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劇団彼岸花  作者: 友好キゲン
3/7

第三話 人間を恨む人形の少女「メアリー」


『……私、メアリー。今、公園の前にいるの。』


あれから何度かメアリーと名乗る者から電話が掛かって来た。そして、電話に出る度に俺の住むアパートに近づいていることが分かった。

「あれ、これって巷で噂になってるあの電話か?」

俺はふと、ある噂を思い出した。なんでも、捨てられた人形が人間に恨みを持ち、電話を掛けながら徐々に近づいてくるらしい。そして、最後には背後に現れて、その姿を見た者は不幸な目に遭うとか…。

待てよ、それが本当だとしても、俺なら大丈夫だな。ここ10年脚本を取ってもらえてないことよりも不幸なことなんて中々無いだろうし。

そう考えたら、噂の不幸に対する恐怖心がなくなったので、そのメアリーから来る電話を楽しむことにした。

「にしても、駅から公園までを10分で移動するとか、メアリーさんってどんな化け物なんだ?」

そんな疑問が俺の頭を過ぎる。椿さんと出会ったあの公園、駅から徒歩だと1時間以上は掛かる場所にある。それをたった10分程度で来れているのだ。

椿さんは「町駕籠で来ておるんじゃろ」と平然と答えていたが、生憎現代に駕籠はない。タクシーはあるけど。

ということは、乗り物に乗ってきているのか?

今の霊って意外とハイテクなんだな。


ブーッ、ブーッ


おっと、噂をすれば電話が来た。一応画面を見る…非通知。よし、メアリーさんだな。

「もしもし、岸橋です。」

『もしもし、私、メアリー。今、あなたのアパートの前にいるの』

通話が切れた。

改めて電話の声をよく聞くと、メアリーさんは良い声をしていると感じた。綺麗で且つ体の芯にまで響く声。怨嗟が籠った話し方。電話越しからでも伝わる恐怖と臨場感。メアリーさんは、磨けば光るダイヤの原石かもしれない。

って、そうじゃない。もうアパートまで来ているのか?となると、もうすぐメアリーさんとご対面…いや、ご背面することになるのか。ちょっと緊張してきたな。


ブーッ、ブーッ、ブーッ


まだ緊張が和らいでいないのに、もう着信が来た。

「お前さん、今度は儂が出てみても良いか?」

早速応答しようとすると、そう椿さんが目を輝かせながら聞いてきた。

椿さん、ウキウキしてるとこ悪いんですけど、仮にも怨霊みたいな噂をされる人形を相手にしているんですよ?もっと緊張感を持って…って、この人も幽霊だったな。

それなら大丈夫かな、と思いスマホを貸す。

「えーっと、確かこうじゃったか…?」

1人で呟きながら通話のボタンをタッチして耳に当てる。

「もしもし。」

『もしもし、わた…あれ?人が違う…誰?』

「儂は椿と言うんじゃが…」

『あっ、そう。ごめんなさい、間違えたみたい。』

通話が切れた。

「お前さん、この板、ぷーぷーと鳴き始めたんじゃが…」

「あ、通話が切れたんですね。そうしたら、赤いところを触ってください。」

「赤いところ…ここじゃな。おっ、鳴き止んだぞ。いやあ、でんわって凄いんじゃな。文よりも早く伝えられるとは。」

椿さんは時代の流れをしみじみと感じていた。

彼女が携帯に感心していると、


ブーッ、ブーッ、ブーッ…


再び電話が来た。

「おお、またでんわが来たぞ。」

「今度は俺が出ますよ。さっき間違い電話だと思われてたみたいですし。」

そう言って、スマホを渡してもらい電話に出る。

「もしもし。」

『…誰?』

「岸橋です。」

『そう…よかった。もしもし、私、メアリー。今、あなたの住む部屋の前にいるの。』

通話が切れる。なんか通話相手が俺だと分かった時、一瞬だけ安堵の声が漏れた気がするが、恐らく気のせいだろう。何せ、メアリーさんは人間に対して怨念を持ってるって噂だからな。その人間に対して安堵する一面を見せるはずがない。


ブーッ


そしてすぐに電話が来た。丁度手に持っていたのですぐに電話に出た。

「はい、もしもし。」

『私、メアリー。今、あなたの後ろにぎっ』

「にぎ?」

そのまま通話が切れてしまった。

多分後ろにいるって言いたかったのだろう。なので、メアリーさんが後ろにいると思い振り返る。

するとそこには、子どもと同じくらいの大きさの球体関節人形とその人形が着ている服の襟元をがっしり掴む椿さんが居た。

「ちょっ、椿さん、何してるんですか?」

「いやな、此奴が急に現れたから、捕まえておいたんじゃ。」

「放して!というかあんた誰!?」

「いきなり入ってきて誰とは失礼じゃな。それに儂は椿というんじゃが、言ってなかったかの?」

「あんたが椿なの!?」

「そうじゃ。ちなみに、おぬしとは似て非なる亡霊じゃ」

「え、あんたが噂の?」

「噂?」

噂という単語に引っ掛かり問い返す。昨日の今日でどういう噂が立った気になったからだ。

もし、『小さい子をアパートに連れて行った酔っ払い』なんて噂を流されたらショックで立ち直れなくなりそうだけど…。それでも噂は気になるものだから。

「友達から聞いたのよ。このアパートに私達のような人じゃない存在と意思疎通が出来て、しかも友好的なやつがいるって。」

あーよかった、社会的に死ぬ噂は立ってなくて。霊的に死にそうな噂が立ってるけど……現にメアリーさんが来たわけだし。

「昨日の今日でそんな噂が立っておったんじゃな。それで、その噂を聞いて来たと…此奴に恨みとかあったのではないのか?」

「恨みなんてないわよ!」

「えっ、でも人間に恨みを持ってるんじゃないの?」

「私は確かに人間に恨みを持ってるわ。でも、それ以上に、私は人間が好きなの。昔みたいに見つけて欲しいだけ、そして、また一緒に遊びたいだけよ。」

「…詳しく聞かせてくれないか?」

俺はメアリーさんにも椿さんと同じような過去があると感じた。普段ならそんな過去には触れないようにしているが、せっかく俺目当てで来たくれたんだ。俺は彼女の口から昔起きたことを話してもらった。

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