1.3 そして移動
左之助が術を使うには「術力」がいる。
「術力」は自然や生命のもつエネルギーの塊に近いもので、
「体力」とは違い、休めば回復するという代物ではないが、
体力と違いなくなっても死ぬわけではない。
そのため、術力を常に自分の内にストックする必要があるのだが、
人にはそれぞれ術力を貯める「器」に違いがある。
貯める量が少ない人間には、生涯、多くの術力を使用する高度な術や強大な術は使えない。
しかし、左之助が内包する「器」は忍者の中でも歴代有数の大きさであり、若年でも最強に近づく事を可能にした。
他を圧倒する術力をストックできれば、多彩な術で相手を翻弄するのも、
物量で圧倒することもたやすい。
ただ、そんな左之助も術力が底をつけば小さな器の人間と大差ない。
(……ん~、やっぱりきついなぁ)
左之助は、切り株の上で座禅を組んで静かに息を整えている。
しかし、頭の中は術力が貯まらないことでいっぱいだ。
術力が回復するにはいくつか方法がある。
たとえば、自然と一体化して自然のエネルギーを体内に取り込む方法。
しかし、これは霧の中で水分を集めるような行為で、取れなくもないがまったく効率的ではない。
一番単純な方法としては、エネルギーになるものを食べること。
先ほどの兵糧丸なら、術力を多少は回復させることができる。
しかし、人の食欲と胃の限界があり、食材の量=エネルギー量ではないため、術力を最大限貯めるには、結構長い時間がかかる。
そして、一番効率的なのが、別の存在から生命エネルギーを奪うこと。
相手の持つエネルギーを吸収することは、最も効率的で吸収率も高い。
そのため、術を使う者同士では、この術力吸収が勝負の行方を占うことになる。
結果、前の世界で術を使う敵と戦った左之助には、まったく術力が残っていなかった。
ぐぅ~。
お腹をさする。
数日の休眠の後、兵糧丸一個で満足するはずがない。そろそろ水分もほしい。
「…動くか」
立ち上がり、切り株から離れる。
その去り際、切り株に一礼した。
すると切り株から何かパチっと音がした気がしたが、確かめることなくその場を離れた。