第五話 遺された少女と新たな家族
「……ということで、ここに来たの。」
メアリーさんの過去の経緯を聞いて思った。
不幸な目に遭っているのは見た者ではなく、彼女自身だ。彼女はただ奪われてしまった家族との時間を取り戻したいだけなのだから。
「辛かったな、メアリーよ。安心せい、これからは儂が一緒じゃからな…」
椿さんも彼女の過去を聞いて、涙をポロポロ流しながら彼女に寄り添っていた。お互いに何か通じ合うものがあるのだろう。
「ところでメアリーさん、その館ってどこにあるんだ?」
俺はふとその館のことが気になった。
特に理由とかはないが、強いて言うなら廃墟から駅に着くまでの早さが、仮に隣の駅から来たとしてもあり得ない早さだったからだ。
「何処って、結構近くよ。駅から行こうとすると、岸橋の家とは反対方向にあるわ。」
「ああ、あの館か!」
メアリーさんが話す館は、地元では知る人ぞ知る建物だった。何なら最近は心霊スポットとして知られているのか、若者が度々肝試しをしようとして、霊を見たと騒ぎになる。
って、あの騒ぎの霊ってメアリーさんのことだったのか。
「知ってるの?」
「ああ、でも…」
俺は話すのを躊躇った。
あの館は地元ではよく知られる建物だ。
それだけの話なら別に言っても問題はない。
ただ、これは俺の爺さんから聞いた話なんだが、あの建物は爺さんが子供の頃から廃墟だったらしい。つまり、あの館が『廃墟じゃなかった頃』に彼女と住んでいたマリーさんとその親御さんは居場所はおろか、生死すら分からない状況だ。
「でも、なんじゃ?その口ぶりからして、お前さん、何か知っておるんじゃろ?」
「いや、その…実はな…」
俺は思っている事を話した。あの館が廃墟になったであろう頃のこと、マリーはもうこの世には居ないのではないかということ、他にも頭によぎったことを全て話した。
途中、椿さんが俺の口を止めようと仕掛けてきたが、それでも強引に話していった。今のメアリーさんに必要なのは真実だと思ったから。
話し終えた頃には、メアリーさんは目を瞑りただ俯きながら黙っていた。
暫く経って、彼女は重くなった口を開ける。
「本当は…何となくだけど、分かっていたわ。マリーがもう居ないんじゃないかってこと…でも信じたくなかった。もし信じてしまったら、私は本当に一人ぼっちになっちゃうから…」
「……」
掛ける言葉が見つからなかった。
自分から真実に近い事を言い放ったのに、言ってしまえばこうなる事は分かっていたはずなのに。
「のう、メアリーよ、行くところがないなら…お前さんが良ければなんだが、儂らと芝居を作らんか?」
「しばい?何、そのしばいって?」
「儂も此奴がやる芝居が何かはよく分からんのじゃが…おぬしに分かりやすく説明すると、おぬしの親友マリーとしたおままごとに近いかの。」
「そうなの、岸橋?」
「…そうだな、それが一番近いかも。ただ、おままごとよりもっと本格的にしたものだけどな。」
と、椿さんの話に合わせるように、メアリーさんに分かりやすく説明する。彼女がやった親友とのおままごとを、もっと大人数で、もっと色んな道具や表現を使って皆に伝えるものだと話した。
「それにな、これは儂がまだ生きておった時に言われたんじゃが…1つの作品を仕上げる仲間は家族と呼ぶらしいんじゃ。」
「家族…?」
メアリーさんは家族という言葉に反応を見せた。
確かに、劇団をやっている知人は、その劇団の団員のことを「家族」と呼んでいた。だから家族になるというのは間違いないのだろう。
「私、芝居っていうのがまだよく分からないけど、やってみたいわ!」
「そうか。というわけでお前さん、メアリーを招待せぬか?」
と、椿さんに提案される。
俺自身、役者が全然居なかったから受けてくれるなら有難い話なので、もちろん歓迎する。
こうして、俺たちは新たな役者、もとい家族としてメアリーさんを雇うことになった。
ただ、芝居がどういうものか把握してないらしいし、今度2人を連れて舞台を観に行くとしようかな。説明するよりも見てもらった方が早いだろうし。
俺は近日行われるであろう芝居のチケットを予約しておくのであった。