第20話 祝杯と、衝撃の事実
「ゴーシュさん、本当にお疲れ様でした!」
「いやいや、ミズリーのおかげだよ。俺の方こそありがとうな」
夜になって。
ゴーシュたちは酒を交わし、今日の配信が大成功に終わったことを祝っていた。
「ほんとにゴーシュさんはすごいです。あんなでっかい水晶の塊を剣一つで倒しちゃうんですから」
「それはミズリーが相手を撹乱してくれたおかげだからな。俺一人じゃ厳しかったと思うよ」
「いえいえいえ、そもそも私はゴーシュさんの配信から見様見真似で剣を覚えただけですから」
ちなみにミズリーが今飲んでいるのは本日10杯目の麦酒である。
今のようなやり取りも既に何回か行っている。
(まあでも、こんな風に真っ直ぐに喜んでくれるのは嬉しいものだな)
ゴーシュはそんな感慨を心の中で呟き、手にしていた酒を呷る。
二人は初め、王都グラハムの酒場に行こうとしたのだが、今日の配信を見てくれた視聴者たちに見つかったら騒ぎになりそうだったため、今はギルド宿舎の広間にて酒盛りを開いている。
……もう一つ、またミズリーが酔いつぶれた場合に備えてという保険的な思考もゴーシュの中にはあったが。
「見てください、ゴーシュさん。今のところ私たちのギルドが1位ですよ1位!」
ミズリーがある配信画面を開き、笑顔を浮かべた。
それはその日のフェアリー・チューブの話題をまとめた配信で、獣人族の少女が綺羅びやかな衣服を纏って映っている。
【今日の配信ニュースで特に目を引いたのはやっぱり新鋭ギルド《黄金の太陽》だニャ! なんと最大の同時接続数が10万を超えたんだニャ~!】
配信を行っている獣人族の少女は尻尾をフリフリと動かしながら、我が事のように興奮した様子で話し続けている。
――同時接続数が10万を超えた。
――このスピードでの6桁超えは異例の早さである。
――配信者をお気に入りとして登録する「ファン登録」も8万を超えた。
――今後もどのような配信が行われていくのか楽しみだ。等々。
獣人族の配信者が語る内容はどれもゴーシュたちのギルド《黄金の太陽》の凄まじさを表していた。
【いや~、めでたいことだニャ。最近はどこそれのギルドの配信が炎上してるとか暗いニュースが多かったからニャ。やっぱりこういう明るいニュースを流せるのは良いことニャ】
「何というか、こういう風に取り上げられるのは恥ずかしくもあるけど、嬉しいな」
「そうですね。次の配信も頑張らないとですね」
と、ゴーシュとミズリーはしばらく獣人少女の配信を見ながら酒を交わしていたのだが……。
【ニャニャ! ここで続報ニャ!】
「ん?」
【今日の同接数ランキングが入れ替わったニャ! あの歌姫メルビスちゃんが1位に躍り出たニャ。同接数は……な、な、なんと100万超えだニャ!】
「――っ」
配信者の獣人少女が驚きの声を上げて、その内容にゴーシュとミズリーも驚きの表情を浮かべる。
【同接100万超えとは恐れ入ったニャ~。なるほど、どうやらサプライズで新曲の発表があったらしいニャ。さすが500万人のファン登録数を誇る歌姫メルビスちゃん、圧倒的ニャ。……私も後で見るニャ】
桁違いの数字が読み上げられ、ゴーシュもミズリーも酒を飲んでいた手が止まった。
「……」
ゴーシュは自然と口角が上がっている自分に気付く。
その時ゴーシュの胸の内にあったのは悔しさではなく、もっと別の感情だった。
「うーん、私たちの同接数が抜かれちゃいましたか」
「ああ。でもさすが稀代の天才歌姫と呼ばれたメルビスだな」
「何だか嬉しそうですね、ゴーシュさん」
「ああ。メルビスは俺を変えてくれた配信者だからな」
「ほうほう?」
興味津々といった様子で覗き込んでくるミズリーを尻目に、ゴーシュはぽつりぽつりと昔を懐かしむように語り出す。
「まだ《炎天の大蛇》にいた頃、本当に辛かった時期があった。疲れ果てて宿舎に帰ることを繰り返しているような毎日で、何の目標も持てずにいて……。あの時はただ同じような日々を漠然と送っている感じがしてな」
「へぇ……。ゴーシュさんにもそんな時期があったんですねぇ」
「そんな時、俺に活力を与えてくれたのが歌姫メルビスの配信だった」
ゴーシュは一度言葉を切って、手にしていた酒器をグイッと呷った。
「惹き付けられたよ。何というか、言葉では表現しにくいけど」
「……」
「それからかな。俺もあんな風に人に希望を与えるようなことがしたいって思って、動画配信という文化の可能性を知って、興味を持ち始めて……。ハハハ、すまん、ちょっとクサいな」
「いえいえ。すごく素敵なことじゃないですか。誰かを見て憧れる感情は私もよく知っているつもりですから」
「……そうか」
ミズリーの青い瞳に見つめられ、ゴーシュはどこか気恥ずかしくなる。
と同時に、こんな風に真っ直ぐなミズリーと配信ができているのは幸運なことだな、とも。
「でも、見る人にそこまでの影響を与えるなんて、お姉ちゃんはやっぱりすごいですねぇ。私ももっと頑張らないと」
「そうだな。本当にすごい配信者だと思うよ、メルビスは」
相槌を打ち、再び酒器に口を付けようとして。
そこでゴーシュは手が止まった。
先程のミズリーの言葉が遅れて頭の中に飛び込んでくる。
「ミズリー、今、何て言った?」
「え? 私ももっと頑張らないと、って」
「いや、そこじゃなくその前」
「お姉ちゃんはすごいなぁ、と」
ミズリーが平然と言ったその一言に、ゴーシュは目を見開く。
「ま、待て待て待て。え……? お姉ちゃんって、え? ミズリーってあの歌姫メルビスの妹なの?」
「あ、なるほど。確かにまだ話したことなかったですね。そうですそうです。メルビスは私の姉なんです」
まったく表情を変えずに言ったミズリーに、ゴーシュは開いた口が塞がらなくなった。
それも無理はない。
まさかミズリーがフェアリー・チューブで大人気を誇る歌姫の妹だったとは、と。
ゴーシュは一気に酔いが覚めたような心地だった。
「私、小さい頃からお姉ちゃんを見てきまして、だから私もお姉ちゃんみたいになりたいなぁと思って、動画配信に興味を持ち始めたんです」
「メルビスみたいに?」
「あ、でも歌を歌いたいってわけじゃないんですよ。むしろ、色んな配信をやってみたいなって」
ミズリーは語る。
その青い瞳は輝いていて、ミズリーの純粋さが表れていた。
「お姉ちゃんにも言われたんです。配信をやるなら、縛られずに色んなことをやってみなさいって。そうすれば、あなたがどんなことをしていきたいかも見つかるはずだからって」
「なるほどな。だからミズリーは配信ギルドをやろうと思ったんだな」
ゴーシュは頷き、納得する。
確かに、様々な配信を行っていくのであれば配信ギルドというのは都合がいいだろう。
一人ではできないことも、人が集まることによってできるようになることもあるからだ。
「あとの理由はきっとゴーシュさんと同じです。お姉ちゃんみたいに、大勢の人を笑顔にするようなことをしたいなって思ったんです」
「そうか……」
「それで、ある時ゴーシュさんが出ている配信を見つけて、ひと目で憧れて。そこからはもう何回も見てきて……。って、何だかちょっと恥ずかしいですね」
にへらっと屈託のない笑顔を向けてきたミズリーを見て、ゴーシュも自然と笑みが溢れる。
そして、ミズリーと一緒に配信ができるという縁に感謝し、嬉しそうに酒を呷るのだった。
●読者の皆様に大切なお願い●
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
ここで第1章が終了となります。
第2章も更に盛り上がってまいりますのでぜひご期待くださいませ。
この場をお借りして読者の皆様に大切なお願いです。
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