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1.1 はじまりは突然に

「……これがお前が望んだ結末だろう」


その言葉は、あいつの耳に届いただろうか。

目の前の炎は青く、炎の中で自分の哀悼が墓標のように刺さっていた。


「……最悪の気分だ」


血まみれの手をに日切り閉め、思わずため息が出た。


「……クスッ、クスッ」


背後から聞こえる小さい女の子のような笑い声。

それに気づき振り返る。

しかし、そこには誰もいなかった。

だが次の瞬間、背中に何かが触れたのがわかった。


「一緒にいきましょう」


再び聞こえた子供の声に、振り向くよりも先に手で両手を組んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


加藤左之助は、忍者の家に生まれ、当然のように忍者として育てられた。

ただ、忍者とは言え、政治と科学が発展した世界では、暗殺ではなく諜報が一番の仕事。

それは綺麗な世界ではなく、世界でも屈指の強者たちが跋扈する世界。

当然、簡単に危機を迎え無残に死ぬ者もいる。


そんな世界の中で左之助の才能は当代一、歳をとるほどに敵う者は減っていき、

体術や忍術も極まって行く中で、

15歳になる頃には最強の名を競う所まで届くことになる。

そして、科学や化学に関して時代の最先端を行く忍者の中で、

その知識で新しい忍具や術を発明し、

この世界の人間で、左之助と戦うのは相当の強者ではなければ務まらないほどになる。


そんな左之助が激戦の後とはいえ、簡単に後ろを取られた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「随分な状況じゃな。ぼん」

「すまない、ときバア、状況がつかめない」


真っ白な世界。とっさに印を組んだ手が動かない。

そんな左之助の前に、背が曲がり、杖をついた和服の老婆がゆっくりとこちらに歩きながら話しかけてきた。

それは、印を組んで召喚した時を司る精霊の「ときバア」の姿だった。


「お主の後ろにいるのが、お主を召喚しておる。今はその力の狭間、刹那程度の時間の中じゃ」

「謎の場所への召喚か、それはお断りなのだが……時間止めはできないか?」

「時を止めることができん程の速さで移動しておるのじゃ。それはできんな」

「じゃあ、時戻しは?こいつに触られる前に戻りたい」

「できなくもないが、この力に抵抗するのに微調整はできん。先ほどの彼奴との決着前まで時間を巻き戻す事になるぞ」


その言葉に左之助の頭の中が冷静さを取り戻す。

そして目を閉じ、覚悟が決まる。


「……それだけはできない。戻さなくていい。このまま行く」


歩いてきたときバアが。左之助の目の前に立った。


「ぼんや。こちらに戻るなら誰かを指標にして逆呼術を使えばええじゃろ。じゃが、それにはとんでもない力が必要じゃが、大国一つ滅ぼす程度のな」

「そんなのベストコンディションでもきついな」

「それに、お主が先ほどの戦いでかけられた呪いは解けておらん。術力や氣、神血もボロボロじゃ。まずは回復に専念する事じゃ」

「わかったよ」


ときバアは、左之助の胸に両手を当てる。


「わしの残りの力を餞別として渡しておくで。少しは時間もゆっくり流れるじゃろう」

「ありがとう。ときバア」

「わしがこの手を離したらすぐに目的地じゃと思え。油断するでないぞ。皆には伝えておくで」


ときバアのしわくちゃの顔を見て、自分のほほが少し緩んだのがわかった。

そして、ときバアの手が自分から離れた。


ゴーーーーーー!

白い世界が消え、今度は薄い赤チューブのような光の中を進んでいる。

耳をつんざく轟音、眼前は一面雲の上で、自分が落ちているのもわかった。

もう後ろに気配は感じない。ただ、今度は赤い光の中で前に引っ張られているのを感じる。


「おおお!!!」


心からでた怒りに近い叫び、組んでいた両手を離し新たに印を結ぶ。


「爆発分身!」


引っ張られる力に抗いながら、目の前に自分のエネルギーの塊で分身を生み出した。

すると、自分が引っ張られる力が弱くなり、逆に分身はどんどん引っ張られていく。

そして、引っ張られる力が抜け、赤い光の中からも解放された。


(あの塔が元凶か!)


赤い光から解放されて目に入る鬱蒼とした森と巨大な塔。

そこに向かって赤い光は伸びており、分身は召喚され続けている。

自分は急転直下で森の中に墜落していく。しかし、焦りはない。


「風術」


その言葉で左之助への風の抵抗は消え、

まるで天から天使が降臨するように、ゆっくりと足から森に降りていく。

そして、大きな木の切り株のそばに降り立つと、すぐに激しい頭痛に襲われて膝をついた。


「クソ!なんてことしやがる!」


口から出た罵声。

視覚も感覚も先ほどの爆発分身と共有しており、

左之助の身体に召喚された分身に刷り込まれていく情報が流れていく。

分身の目の前に立つローブを着た者や、金色の鎧を着た者の姿、

この世界のこと、言語、生活方法、魔術、剣術など、この世界のありとあらゆる情報。

そんな情報が急速に頭に入ることで、頭がパンクしそうで動けない。


(起爆!)


そんな中で、右手の親指を押した。

その瞬間に分身との接続が切れ、情報は一気に遮断された。


「……束縛術まで入れてんのかよ。でも、この程度なら問題ない」


素早く印を組み、力を込めると少し体が軽くなった。

そして、切り株に背を預けた。それだけで意識が飛びそうになる。


(ダメだ。耐えろ。もう少し耐えろ)


ドーーーーーーーン!

その時だった。塔から物凄い爆発音が聞こえ、爆発分身が爆発したのに気づいた。

それが気付けとなり、左之助は切り株に背を預けるのやめ、地面に両手をついて立ち上がる。

一度、天を仰ぎ、大きく息を吐いた。


塔から大量の瓦礫が降ってきているのが見える。

左之助はそれを確認しながら周り見た時、

自分がとても大きな切り株に寄りかかっていたのに気づいた。


「……もう時間がない。君の朽ちた体を貸してくれ。木分身」


ゆっくりと印を組み、組み終わったところでゆっくりと両手に切り株に触れる。

すると、切り株がめきめきと音を立て、左之助にそっくりの木の人形が出来上がり、

木の人形は左之助の目の前に立った。

左之助は右手をぎゅっと握ると、手からは血が滴り、その手で木の人形に触れた。


「魂魄分身」


触れた右手が、まるで木の人形に吸われるように引っ付き、

左之助の血を吸いながら、木の人形に血液、髪の毛、肉、皮膚が出来ていく。

そして、服さえもコピーした左之助の分身が出来上がった。

左之助はそれをみて少し笑うと、両ひざから力が抜けて地面に膝をついた。

そして再び、切り株に背を預けて座る。


「ときバア程の精霊から力をもらっても、もう厳しいな……でも」


両手を組んで叫ぶ。


「呼術!」


すると、どこからともなく小さな黒い蛙が現れた。

それを見て左之助はポケットからスマホを取り出して蛙の方に向けると、蛙はそれを飲んで消えた。


「もう、ダメだ……木棺の術」


左之助がそうつぶやいた時、自分の姿を分身が静かに見ているのに気づいた。


「君の仕事は情報収集だ……動けそうにないんだ。すまないが、あとは頼んだよ」


目の前に立つ分身に手を差し伸べる。

すると、分身は左之助の手をとり、左之助は自分の持つ情報や術を分身に流し込む。

それは淡い光りを放ち、分身に吸収されていく。


それを最後に左之助は気を失った。

そして、その体は、ゆっくりと切り株から伸びる枝に持ち上げられながら、

切り株の中へと運ばれていった。


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