を責める棘でしかない。


 一刻も早くこの話題は終わりにしたいとアセルスは立ち上がり、窓の方へと歩を進めた。


 今はゴーシュのことを考えたくない。

 それよりも、次の配信で何をやるか考えようと。


 現実逃避するかのように、アセルスは窓の外を眺める。


 と、その視線の先で、高台に位置した「ある建物」が映った。


(確か、王都でも有名な高級レストランだったか……。ケッ、どうせ格式だけ高くて大儲けしてる店なんだろ。人が悩んでるってのに、良いご身分だぜ。……ん? 待てよ?)


 その時アセルスの頭を巡る考え。

 それは、次の配信のネタだった。


「おいプリム。良いこと思いついたぜ」

「お、なんですなんです?」

「俺とお前で、あの高級レストラン行かねえか?」


 アセルスはニヤリと笑って、窓の外――高台に位置した高級レストラン《シャルトローゼ》を指差す。


「えっ、あのシャルトローゼに行けるんですか!?」

「ああ。幸いにも金ならちょうど入ってきたことだしな。二人分のチケットならすぐに用意できるだろうよ」

「行きます行きます! シャルトローゼっていえば、あの歌姫メルビスちゃんが歌いに来ることもあるっていうちょー有名店じゃないですかぁ。さすがギルド長、ちょー太っ腹ですぅ!」

「ああ。ただ、今回は仕事でもあるからな」

「ん? どういうことです?」


 アセルスは口の端を上げたまま、プリムにそっと耳打ちした。

 囁いたのは先程自身の元に舞い降りた閃きについて。


 それを聞き終えたプリムが目を見開き、アセルスの作戦に感嘆の声を上げる。


「ギルド長ってば、天才です! そういう配信なら同接数も増えること間違いなしですよぅ!」

「フフフ。だろ?」

「そういうことなら早速チケットを2枚取得して、と……。あっ! 今日、メルビスちゃんがシャルトローゼで歌唱配信やるらしいですよ!」

「お、そりゃいいな。それならより注目も集まるだろう。クックック、歌姫メルビスが訪れるほどの名店。そいつが慌てふためく様が今から楽しみだぜ」

「はいっ! メルビスちゃんの生歌を聞ける上に配信のネタもできて、ちょーラッキーですぅ!」


 歓喜に湧くアセルスとプリム。


 それは果たして本当にラッキーと言えるのか。


 その答えが分かるのは、数時間後のことである――。



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