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異能力者達の午後  作者: ゆーろ
異能力者達の午前
9/32

逃亡者達の午後

本作登場キャラ

-------------------------------------------

ヨシュア・エーリヒ:女

トトリ:男

シモン・エーリヒ:男

セノ・アキラ:男

エンディオ・ロックスミス:男

-------------------------------------------

推定上演時間:約30分

-------------------------------------------





ヨシュア:(M)心底しんていをたたく、一滴の青


0:

0:幼いヨシュアに父は言い聞かせる


シモン:約束だ。ヨシュア。この力のことは誰にも言ってはいけないよ。父さんと母さんと、ヨシュアだけの秘密だ


シモン:代わりに父さんの能力をおまえに託そう。おまえがこの先もずっと、人間でいられるように……


0:


ヨシュア:(M)ひとしずくが波紋となり、さざ波を起こす。青が侵蝕してくる。深い、闇のような静謐せいひつをたたえて


ヨシュア:(M)息が止まるほど、青に侵され、溺れてしまったなら、果たしてそこに『不幸』は存在するのだろうか―…?


0:

0:異常体生産施設『デザート・ハウス』研究室



シモン:ヨシュア、新薬の遺伝子配列を色覚で確認してくれ


ヨシュア:了解。チェックに使う視物質しぶっしつオプシンは……


シモン:十種類全部。組み合わせは総当たりで


ヨシュア:だよね…。何時間かかるかな…


0:ヨシュアは異常性を使って新薬の確認を始める


ヨシュア:…2色型異常なし……


ヨシュア:…4色型異常なし……


ヨシュア:…5色型異常なし……


ヨシュア:あっ、ちょっと待って、問題発見したかも! 父さん、これマウスで実験した時と同じ遺伝子配列?


シモン:いや、上にせっつかれてな。より強い異常性を誘発する計算で少しばかり手を……


ヨシュア:これじゃ配列に無理があるよ。負担がかかりすぎて被検体の命に関わる


シモン:はぁ……やっぱりそうか。他にも問題点がないか、全部洗ってくれ


ヨシュア:わかった



ヨシュア:……………


ヨシュア:……………………



ヨシュア:うーん、こんなもんかな。父さん、新薬の問題点はメモにまとめたから、確認して。ぼくは被検体の様子を見てくる


シモン:ああ、助かった。あとは父さんだけで進めるよ



0:研究棟の一室



ヨシュア:顔色よし。熱もなし。食欲は…


トトリ:特にない


ヨシュア:…はは。いつもそれだよ。トトリは


トトリ:まあな


ヨシュア:背中見せて。この間、他の被検体から異常性の試し打ちされたでしょ


トトリ:別に大したことは……


ヨシュア:なくても見せる! 担当する被検体の健康管理は、ぼくの仕事なんだから


トトリ:…わかった。……ん


ヨシュア:うわ…。うっ血したとこがどす黒くなってきてる。包帯強めに巻き直しておくね。食事は良質なタンパク質とミネラルと…


トトリ:このくらいほっとけば治る


ヨシュア:うるさい


ヨシュア:(M)昔からトトリは怪我に無頓着だ。今でこそ遺伝子研究開発部門の被検体として所属しているが、以前は虐待としか呼べないほど過酷な実験の道具にされていた


ヨシュア:(M)おかげで患部以外にも消えない傷やあざが残っている


ヨシュア:(M)ぼくたちはバラエティ社の所有する異常体生産施設『デザート・ハウス』に組み込まれた、不揃いな歯車のひとつだ


ヨシュア:よし、包帯巻けたよ


ヨシュア:…………はぁ


トトリ:ヨシュア? どうかしたか


ヨシュア:あ、ううん。今日もトトリの色はキレイだなって


トトリ:…光の粒子とか呼んでたやつのことか?


ヨシュア:そう。トトリからはいつもロイヤルブルーの光が出てる


トトリ:出した覚えはないけどな


ヨシュア:ふふ、たしかに。色覚って不思議だよね。瞳に映った光の粒子を、脳が勝手に着色するんだ


ヨシュア:トトリの深い青を見てると安心するよ。今日もトトリはトトリだ


トトリ:当たり前だろ


ヨシュア:……異常体化に成功した人たちはみんな、少なからず色が変わってたから…


トトリ:……おい?


ヨシュア:新薬の試作が失敗したんだ。アレをきみに打たずに済んで本当によかった…。こんなバカみたいなこと、一刻も早く終わりにしたい…!


ヨシュア:異常性が発現する前に、ここから逃げよう。父さんと、ぼくと、トトリの三人で…っ!



0:

0:八年前



シモン:どこにも逃げられない…。従わなければおまえも父さんも殺される…っ


ヨシュア:そんな…! 母さんっ、母さん! 目を開けてよ、ねえ…っ!!


ヨシュア:(M)八年前。母さんが死んだ。足元に血だまりを作り、父の腕の中で息絶えた


ヨシュア:(M)突然自宅に押し入った黒づくめの男たちに拘束され、ぼくたちの日常は崩れ落ちた。代わりに与えられたのは、人為的に異常体を作り出す研究――人道に反する仕事だった


シモン:私が大学で研究していた遺伝子分野の知識が必要とされている。おまえの持つ色覚操作の能力も


シモン:ヨシュア、父さんの研究を手伝ってくれるね? おまえまで失うわけにはいかないんだ。成果さえ出せば、命をとられることはない


ヨシュア:(M)親子二人でなんとか生きていこうと誓ったあの日、ぼくを抱きしめる父さんの腕がかすかに震えていた


0:シモンと連れ立って研究室に少年が入ってくる


シモン:彼はトトリ。遺伝子研究の被検体として預かることになった。正確な年齢はわからないけど、ヨシュアと近いんじゃないかな


ヨシュア:きみ、トトリっていうの? …まだ子供じゃん…


トトリ:……子供……


ヨシュア:…………


トトリ:…………


シモン:子供に子供って言われて戸惑ってるね


ヨシュア:う、うるさいな!


ヨシュア:ぼくの名前はヨシュア・エーリヒ。よろしくね。えーと、トトリは…


トトリ:…………


シモン:トトリに姓はないよ


ヨシュア:へ?


シモン:私たちのようにここに連れて来られた後、記憶障害を引き起こして…過去のことを忘れてしまったようなんだ


ヨシュア:…そう、なの? トトリも無理やりバグテリアに…? ねえ、きみどうして包帯だらけなの? あざもこんなにいっぱい


トトリ:…実験で


ヨシュア:実験…!?


シモン:こら、トトリが驚いてるよ。ここでは考えられないようなことが当たり前に繰り返されてる。トトリの怪我もそうだ


ヨシュア:そんな…、こんなことするなんて…ひどすぎるよ…うっ、うぅ……っ


トトリ:……っ!



0:初対面の少女の涙にトトリが狼狽する


0:数週間後



ヨシュア:顔色よし。熱もなし。食欲は…


トトリ:ない


ヨシュア:…なくても出された食事は食べるからヨシ!


ヨシュア:トトリ、今日は採血だけだって


トトリ:注射…


ヨシュア:うん。だからね、血をとった後はご飯をいっぱい食べて、外で遊ぼう!


トトリ:…遊ぶ?


ヨシュア:へへー、見てこれ


トトリ:なに?


ヨシュア:フ・リ・ス・ビ・ー!


ヨシュア:次の臨床試験までに丈夫な体を作るようにって、父さんが用意してくれたの!



0:研究棟の中庭でフリスビーをキャッチするトトリ



トトリ:丈夫な体って…これで作れるのか?


ヨシュア:作れるよー! 太陽の光を浴びて、走って、汗をかいて、楽しく遊ぶ!


トトリ:楽しく……? んっ…


ヨシュア:わわ、っと。あは、とれたぁ!


ヨシュア:ねえ、トトリはどんな遊びが好きー?


トトリ:わからない


ヨシュア:ここに来る前は…、あ…


トトリ:覚えてない


ヨシュア:……そうだった。じゃあさ、好きなこと一緒に見つけようよ!


トトリ:一緒に…


ヨシュア:トトリは今楽しい?


トトリ:わからない


ヨシュア:ぼくは楽しい! だからトトリも楽しいって思ってくれたらもっと楽しい!


トトリ:好きってどういうこと


ヨシュア:んーと、ぼくはね、ぼくを大切にしてくれる父さんが好き。優しかった母さんが好き。それにトトリも!


トトリ:俺…?


ヨシュア:そう。ぼくはトトリの色が好き。ここに連れて来られてから、こんなに澄んだ青を見たのは初めてだよ


トトリ:意味がわからない


ヨシュア:人間には見えないものが見えるんだ。ぼくの異常性ってやつ!


トトリ:おまえ異常体だったのか


ヨシュア:うん


ヨシュア:トトリといるとザワザワした気持ちが落ち着くんだ。宇宙に放り出されたみたいな、深海を漂うような、そんな感覚


トトリ:それは……落ち着くのか?


ヨシュア:トトリは何が好きなのか、どんな時に笑うのか、いつかぼくにおしえてね。トトリの笑顔、見てみたいなあ



0:

0:現在。ベッドの上でうなされるトトリ



トトリ:う…っ…はぁ…はぁ…


ヨシュア:トトリ…トトリ…どうしよう全然熱が下がらない


トトリ:はぁ…っぅ…あ…ふぅ……っ


ヨシュア:改良された新薬…やっぱり強すぎたよね…っ。…ごめん、ごめんねトトリ、しんどいよね…。ぼくたちがこんな薬作ったばっかりに…っ!



0:数時間後



トトリ:……ぅ、ん…、ヨシュ…ア…?


ヨシュア:……っ! トトリ! 目が覚めたの…!?


トトリ:……ああ…


0:トトリの手をとり、ヨシュアが涙を浮かべる


ヨシュア:トトリ…っ。よかった…トトリが死ななくて、本当によかった…っ!


トトリ:…泣くな…頭に響く…


ヨシュア:ごめん…だって…安心して……ぅう、ぐずっ…


ヨシュア:…同じ新薬を打った被検体の人…五人中一人が異常体化に成功したんだ。残り二人は亡くなって…一人はまだ意識が戻らない。こんな状況でも幹部の連中は喜んでる。ほんとバカみたい…っ!


トトリ:…そうか


ヨシュア:…意識を失ってる間、トトリの青い光がどんどん薄くなって…今度こそトトリがいなくなっちゃうかと思った…。そんなの絶対やだよ…っ!!


トトリ:バカ、大声出すな…。…泣きたいなら泣いていいから…外に聞こえないように泣け…


ヨシュア:うぅ…こんなこともう我慢できない…早くここから逃げよう…! ぼくはトトリを失いたいたくない。ずっと一緒にいたい。まだトトリの笑顔も見られてないのに…っ


トトリ:…変なことにこだわるな


ヨシュア:変なことじゃない。ぼくにとっては大事なことだよ…!


トトリ:……


ヨシュア:トトリ、約束して。死なないって。異常体化しないって。お願い…っ


トトリ:………ああ、約束する



0:安堵したヨシュアが目尻を下げる



トトリ:…たしかに、泣いた顔より…笑った顔のほうがいい…。おまえはずっと…笑ってろ…


ヨシュア:…うん、うん…っ!



0:

0:クラウンオークション会場、裏口



シモン:被検体の受け渡しはこれで完了だ。……雑用を手伝わせてすまないね


トトリ:…いえ


シモン:彼らが売れ残る可能性もあるからね。最後まで待機しておく必要がある。待ってる間オークションを見ていくかい?


ヨシュア:そんなもの見たくない。いったん外に出よう。


ヨシュア:(M)今日はバラエティ社が主催する、年に一度のクラウンオークション。麻薬、薬物、臓器、非合法な商品なんでもありのこの場所に、研究所の被検体も何人か出品されることになった



0:会場の外に移動し、ひと気のない場所に腰を下ろす



ヨシュア:…あの人たち、何年もつらい実験に付き合わされてきたのに…どうしていらないものみたいに売られちゃうのかな


シモン:ヨシュア…


ヨシュア:期待した能力が目覚めなかったから? 実験で体が弱っちゃったから? …組織のやつらは勝手すぎる


シモン:ああ…父さんも同じ気持ちだが、ここはそういう場所なんだ。いちいち反応していると心が壊れてしまうよ


ヨシュア:私は人間のままでいたい。誰かの人生を踏みにじって笑う異常者にはなりたくない


ヨシュア:それに…次はトトリかもしれないんだよ…!


シモン:……


トトリ:……もし、そうなったらなったで、俺はどうとでもやっていける


ヨシュア:やだ……


トトリ:だから何があってもおまえは自分を責めるな


ヨシュア:やだってば…! どうしてそんなこと言うの? 外に出ようって…三人でここから逃げようって言ったじゃん!!


セノ:へ~? 君たち外に出たいの?



0:突然見知らぬ声が会話に割って入った



トトリ:……!


ヨシュア:…!?


シモン:……あー……いえいえ、この子たちケンカして少し興奮してしまったようで。今のはただの売り言葉に買い言葉…


セノ:もしバグテリアの外に出たいのなら、僕が力になれるかもしれませんよ?


ヨシュア:…………え?


ヨシュア:それは、どういうことですか?


トトリ:おい、ヨシュア


セノ:どういうことも何も、僕は外から来た人間なんでね。正面からの出入りも自由にできるし、なんなら抜け道も知ってる。誰にも見つからずに移動できる秘密のルートをね


ヨシュア:抜け道…


トトリ:バカ、うのみにするな


シモン:失礼ですが、あなたは一体…?


セノ:あっははあ。あからさまに信用できませんって顔されると面白いなあー。バグテリアにもいたんだね、普通の人間ってやつが。くくく


ヨシュア:……っ、冷やかしならやめてください


セノ:冷やかしなんかじゃないさ。本気で手を貸そうと思ってるよ? だって僕にとっては朝起きて顔を洗うくらい簡単なことだからね



0:男はゴソゴソと胸元を探り、手帳を取り出した



セノ:はーい、これ僕の身分証。僕を信用できないそこのあなた! どーぞじっくりご確認くださいな~


シモン:これは……


ヨシュア:セノ・アキラ。中央政府情報局……――中央政府!?


セノ:そ。いやーどう見ても怪しかったよね、うん、僕もそう思う。でもご覧の通り。正真正銘のヨソ者さ!


トトリ:中央政府の人間がどうして手を貸そうとする


セノ:待ってよ。こっちが正体を明かしたんだから、そっちも身分を明らかにするのが礼儀なんじゃない?


シモン:……失礼。われわれはデザート・ハウスに所属している研究員と被検体だ


セノ:へえ! 白衣着てるしそうかな~とは思ってたけど、これはまた面白い拾い物しちゃったな


トトリ:さっきの質問の答えは?


セノ:うーん、せっかちだね君は


トトリ:バグテリアと敵対してるんだろ。デメリットしかないはずだ


セノ:そんなことないさ。脱出の手引きをする代わりにデザート・ハウスの内部情報を提供してもらえれば、こっちにとっても大きな利益になる。win-winだ。取引といこう


ヨシュア:取引…それなら…!


シモン:ああ、手を取ってもいいかもしれない


ヨシュア:うん!


ヨシュア:(M)光明が差した、と思った。異常体だらけのこの町で、後ろ盾もなく外に出ていくことは不可能だったから


セノ:決まりだ。決行はこの後すぐ。年に一度のオークションでお祭り騒ぎしてる今が狙い時だからね


ヨシュア:(M)セノさんの指示でぼくたちは一時間後にレッドストリートの手前で落ち合うことになった。念のため、オークションで落札された人間を装って



0:最低限の荷物を手に移動する三人



ヨシュア:…こんな幸運があるなんて! ずっと特区外に逃げる現実的な方法が見つからなかったけど、神様はぼくたちを見放してなかった


シモン:ああ。私も夢物語のような気持ちでおまえの話を聞いていたが…まさか解決策が振って湧くとは


トトリ:…最後まで油断はしないほうがいい


ヨシュア:ふふ、トトリは心配性だな。…あ!



0:木陰にたたずむセノが見える。辺りにひと気はない



セノ:やあ、来たね


ヨシュア:お待たせしました、セノさん


シモン:準備は整ってます。よろしくお願いします


トトリ:……


セノ:オーケー。じゃ、秘密のルートへご案な―…


シモン:う…っ!!


ヨシュア:(M)ズガン。何かが弾ける音がした。直後、父さんが地面に崩れ落ちる。追いかけるように視線を落とせば、足元に広がっていく…赤い――


シモン:ぐぁ……っ、あぁぁ……


ヨシュア:と、父さん…っ!? 父さん!!!


トトリ:なん、だ…?



0:背後から銃弾を撃ち込まれ、血を流すシモン

0:銃を向けているのはバラエティに属している男だった



セノ:あちゃー。これは面倒そうなの連れてきたねえ


エンディオ:あーあ、コソコソしてる変なヤツらがいるってドミニクに言われて来てみたら…中央のニヤケ面と合流するとは…。思わず撃っちゃったよ。怒られるかな


セノ:ニヤケ面って僕のこと? ひっどいなー


トトリ:あんたは…バラエティの…!


エンディオ:まあいいか。連れ戻して来いって言われてたけど、研究者のオッサンの代わりくらいまた拉致ってくればいいや


ヨシュア:父さん…血が…とまんないよ…っ。しっかりして!!


シモン:…ぐっ…ごぼっ……


ヨシュア:(M)目の前で起こっている現実を飲み込めない。記憶の中で母の亡骸を抱く父の姿が重なった


ヨシュア:やっと…やっと逃げ出す手段を見つけたのに、どうして…!!


トトリ:おい、あんた…っ


セノ:おっと、そんな目で見ないでよ。僕が彼とグルだと思ってるの? そんなわけないでしょー


トトリ:じゃあなんでずっと突っ立ってる!


セノ:逆に何かできることある? 中央とバグテリアは不可侵なの。暗黙の了解。僕には手出しできないからね。君らがこの状況をどうにかできなければ、取引は白紙だよ


トトリ:…クソっ!


エンディオ:おい取引ってなんだ。ヒトの縄張りで勝手なことをするな


セノ:悪いね。やだよーん


トトリ:ヨシュア、逃げるぞ。このままじゃやられる


ヨシュア:でも父さんが!


トトリ:そんなこと言ってる場合か!


エンディオ:あー面倒だな。オッサン死んだならそこのやつらももういらないや。まとめて処分しよう


エンディオ:じゃあ一匹目


トトリ:おい! 立てヨシュア!


ヨシュア:……っ


エンディオ:バイバイ


ヨシュア:(M)父を打ち抜いた銃口が自分に向けられる。助けはない。戦う能力のないぼくたちが、どうやって逃げ切れるというのだろう


ヨシュア:(M)ああ、終わりだ……


ヨシュア:(M)そう思った刹那――…


トトリ:ヨシュアアアァァァ!!


ヨシュア:(M)振動がくうを裂き、青い閃光が走る


トトリ:はあ、はあ…うっ、うあぁ…っく、はあ…


ヨシュア:……え…トト、リ…?


エンディオ:は…? 銃弾が弾かれた…? なんだ…その腕


トトリ:ああ…そうか…これが、っく、おまえらの大好きな、異常性…って、やつか…はぁ、はあ…


ヨシュア:うそ、だよね…トトリ…なんで、


トトリ:不幸中の幸いってやつだな……はあ、はあ…、あいつぶっ飛ばしてとっとと逃げるぞ…っ


エンディオ:えぇ? ちょっとちょっと聞いてないよ。俺は人間三人連れ戻して来いって言われただけだよ。なんで得体の知れない異常体の相手しなくちゃならないんだ。その腕…モンスターじゃん


トトリ:…たしかに、これはもう…人間とは言えないな…っ


ヨシュア:(M)ボコボコと膨れ上がったトトリの腕が、帯電して火花を散らす


エンディオ:ああ気持ち悪い。おまえ早く死んだ方がいいよ…っ!


0:銃弾を打ち込むエンディオ


トトリ:っく!!


エンディオ:チッ…、いちいち弾くなって!


トトリ:知るか…ッ!!


0:雷を放って弾を散らすトトリ


トトリ:……うっ、うあ…はあ、はあ…体、重…っ


エンディオ:ああもう、そんな防いだら弾なくなっちゃうじゃん。…けど体つらそうだな。力が覚醒したばっかでなかなかなじまないんだろ


トトリ:ぐっ…っ!


エンディオ:隙だらけだよ!


ヨシュア:…っ! トトリ…っ!!


トトリ:バッ、前に出るな…!!


トトリ:MUTANTミュータント――……


エンディオ:え……やっ、、ば――……



0:一際強く雷が放出された。一面の青と轟く雷鳴

0:エンディオのいた周辺の木々や看板が焦げ落ちる



トトリ:はあ、はあ、はあ……うっ、ぅあ……っ



0:肩で息をしながらトトリが膝を折った



ヨシュア:トトリ! 大丈夫!?


セノ:え、えぇぇー? 何今の、すごっ。向こう全部真っ黒になっちゃった


ヨシュア:あの人は…っ!?


セノ:んー…、いないね。焦げてもないようだし、気配すらない。逃げたかなこれは


ヨシュア:…助かっ、た…? …こんなの、喜んでいいのか悲しんでいいのか、わからないよ…。…父さん…トトリ…


トトリ:ぅ…ヨシュ、ア……


ヨシュア:トトリしっかり…!


トトリ:俺は…ヨシュアが生きてて…よかった…。…俺にとって大事なものなんて、おまえ以外、ないからな……


ヨシュア:……トトリ


トトリ:…おまえを守れるなら…俺にとってはこの異常性だって、大切な力だ…。だから、おまえも喜べ…っ



0:トトリが苦しそうな表情でかすかにほほ笑んだ



ヨシュア:……っ!


ヨシュア:トトリ…今、笑った?…どうして…っ


ヨシュア:(M)どうして今なんだろう。ずっとずっと見たかった笑顔なのに…


ヨシュア:(M)こんなはずじゃなかった。異常性とかそんなもの一切関係ない世界で、心の底から幸せに笑うトトリが見たかった


ヨシュア:(M)ただ、ひとりの人間として、隣で一緒に笑ってほしかっただけなのに――…


セノ:どうする? 二人だけでもここを出る? まあ、外に出たところで異常体は…


ヨシュア:行きます…。最低限の人権さえないこんな場所で生きていけません


セノ:でも彼はもう人間じゃないよ


ヨシュア:いいえ、彼は人間です。…中央に連行されるのは、ぼくだ


ヨシュア:STEALスティール――…



0:異常性を発動させるヨシュア

0:トトリの苦しみが噓のように消えていく



トトリ:…はあ、は……、え…?


セノ:ヒュ~! なるほど、そういうことか! はは、君そんな面白い能力持ってたの!?


ヨシュア:はい。父から譲り受けた能力で、表面上は、異常性を偽装していました


セノ:たしかに君は、なかなか看過できない――脅威にもなりえる異常体だ


トトリ:ヨシュア…おまえ、腕…!


ヨシュア:トトリの異常性は、ぼくがもらったよ


トトリ:は……?


ヨシュア:他人の異常性を奪う力。それがぼくの本当の能力なんだ


トトリ:なん…だよ、それ。……返せよ!


ヨシュア:やだね


トトリ:ふざけてないで返せ!!


ヨシュア:やだってば


トトリ:ヨシュア!!


ヨシュア:さっき…初めてトトリが笑ってくれたのに、ぼく素直に喜べなかった


ヨシュア:トトリにはこれ以上ないってくらい幸せな気持ちで笑ってほしい。せっかくあいつらから解放されるんだから、これからは飽きるくらい笑って生きてよ


ヨシュア:そこにぼくはいなくていいからさ


トトリ:ヨシュア…?


ヨシュア:ごめん。大好きだよ…


ヨシュア:MUTANT……


トトリ:ぅが……っ!!



0:軽い電撃がトトリの意識を奪う

0:力の抜けた体を受けとめるヨシュア



ヨシュア:はは…異常性までキレイな青なんだね…トトリは…


セノ:本当にいいの?


ヨシュア:はい、これでいいんです。彼が幸せになってくれるなら後悔はありません。それに、僕は彼の【青】をもらいましたから


セノ:……?


ヨシュア:さあ、連れてってください。外の世界へ!


セノ:りょーかい!



0:一歩踏み出すヨシュアの瞳に迷いはない


0:

ヨシュア:(M)心底しんていをたたく、一滴の青。ひとしずくが波紋となり、さざ波を起こす。


ヨシュア:(M)青が侵蝕してくる。深い、闇のような静謐せいひつをたたえて


ヨシュア:(M)息が止まるほど、青に侵され、溺れてしまったなら、それを『幸せ』と呼ばず、なんと呼ぼう――…?



0:ヨシュア・トトリ編/END

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