第22話 王都の中心街にて
「ふっ。はっ――」
大剣オジサンこと、ゴーシュ・クロスナーの朝は早い。
朝のランニングから始まり、自身の背丈ほどもある大剣の素振り。
そして四神園源流の型を元にした運動などなど。
ゴーシュはギルド《黄金の太陽》の宿舎前で、日課としている反復を余念なくこなしていた。
一方――。
「ふにゅぅ……」
金髪美少女、ミズリー・アローニャの朝は遅い。
理由は単純。昨晩、酒を飲みすぎたからである。
「ふへへー。ゴーシュさん、もう飲めませんよぅ……」
ミズリーはベッドの上で布団にくるまり、蕩けた寝顔を晒している。
もちろん配信などはされていないが、もしこの様子が知れることになれば、それはそれで熱狂的なファンを生み出すに違いない。
そうしてゴーシュがとっくに朝の日課を終え、広間で暇を持て余していたところ、ギルド内にミズリーの声が響き渡る。
「あぁあああ! すいませんゴーシュさん、寝坊しましたぁあああ!」
***
「うぅ……。すみません、今日は朝からギルドの家具とかを買い出しに行く予定でしたのに」
「気にする必要はないさ。別に急いでいたわけじゃないし、こうして昼からでも十分に見て回れるだろうしな」
太陽が真上に昇ろうかという時間になって、ゴーシュとミズリーは王都グラハムの中心街へと繰り出していた。
「それにしても、良かったのか? ミズリーには元々自分の家があっただろうに、ギルド宿舎に住むことになって」
「はい。家にはたまに帰れば問題ないですし、ギルドからは少し離れていますからね。ギルドに住むことにすれば時間も有効活用できるかと」
「それもそうか。その方が朝起きるのが遅くても問題なさそうだしな」
「あぅ……。ゴーシュさんってば、イジワルですよぅ」
ゴーシュとしては何となしに言ったつもりだったのだが、どうやらミズリーは寝坊していることを茶化されたと思ったらしい。
可愛らしく肩を落とし、トボトボと歩いていた。
「しかし、ギルド協会には感謝だな。ギルドを立ち上げたばかりの俺たちに、あれだけ広い活動拠点を充てがってくれて。あの時は実績も何も無かったはずなのに」
「あの受付嬢さん、ゴーシュさんがモスリフでフレイムドラゴンを倒した時から配信を見ていたらしいですからね。これからゴーシュさんがもっともっと人気になるって期待して手続きしてくれたんですよ、きっと」
ギルド協会で立ち上げ手続きをした時のやり取りを思い出しながら、ミズリーが得意げな笑みを浮かべる。
実際にゴーシュとミズリーのギルド《黄金の太陽》に充てがわれた活動拠点はとても広い建物だった。
家具こそ付いていなかったものの、三階建ての宿舎一体型で、広間に調理場などのおまけ付き。
あの分であればギルド内で配信をすることもできるかもしれないと、二人にとっても大満足の物件だった。
「でも、あれだけ広いと俺たちだけじゃ手に余りそうだ。個室だけでもかなりあったし」
「配信で注目を浴びたら私たちのギルドに入りたい人もたくさん来てくれるでしょうし、あれくらいがちょうど良いですよ」
「なるほど。確かにそうか」
「そうだ! 私、魔法とか使える人がほしいです! きっと配信に参加してくれたら盛り上がると思うんですよね。こう、ババーンと!」
言って、ミズリーは大げさにアクションを取る。
何にせよミズリーが嬉しそうなので良いかと、ゴーシュはその光景を眩しそうに眺めていた。
そうして、何件かの家具屋を周り、配送の手続きを済ませ、陽も傾き始めていたところ。
「あ」
「あ」
ゴーシュとミズリーが揃って声を上げる。
その視線の先に見知った顔があったからだ。
「ウェイウェイウェ~イ! それじゃあ今日の配信はここまで。また明日からも可愛い女のコを発掘していこうと思いまーす。じゃあまたまた~」
その人物は赤い長髪をわざとらしく掻き上げ、配信画面の向こうにいるリスナーにウインクしていた。