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異能力者達の午後  作者: ゆーろ
異能力者達の午前
25/32

審判者達の終末

0:―――「審判者達の終末」―――



セノ:やあ。僕はセノ。セノ・アキラっ!



セノ:ほら見てこれ!死体!死体!死体だらけだっ!



アストレア:(M)彼は、面白そうに数多の死体を眺めている



セノ:最高に楽しい。最高にぐちゃぐちゃで。最高に面白い。よね?



セノ:さあ。映画鑑賞の続きと行こう。長く、長く待ったよ。この時を



0:バラエティ本社



デザート:…やっと。来たか。鋼の聖女。いや、戦の聖女。いいやいいや、小汚い兵士



デザート:―――アストレア・アステル



アストレア:こんばんは。デザート・ディーパー。



セノ:(M)これが、最後。



デザート:待ちに待った、リベンジマッチだ



アストレア:ええ。決着、ですね。



セノ:(M)最後の一駒。審判者達の。終末だ



0:



デザート:―――今日も。月が満ちているな



アストレア:はい。綺麗に満ちている



デザート:祈りでも捧げたい月だ



アストレア:奇遇ですね。もう捧げた後です



デザート:そうか。相変わらずだな。何を祈っていた



アストレア:なら、クイズにしましょうか



デザート:そんなユーモアがあるのか。暫く見ない間に変わったな



アストレア:そうですね。私の世界は酷く狭かった。800年。様々な人から、知見を得ました。マーリーンやマチア、中央の皆さん。勿論、貴方からも



デザート:私からもか。何を得た?



アストレア:…執着を



デザート:そうか。それはまあなんとも。人がよく見えるようになった



アストレア:…少し。話でもしませんか。デザート



デザート:これもまた、珍しい。ああ、構わない。



アストレア:………。



デザート:…。



アストレア:…



デザート:話をするんじゃなかったのか。やりづら



アストレア:…その。つもりだったんですけどね。



デザート:…



アストレア:どうにも。言葉に詰まる。



デザート:ああ。まあ、最後だしな



アストレア:デザートは。思い残した事など、あまりすか?



デザート:んー。そうだな。先生の死に目に会えなかったこと。くらいだ



アストレア:…ああ。そう、ですか。



0:



セノ:中央政府創立者。マーリーン・A・アルバート。



セノ:700年続く歴史のながーい組織のトップ。彼は、自身の異常性を使い、異常体を増やして行った。



セノ:その結果、自ら増やした異常体を、自ら殺す選択を取る事になる



セノ:中央政府には、時代毎に様々な呼び名があった。異形団体。異能教会。中央政府



セノ:その先に行き着いたのは。自死



セノ:ありとあらゆる異常性を手に入れ、もしかしたら。マーリーンは、この世界の根源を知ってしまったのかもしれない



セノ:それこそ。本当に。この世界が出来上がる前の事を



セノ:最後の葬儀でマーリーンは僕に何か言っていたが。何度その場面をやり直しても、彼はあと数秒間に合わなかった



セノ:結果的に彼は、生きているのが馬鹿馬鹿しくなって死んだ。のかもしれない



セノ:ああ、ちゃちゃを入れてごめんね。



0:



アストレア:…どうして。こうなったのか。と、最近思うんですよ



デザート:こうなった。とは



アストレア:様々な人が死にました。きっと、私たちのせいで



デザート:ああ。



アストレア:私は今までの行いの全てが正しかったとは思わない。それでも、間違いのない様、精一杯を尽くしたつもりです



デザート:…



アストレア:貴方も。そうでしょう



デザート:…どうだろうな。私は物事の価値基準を正しい正しくないではあまり考えたことがない



デザート:私の王道に反しているか否か、だ



アストレア:見上げた人だ。かっこいい。というやつですね



デザート:はは。惚れたか



アストレア:冗談。私とあなたでは気が合わない



デザート:ああ。そうだな



アストレア:…。



デザート:セノ・アキラ。という男を。知っているだろ



アストレア:…ええ。元、中央政府監査役。彼とも一悶着ありましたが。なぜ今彼の名が?



デザート:…私の。昔の友人に似ているんだよ。顔も、声も思い出せない。私のただ一人の友人に



アストレア:ああ。狐の面を被った彼ですか。単純に顔を見た事がないのでは?



デザート:私のただ一人の友人だぞ。流石にあるだろう



アストレア:そうですか



デザート:800年も経ったからかは分からない。先生の全てを覚えていても。どうしても、あいつの事だけが朧気なんだ。まるで最初から、そこに居なかった



デザート:この世界そのものの異分子にでもちょっかいを出されたような気分だ



アストレア:…少し。わかる気もします。私がこの力を得た時も。狐の彼が、私に接触してきました。ええ。その言い方は、非常にしっくりとくる。



デザート:私は。セノ・アキラという男に。それと同じものを感じているんだよ。



アストレア:…



デザート:だからだろうな。あいつをバグテリアに迎え入れたのは



アストレア:狐の彼の最後は、誰と見届けて居ませんでしたね



デザート:…ああ。あいつの事だ。いつかひょっこりと帰ってくると思ったら。そうでもなかった。



アストレア:…。まあ。死にますからね。人は



デザート:ああ。そうだな。



アストレア:…。800年経っても。どこか根っこの部分は変わりませんね。デザート



デザート:それが。私達がいま。こうやって対峙している理由だろう。まあ、お前は少し老けたか



アストレア:失礼ですね。見た目は800年前から変わってないはずです



デザート:気になるのだが、お前はスキンケアとかするのか



アストレア:…しますよ。なんなんですか。



デザート:そうか。いや、お前ってそーゆーのしないんだろうなーって思って。ほら。今で言う女子力っての?ないしな



0:アストレアはムキになった



アストレア:本当に失礼ですねっ。私だって必要最低限の努力は怠っていませんっ。



デザート:えー。興味無さそうじゃん。ノーメイクだし



アストレア:メイクは戦闘中に落ちるのでしないだけですっ



デザート:私生活でもしてねーじゃん



アストレア:たまにしますっ!



デザート:100年に一回くらい?



アストレア:年に1回はしますよっ。



デザート:それでもすくないんだぞ。



アストレア:もう…。



0:アストレアは少し笑った



デザート:あ?



アストレア:…いつまで経っても。喧嘩ばかりですね。私たちは



デザート:…。ああ。喧嘩ばかりだな



0:



セノ:800年前。ギリシャ。



セノ:まだ異能や異常性という概念が誕生する前。



セノ:二人は。一人の王に仕える従者だった



セノ:しかし二人は悲しいことに行く道を違える。当時、貴族連合総参謀を任されるデザートと、騎士団長として剣を振るうアストレアは



セノ:マーリーン亡き後、国の方針において対立した



セノ:二人に異常性が発症したのも、その辺だった。それじゃあ、少し。昔をまた。除きみようか



0:血塗れのアストレアは息絶え絶え



デザート:…来たか。アストレア・アステル



セノ:(M)デザート・ディーパーが待つ貴族連合本陣に、発症したばかりの異常性を使って突っ込んだアストレア・アステル



アストレア:…。デザート・ディーパー。



セノ:(M)うん。何度見ても。ここは好きだなぁ



デザート:随分、血みどろじゃないか。聖女の名が泣くな



アストレア:…まったくです。



デザート:本隊から連絡が入っている。異形の力を使って、片っ端から首を跳ねているらしいな



アストレア:…



デザート:なんだ。本当だったのか



アストレア:そうですね。現実は、受け止められない。ですが、この力を使って人を殺した。それもまた、事実です



デザート:…。人類の原罪は。林檎を食べたこと。らしい



アストレア:…



デザート:…。どうだ。折角ここまで来たんだ。一局、打たないか



アストレア:呑気ですね。外は地獄だと言うのに



デザート:ああ。そうだな。これも、お互いに譲れなかった物のせいだ



アストレア:…。では、貴方から



デザート:ああ。私から。だ



0:発砲



アストレア:…ごほっ…



デザート:…。私は、あの時。お前を暗殺しておくべきだった。大義の為に。お前があの時、団長にさえならなければ。これ程の血が流れることはなかった



アストレア:…デザート…ディーパー…



デザート:この手段に。なんの迷いもなかった。ただでさえ化け物じみた戦闘能力に加えて、異形の力まで使う。魔女狩りでもしている気分だ



アストレア:デザート…ディーパーぁ…っ



デザート:だが。所詮は、人だよ。なあ?



アストレア:デザート・ディーパーぁああっ!



デザート:アストレア・アステルぅううっ!



0:鍔迫り合い



デザート:まだ動くか…!動くだろうな!本当に化け物じゃないか…!



アストレア:貴方は、自分の信念を曲げない為ならば…!手段を選ばない…!私が見逃せないのはそれだ…!



0:蹴りつけた



デザート:ごほっ…!なにが、悪い!結果が全てだ!過程はどうでもい!



アストレア:貴方はいつかっ!国を滅ぼす!他国だけではない!自身の国ですら!貴方のような人間は!生活を奪い!文明を滅ぼす!初め、貴方が私にそうしたようにっ…!



0:切りつけた



デザート:がはっ…!



アストレア:…。だから、私は天秤として。貴方を裁かなければならない。マーリーンが、そうしなかったが為に



デザート:ばかが…っ!どいつもこいつも、バカばかりだ…!陛下だって、そうだ…!綺麗事ばかり抜かす割に頭の足りない、愚図ばかり…!



アストレア:デザート…



デザート:羽虫が、羽、虫。がぁあっ…!



アストレア:貴方も…



デザート:――『誓約』…ッ!



アストレア:異形。ですか



デザート:全部だっ!私の全部をくれてやる!こいつを殺す術を!私にっ!寄越せ…ッ!



アストレア:(M)みるみるうちに、それは。デザートでは、なくなった。身体は神話に出てくる龍のように鱗を逆立て、獅子は蜘蛛のように伸び、その数を増やしていた



狐:へぇ。こりゃあ、また。面白いなぁ、アストレアは制裁。対象を殺す為のあらゆる術を手に入れる。デザートは



デザート:羽虫、羽虫、羽虫羽虫羽虫羽虫羽虫



狐:制約。自身のあらゆる目的を、対価を支払う事で結果を無理くり引き出す力。やっぱり異能はその人の深層心理を大きく反映させるらしい。ああ、やっぱり、面白いなぁ



アストレア:――定義収束。『鋼』



0:場面転換



セノ:(M)…これで。二人の内戦はおしまい。結果的に勝ったのは。アストレア・アステル。支払う対価と、その結果よりも。彼女の方が強かった。ただ、それだけ



セノ:(M)そしてその少しあと。



セノ:(M)創造の異常体であるマーリーンは、アストレアの視力を取り戻した。



セノ:(M)マーリーンはその力を使って、世界を再成しようとした。らしいよ



デザート:…ん。



アストレア:おはようございます。



デザート:…ああ。そうか。私は…。負けたのか…



アストレア:どうでしょう。残ったのは勝利ではない。痛み分け、でしょう



デザート:…。そうか。



アストレア:マーリーンは。生きていましたよ



デザート:……。何故だ



アストレア:異形、ですね



デザート:…はは。なんでもありだな。もう、めちゃくちゃだ



アストレア:……私も。貴方も。もう、長くはないでしょう。血を。流しすぎた



デザート:…ああ。そうだろうな。というか、目。見えるようになったのか



アストレア:マーリーンの力ですよ。あなたの顔も。初めて見ました。存外、男前ですね



デザート:はは。惚れたか



アストレア:冗談。私とあなたでは、どう足掻いても意見が合わない



デザート:…ああ。まったくだな



アストレア:…マーリーンは。新しい組織を。作るそうです



デザート:……そうか。



アストレア:興味がなさそうですね



デザート:先生のことは。尊敬している。今でも。だが、分かる。あの危篤状態から戻った先生は。もう、先生じゃない。違うか?



アストレア:…おっしゃる通りです。深層心理を反映した異形。その力で再成された脳は。きっと…



デザート:…そうか。まあ。気になりは、するがな



アストレア:…ですが。もう、死にますよ。私たち



デザート:…ああ。



アストレア:…死にたく。無いものですね



デザート:…ああ。



アストレア:…。



デザート:アストレア



アストレア:…はい



デザート:お前は。先生について行くのか



アストレア:…その。つもりです。マーリーンは。あの力を使って、異形を世の中にばら蒔いた。天秤として。そこに居るべきだと。そう、思いました



デザート:でも。もう死ぬだろ。私たちは



アストレア:…はい。そうですね



デザート:…死にたく。無いものだな



アストレア:…そうですね



デザート:どうだろう。私と。契約をしないか



アストレア:契約。貴方の異形ですか



デザート:ああ。あらゆる目的を達成する為の、契約だ



アストレア:……。その、目的とは



デザート:死なない身体



アストレア:…。



デザート:先生の異形で脳回路まで変わってしまうのなら。死んでしまった方がいい。だが、私は私で。まだ。この力でやれる事がある



アストレア:…はい



デザート:だから。私と。契約をしろ



アストレア:…内容は



デザート:お前が私を殺すまで。私は死なない



アストレア:…。対価は



デザート:私がお前を殺すまで。お前も死なない



アストレア:……。随分と。都合のいい契約ですね



デザート:双方同意なら。どんな内容でも。立派な契約だ。さあ。どうする



アストレア:……。そうですね。私は―――



0:回想終了



セノ:途方もなく長い。長い長い。契約の履行



セノ:互いが互いを討つまで。生涯死ぬことはない。



セノ:それが。二人の契約だった。



セノ:場面は現在に戻り。



セノ:バグテリア法外特区。バラエティ本社。



セノ:魔王の住む城に。一人の勇者。



セノ:さあ。やっと。やっとだよ。デザート。アストレア。



0:場面転換



0:バラエティ本社



アストレア:…。



デザート:…昔話も。この辺りにするか。



アストレア:ええ。そうですね。



0:デザートは椅子から腰を上げた



デザート:バラエティ社、代表取締役。デザート・D・クラウン



アストレア:中央政府執行部。総監督武官。アストレア・アステル



セノ:(M)待ちに待った約束の向こう側!果たして勝つのは魔王か勇者かっ!



デザート:お前を殺す為に。800年生きたよ。アストレア



アストレア:貴方を裁くまでに。800年。かかりましたよ。デザート



セノ:(M)さあ!最高に面白く!ゴングを鳴らせ!



デザート:大義の為に。



アストレア:矜恃の為に。



セノ:(M)いざ!試合開始っ!ってね。



0:静寂、何も起こらない



セノ:(M)…………。あれ?



アストレア:なぜ攻撃しないのですか。先手を討たないと意味の無い能力のはずですが



デザート:…ああ。そうだな。その通りだ



アストレア:…。



デザート:……ああ。そうだよ。アストレア。お前の推察は概ね正しい



アストレア:…そうですか。やはり。破綻していますね。貴方の契約と、計画は



デザート:…ああ。互いが互いを討つまで。どちらも死なない。この契約が履行された後のことは、想像に容易い



アストレア:…。生き残った方は、老死。でしょう



デザート:ああ。そもそも、今現在。この身体がどういう原理で保たれているのかもよく分からない。契約を履行した後は、ただの異常体に戻るわけだ



デザート:ただの異常体でも。老死はするからな。



アストレア:……。



デザート:だから。やめだ。



アストレア:…はい?



デザート:やめにしよう。私のこれには。なんの意味も、意義も、大義も正義もない。



アストレア:どういう事ですか



デザート:そのままだ。この行為には、大義がない



アストレア:…



デザート:お前の言う通りだよ。アストレア。私は執着した。お前に。



デザート:この計画を聞いて。しばらく考えてみた。国家独立。前々から念願だった。



デザート:だが、それよりも。お前を殺すことの方が。私の頭の中では先決事項だった。



0:デザートは腰掛けた



デザート:昔。先生に言われたんだよ。自分の正義を全うしろ。と。私はそれにYESと答えた



デザート:だが。私はもう正義の為にお前を殺すことはしないだろう。



アストレア:…。あれだけ大義を掲げて。内戦を起こし、マーリーンの元から離れ、今現在。こんな惨状を作った貴方に。正義がないと?



デザート:そうだなぁ。いいやそりゃあ、昔は確かにあったさ。私が誰よりも正しく世界を導ける自信があったし。それは今でもある。



0:紅茶を飲んだ



デザート:だが。それはもう過去だよ。



アストレア:…



デザート:時間というのは凄いものだな。時代が変われば、人の在り方も変わる。政治の道に走るよりも、ここで力を蓄え、万全を期した方が良いと判断できた。



デザート:私が。マフィアグループの社長だぞ?よくよく考えれば笑い話じゃないか



デザート:もう一度言うよ。時間というのは。凄いものだ。



デザート:全てをどうでもよくしてくれる。怒りも、悲しみも、信念も、覚悟も、過去も



デザート:全てをどうでもよくしてくれる。



デザート:だから私は、ただ。意地を張ってお前に勝ちたかっただけなんだろうなあ。



アストレア:…なんですか、それ



デザート:私は昔から意地っ張りなんだよ。知ってるだろ



アストレア:…ざけないでください



デザート:む。なんだ、聞こえないぞ



アストレア:ふざけないでください…っ!



0:静寂



デザート:…ほお…?



アストレア:私は…!私は正直な話。ここに来るのが、嫌で、嫌で嫌でしょうがなかった…っ!



アストレア:だってそうでしょう!?貴方を殺せば、間接的に私も死んでしまう!



デザート:何だ急に、死ぬのが怖いとでも言う気か



アストレア:そうですよっ!死ぬのが怖いです…っ。デザート、私は。死ぬのが。怖い。



デザート:…



アストレア:私はこれまで幾人もの人間を殺してきた!おびただしい数の死体の上に、私今立っている!



アストレア:私は、その死体の山に自分が行くことが、ただただ恐ろしくてしようがない…っ。



アストレア:それなのにっ。貴方は死を目前にもそこまで平然としていられるっ!



アストレア:昔からそうだっ。貴方は、私よりも、ずっとずっと、強く在る事のできる人だっ。自分の大義の為に、人に死んでもらうことの出来る。覚悟のある人だっ。



アストレア:…デザート。私からすれば貴方は、死と同義なんです。貴方と、またこうして顔を合わせる時は、私が死ぬ時だと、そう持っていました



アストレア:ここに来るまで。63人を殺しました。最後の2人は、貴方のために命を散らしました。社命を遵守する、と。



アストレア:私には無い。そんな、覚悟も、信念も、忠誠も、正義も大義も無いっ…!



アストレア:この数百年で得たのは、ただただ、死への恐怖のみ。本当に執着しているのは、私の方だ…!私はこの数百年で、それしかない。



アストレア:…何も、無いんです…っ。



デザート:…。



0:間



アストレア:……あ。



デザート:…ふむ。お前でもそうやって声を荒らげることがあるんだな



アストレア:…笑いたければ笑ってください



デザート:そうか。じゃあ遠慮なく。



デザート:はははははははははははっ!



アストレア:最低ですね



デザート:ふう。すまない。だがいいじゃないか。それだけ執着してしまうほど。この世界を愛せた。という事じゃないか



アストレア:そんなに聞こえのいい感情ではありません



デザート:お前は中央でも。聖女と、呼ばれているんだろう



アストレア:…恥ずかしながら、一部では



デザート:お前の評価は数百年変わらなかった。だが、私の評価はこの数百年で目まぐるしく変わった



デザート:貴族連合総参謀。異形団体最高幹部。異能教会第七席。バラエティ社、代表取締役。



デザート:だが。お前は一貫して聖女だった。それだけお前の矜恃は、芯の通ったものだった。



アストレア:…そんなものでは



デザート:いつかも言ったな。アストレア



アストレア:…



デザート:お前は先生の前で。全ての天秤である。いいじゃないか。立派にやり遂げてきたんだろう。今日まで



アストレア:…



デザート:正直。羨ましいよ。



アストレア:…っ…。



デザート:だから今日は。今日くらいは、ただのアストレアとして。私は、ただのデザートとして。私と…。



0:アストレアの手を取った



デザート:―――俺と。一緒に死のう



アストレア:……。



デザート:これはあくまで提案だが。契約内容を書き換えないか



アストレア:…どういう形で、ですか



デザート:俺達の契約は。互いが互いを殺すまで。だったが。殺すというのはやっぱり物騒だ。だから



0:デザートは駒を取り出した。



デザート:チェスで。勝敗を決めよう



アストレア:…そういえば。貴方とは、一局も打ったことがありませんでしたね。



デザート:ああ。殴り合い、殺し合いでお前に勝っても。正直俺はあんまり嬉しくない事に気づいた



アストレア:…それで、チェス。ですか



デザート:俺が。先生から習ったその全てだ。



アストレア:…いいですね。乗ります。



デザート:契約。成立だな



0:二人はソファに腰かけた



アストレア:…。これが、チェス駒ですか。



デザート:ああ、目が見えるようになってからは初めて触るか



アストレア:はい。ですが、想像通りの形ですね



デザート:だったらブラインド方式で打とう。



アストレア:いいんですか



デザート:ああ。ハンデだよ。くれてやる



アストレア:…。



デザート:安心しろ。今度は、本当に。一局打ちたいだけだ。最後は、お前がいい。アストレア



0:少し笑った



アストレア:強いですよ。私は



デザート:言ってろ。小汚い兵隊が



0:二人はチェスを始めた



アストレア:では。デザートから。どうぞ



デザート:…ああ。そうだな。



0:



デザート:c6。キングだ。



アストレア:……。悪手。ですよ



デザート:いいんだよ。悪手で



0:



セノ:(M)……嗚呼。なんだこれ



0:



アストレア:Bビショップxb6



デザート:Bビショップxc4



アストレア:Kキングg1



デザート:Nナイトe2



0:



セノ:(M)チェスを。している。



0:



デザート: Nナイトxe1



アストレア:Bビショップd5



デザート:Qビショップb8



アストレア:…。強いですね



デザート:ああ。強いさ



0:



セノ:(M)劇的な戦闘も無ければ。いがみ合い。恨みあいもない。



0:



デザート:…。そういえば。俺はチェスで、先生に一度も勝てたことがなかったな



アストレア:私もありませんよ。一度も



デザート:そうか。まあ、先生だものな



アストレア:はい。陛下ですから



0:



セノ:(M)こんなもの。いつだって。誰だって。どこでだって、できるじゃないか



0:



デザート:Rルークc2



アストレア:――――。



0:



セノ:(M)あーあ。



0:



アストレア:―――無い。ですね



デザート:…。



アストレア:投了します。



0:



セノ:(M)終わっちゃった。



0:



デザート:…ああ。なんだ。



アストレア:なんですか?



デザート:…存外。嬉しいものだな



アストレア:…ふふ。それは。よかったです。リベンジマッチ達成。ですね



デザート:ああ。だが。そうだな。前は負けてるからな。引き分け。痛み分け。この辺りが落とし所だろう



アストレア:…そう。ですね…。



デザート:―――。契約を。履行する



セノ:(M)…。終わってしまった。800年続いた彼らの因縁が。こんな。チェス一局で終わってしまった。



アストレア:……負けはしましたが…。悪くは無い、気分です



デザート:俺に負けたんだからな。これ以上なく幸せ者だよ。お前は



アストレア:…本当に。意地の、悪い



セノ:(M)ああ。アストレアの体が徐々にやせ細っていく。死ぬんだなあ。彼女



デザート:…そう言えば。最初に言ってたクイズ。



アストレア:…ああ。私が、祈っていた事、でしたか



デザート:あれは。なんだったんだ



アストレア:……。ふふ。でしたら、向こうで、話しましょうか



デザート:…勿体ぶるなよ。



0:デザート、吐血。自分の手に着いた血を見た



デザート:…。



セノ:(M)気丈に振る舞う彼も、血なんか吐いちゃってる。いかにも死ぬ寸前の二人って感じだ。何も達成してないのに



セノ:(M)満足そうな顔してる



デザート:…アストレア。聞こえているか



アストレア:…はい。聞こえていますよ



デザート:…最後の最後まで、硬っ苦しい喋り方だ



アストレア:(M)…嗚呼。死が、すぐそこまで来ている。



アストレア:(M)ふと。思い出した



0:回想



0:10年前



セノ:初めまして。僕はセノ・アキラ。昨日から監察局に入った新人ぺーぺーです



アストレア:初めまして。私はアストレア・アステルです。



セノ:はい。総監督武官の正義の味方。聖女さんですよね



アストレア:よしてください。そんな柄ではありません



セノ:それはそうでしょうね。君はそんな人間じゃあ無い



セノ:君の正義って言葉の裏は、酷く臭う。あぁ、人間臭いって意味だよ?



アストレア:―――正直、驚きましたね。



アストレア:一目でそこまで言い切られるのは、はい。初めてです」



セノ:勘が当たったね



アストレア:鋭いですね



セノ:こりゃどうも。で、お答えは?



アストレア:仰る通りかと。私の言う正義ほど虚しく響く言葉も無い。と、私も自負している。のですが



アストレア:中々どうして、この言葉が無いと私は矛を構えることすら出来ないようです



アストレア:えぇ。私は正直、この力を憎んでいたりもします



セノ:異常性を?なんでまた、強力な奴じゃないですか



アストレア:一度念じるだけで数百人を葬れる。こんな力を奮うには、私の意思は小さ過ぎるのですよ



アストレア:少し、荷が重いというものです



アストレア:私は、何処にでもいる、平々凡々な人間でよかった。



アストレア:けれども。それは既に許されないのでしょうね



セノ:……。



アストレア:…すみません。恥ずかしい話を。



アストレア:不思議な方ですね。貴方を前にすると喋り過ぎてしまう



セノ:いいや。構わないですよ



アストレア:ありがとうございます



セノ:しかし硬い。タメ口とかは使えないんです?一応役職的には部下ですよ、僕



アストレア:……。そうですね。



アストレア:私は、誰とも対等ではない。そう思っている



セノ:対等じゃない…?自分すごすぎーみたいな?



アストレア:いいえ。逆です。私の人生は、さっき言った通り、酷く虚しい



アストレア:私なんかが、対等に喋っていい人間は。恐らくこの世にはいません



セノ:…数百年生きると、考え方がちげぇや



アストレア:…?



セノ:いーえなんでも。いつか現れるといいですね。対等な人間が



0:回想終了



0:現在



アストレア:(M)……嗚呼。思い出した



アストレア:(M)次会った時は



アストレア:(M)敬語を外そうと、思っていたんだった



デザート:……。アストレア。聞こえているか



アストレア:――――。



0:何かを喋ろうとする呼吸。声は出ない



デザート:…。



アストレア:………。



デザート:…………。



0:



デザート:続きは。向こうで聞くよ。アストレア



0:



セノ:ーーーーーーさて、もう午後だ。行かなきゃ



0:



デザート:……。あぁ。長かったな。本当に



デザート:――――長かった



0:デザートはアストレアの亡骸を見つめている



デザート:死んだら、どうなるとか、考えたこともなかったなぁ



0:



デザート:(M)顔も名前も思い出せない。けれど俺の、最も心を許した友人に問う



デザート:なぁ。結末はこうなったよ



デザート:楽しんでくれたか



デザート:いいや。こんな腑抜けた結果だ



デザート:きっとつまらなさそうにしてるだろうなぁ。



デザート:色々話したい事があるんだ



デザート:まずは・・・そうだな



デザート:あれって勝ったって言っていいのか



デザート:審判居なかったからなあ。なんだか、無効試合な気もしないでもない。



デザート:次はお前が審判やってくれよ



デザート:…はは。つまんなそうな顔するな。これは絶対に



デザート:でも案外贔屓目で見てくれたりするか



デザート:・・・そうだそうだぁ、アイツあんまりああ言うタイプの女好きじゃなかったしな



デザート:ーーもしかしたら味方してくれる、かもなぁ



デザート:・・・



デザート:・・・



デザート:・・・





セノ:ーー僕はいつだって、面白い方の味方だよ。





アストレア:(M)彼はつまらなさそうに二人の亡骸を見つめている。







0:ーーー審判者達の終末ーーー




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