表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劇団彼岸花  作者: 友好キゲン
7/7

霊と人形と妖精っぽい人

お久しぶりの投稿です。

今年もお盆が近付いてきたので、ここからまた「劇団彼岸花」を不定期に投稿します。


「…パックがお礼を申します。」


最後にイタズラ妖精の口上で幕を終える。

観客席からは拍手が鳴り響く。俺たちも拍手をする。メアリーさんも感動してくれたのか人形の手でカツコツと叩いていた。

やがて拍手の嵐が静まり、劇場内が明るくなる。観客の退場の時間だ。

「さて、俺たちも出ますか。」

「そうじゃな。にしても面白かったの〜。今の芸はこういうのもあるんじゃな。」

俺はメアリーさんを抱えて席を立ち、椿さんと共に出口へと向かう。

椿さんは今回の劇を楽しんでくれたのか、劇場から出るまで待てずに笑いながら感想を言っていた。

うんうん、気持ちは分かるよ。初めてこれを見た時、エネルギーを真正面から受けたような感覚になった。この作品の影響を受けて芝居の世界に足を踏み入れたんだっけな。

でもごめんね椿さん、感想を言ってくれるのはいいんだけど、公衆の面前では俺は反応できないんだ。電車の時の二の舞にはなりたくないからさ。


「…まさか花の汁がこのような力を持っているとはな。儂が生きていた頃はそんな話聞いたこともなかったぞ。」

劇場を出て、人気がない道へ行く。

その間も椿さんの感動は止められず、ずっと感想を話していた。

「花って言っても三つの色を持つ特別な花だけどね。」

人気の少ない公園に着き、辺りを見渡し人がいないことを確認した俺はようやく椿さんの話に返答が出来た。

俺としても椿さんとメアリーさんにとって初めてかもしれない現代の芝居。その感想を家に帰るまで聞かないのは勿体ないだろう。

「メアリーさんはどう思った?」

俺は抱えていたメアリーさんを解放して、問いかける。

俺の腕から解放されたメアリーさんはぐーっと背を伸ばした後、口を開いた。

「とっても面白かった、特に妖精の場面。マリーが昔ベッドで話してくれた妖精のお話とは全然違う感じだったけど、これはこれで好きなお話だったわ。」

「人形の手であんなに拍手していたもんな。気に入ってくれたようでよかったよ。」

「でも、もしもマリーが観たらびっくりしちゃうかもね。妖精があんなにイタズラ好きだなんて。」

そう言ってメアリーさんは、家族(マリー)との大切な思い出に耽っていた。


「場合によってはイタズラの度が過ぎていたりするのは、人間と妖精の差なのかもしれんな。存在の差というのは怖いの〜。」

メアリーさんが耽る想いなど気にしないかのように、椿さんが口を挟んでくる。面白かったのは分かったけど、ちょっとは空気を読んで欲しい。そう思っていると、メアリーさんも同感だったのか無機質ながらもムッとした態度で口を開いた。

「椿もどちらかと言えば妖精サイドでしょ?幽霊だし。」

「そうじゃな。じゃがそうなるとメアリー、おぬしも儂と同じく妖精側じゃろう。」

「…岸橋もね。」

「え、俺も?」

何故か俺に矛先が向き、俺まで妖精サイドの仲間入りにされてしまった。俺、正真正銘の人間なんですけど。


「あの、メアリーさん、俺は見ての通りただの人間なんだけど…」

「ただの人間?私が知っている人間は例え私たちが視えたとしても迎え入れようとはしないはずよ。マリーは受け入れてくれたでしょうけど。」

「そうじゃ。初対面の儂を、話を聞いただけで迎え入れるなんて普通の人間では出来ぬことよ。」

「うぐっ、それは酔っ払った勢いと言いますか…」

「酔っ払っておったからと言って───儂が幽霊じゃったから良かったものの───女子(おなご)を連れようなんぞ誘拐じゃからな?」

「…おっしゃる通りで。」

返す言葉がなかった。何が酔っ払った勢いだよ、酔っ払おうが素面だろうが招いたことに変わりないのに。

確かに椿さんもメアリーさんも出逢って話して即受け入れだったもんな。相手が怪異や幽霊じゃなかったら誘拐で確実に捕まっている案件だ。

そう考えると、俺も感覚は妖精サイドなのかもしれない。

「まあ、そんなお主のおかげで、今こうして面白い舞台が見られたんじゃがな。」

「そうそう、だからそんな気にすることじゃないわよ、岸橋。」

妖精の仲間入りを自覚した俺が少し凹んでいるのを察したのか、付け加えるようにフォローを入れられた。大の大人が子どもに慰められることになるとは思わなかったな。この3人の中では俺が最年少なわけだけど。


「ほらっ、岸橋、この後はどうするの?まさかこのまま語り合って終わり…ってわけじゃないんでしょう?」

「…勿論。この感動が新鮮なうちに帰って、練習するよ!さっ、出発だ!」

「おおっ、ということは、また『でんしゃ』に乗るんじゃな?」

「そうだな。椿さんはあまりはしゃがないようにね。できる限り大人しく…ね?」

「分かっておる。最年長として、ここは落ち着きを保ってみせよう!」

俺は椿さんの心意気を信じ、再びメアリーさんを抱えて駅へと向かう。

椿さんが興奮しすぎて電車内でウロウロしないことを祈ろう。行きの電車みたいに呼び止めることになったら恥をかくのは俺だしな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ