ゆく年くる年2
丑年がもうすぐ終わる。
俺の家ではその年の干支のヤツを迎えるという風習があり、大晦日の夜は交代のために玄関を開け放っている。
交代は通常、除夜の鐘が鳴り終わるまでに行われるが、前年はせっかちなねずみが除夜の鐘の鳴り始めとともに交代を待たずに去り、丑(俺はうっしーと呼んでいる)は最後の鐘の音が消える頃やって来た。
今年は除夜の鐘が鳴る前から、すでに玄関前に横たわったヤツが面倒臭そうにこっちを見ていた。
「ワイは可愛いネコちゃんやぞ」
……いや、お前どう見てもトラだろ。
玄関前の声を聞きつけて、うっしーがやって来た。
「あれぇー、お早いですねぇー」
おっとりした声で語り掛けるうっしーに、自称ネコちゃんが言い放った。
「お前、旨そうだなー。おっ、家主、こいつの腹の下で火ぃ焚いて、バーベキューしようぜ」
微かに波乱の予感を感じた俺はポケットに手を突っ込み、「ネコちゃん」の前にブツを放り投げた。
「ほわあああ」
「ネコちゃん」が悶えた。
マタタビは何てネコ科に効くのだろう。
俺は感心しながら、うっしーに一年間世話になった感謝を述べ、送り出しの準備を始めた。
「えー、私は急ぎませんのでぇー。来年のお話をしましょうかぁー」
人面丑はおっとり話し始めたが、俺は尻を押して玄関から送り出した。
丑は何やら言いながら、ゆっくりと遠ざかって行った。
交代終了。めでたしめでたし。
さて、あとは玄関前で悶えまくっているヤツを家に招かねばならない。
丑より図体はデカくないが、引きずり込むのは面倒そうだ。
「家の中にはマタタビがまだまだあるぞー」
「マジかー、行く行く」
マタタビに酔いまくったトラが身を起こす。
チラと見えた尻尾の先が二つに割れているような気がしたが、まあ気のせいだろう。
ゴキゲンな足取りのトラを、俺は家へと招き入れた。