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劇団彼岸花  作者: 友好キゲン
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第二話 霊との朝食と謎の着信

役者を集める前にまずはエネルギーを補充しよう。

今日は休日なので、朝食はしっかりとる。幽霊がご飯を食べられるか解らないが、一応椿さんの分も作ろう。

「「いただきます。」」

今日の朝食は、ご飯と味噌汁と玉子焼き。味噌汁も玉子焼きも自分で作ったものだ。

「のう、お前さん、これは何じゃ?」

「玉子焼き。」

「玉子とな!?」

玉子焼きを見て驚く椿さん。

「玉子にそんなに驚くことある?」

「驚かずにはおれんわ!いいかお前さん、玉子は高級なんじゃぞ!?昔見習いの頃に病で倒れた時に一度だけ卵の水煮を1つ食わせてもらえたんじゃが、20文もしたんじゃぞ!」

と、豪語する椿さん。

あれ、確か1文は今の日本円で30円くらいだって聞いたことあるから、20文だと…600円か。それを一人前分作るのに2個使っているから、昔だとそれだけで1200円くらいか。

しかも俺の好きな味付けは甘めの玉子焼きだから当然砂糖を使う。砂糖も昔は高級品で初期の頃は不死の薬とか言われてたんだっけ?ってことは、この玉子焼きは江戸時代に生きていた人達からしたら、高嶺の花とも言える代物ってこと?

そう考えると、椿さんには恐ろしく高級な朝食なんだろうな。

「玉子焼き、美味いな。都一番の芸者でもこれは食べられなかったじゃろうな。」

生前の記憶を思い出しながら、椿さんはしみじみと一口ずつ噛み締めている。

「のう、お前さん、儂が成仏したらこの玉子焼きを供えてくれぬか?」

まずい、この人、もう成仏した後のことを考えてらっしゃる。椿さん、貴女の役者人生…いや役者霊生はまだ始まったばかりですからね?

その後も、江戸の頃より美味くなった米(ブレンド米だけど)に感動して、お供え物のリクエストが増えた。


「「ご馳走様でした」」

いつもより賑やかな朝食を終え、食器を片そうとした時に驚くべきものを見た。

なんと、椿さんに出した朝食が、どれも朝食の時間でなったとは考えられない程に、水分が抜けてカラカラになっていた。原形は留めていたが、水分が全くないミイラみたいになっていたのだ。

「霊は水を欲しがるというけど、食事の際はその水分を頂くのか…」

幽霊と生活をするとこういう驚きや発見があるから、脚本家としては有難い体験だ。



食器を片し終えた俺は、早速椿さんと会議を始める。

脚本や役を決める前に、まずは相手の得意分野、やっていたことを知る必要があるからだ。

何せ、一から稽古させようにも、その先生が霊をはっきり見えて話も聞ける人である可能性は極めて低い。故に、得意なことを知って、それの腕が落ちぬよう極めてもらう他ない。

「椿さんは芸者の見習いをやってたって言ったけど、その時は何を稽古してたんだ?」

「そうじゃのう、今の人々に知られておるか分からんが、『鷺娘』の稽古をしておったぞ。」

「詐欺娘…人を騙すのか?」

「騙すというより化かすという方が正しいかもしれんな。大変なんじゃぞ、人なのに鳥の仕草を覚えねばならんかったからな。」

「人が鳥に?……あー、鷺娘か!」

「先にそう言ったろう」

「すみません、てっきり犯罪に手を染めてるタイプの話かと勘違いしてました。」

「その詐欺ではないわ」

サギはサギでも鳥の方の鷺だった。確かにあの話は鷺が人に化ける話だもんな。

ということは、江戸の娘以外にも鳥にまつわる話は出来るということか。でもせっかくの江戸生まれの方だ。やはり鳥ではなく江戸の娘をやって貰いたいな。


ブーッ、ブーッ…


俺と椿さんで芝居の話をしていると、突然俺のスマホから着信が来た。

スマホを取り出して画面を見る。電話番号は非通知。

でも、もしかしたら公衆電話から掛けてきたのかもしれない。もしかしたら、脚本の話かもしれない!…と思い、期待しながら着信に応える。

「はい、もしもし、岸橋です。」

『もしもし、私、メアリー。今、廃墟にいるの』

電話相手はそれだけ告げて通話を切った。

間違い電話かな?…少なくとも、脚本の話ではなかった。

「それは何じゃ?」

「ん?あー、何かの間違い電話かな」

「そうじゃない、その板は何じゃと聞いておるのだ!」

椿さんは俺のスマホを指差しながらそう聞いてくる。そうか、江戸時代は黒電話すら無かったもんな。あったとしても文通か暗号化した伝言をするくらいの時代だろう。

「これは電話と言って、遠くに居る人と話が出来るんだ。」

「なんと、今この場に居ぬ者と会話が出来るのか!」

椿さんは電話の内容よりも電話の仕組みに興味津々なようで、色々聞いてきた。構造とかは素人の俺には分からないけど、とりあえず知っていることを話すと、子どもみたいに目をキラキラさせながら聞いていた。

海外にいる人とも話せるって言ったら凄い驚いていたよ。まあ海外に友達居ないから掛けることは無理だけどね…。


ブーッ、ブーッ…


おっと、また着信だ。今度は誰だ?

「もしもし。」

『もしもし、私、メアリー。今、駅にいるの』

そういうとまた通話が切れた。今の声からして、さっきの間違い電話の人だろう。メアリーって名乗ってたし。

…にしても、間違い電話にしては相手の話を聞かない失礼な人だな。今度来たら文句を言ってやらないと。


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