聖女、怒りの制裁を加える
牛型魔族の巨体が木々を突き抜けて転がりながら飛んでいった。
べしゃりと落ちたところでピクピクと痙攣している。やりすぎたかな。まだ死なれたら困る。
アレが起き上がってくる間に観察すると、だらしなくふらついている敵兵が二十人程度。
そして人間の魔術師が私と倒れている魔族を慌てながら見比べていた。
「あなたは何ですか。人間でありながら魔族に協力するなんて……」
「お、お前こそ何者だ! あのホルスター様が簡単に……!」
「あなたは魔力と身なりからして魔術師団の方ですね」
「そうだ! 俺はグランシア国第一魔術師団、団長補佐ウイデドだ! お前はこの国の魔術師だろうが……」
名前 :ウイデド
攻撃力:5+2,652
防御力:5+2,433
速さ :5+3,046
魔力 :11,454
スキル:『魔力再生』 魔力を少しずつ回復する
『風術制御』 風属性魔術による魔力消費を抑える
『風速』 風属性魔術の速度が上昇する
私が知る限り、隣国ことグランシア国の魔術師団の団長クラス以外は一万には届かなかったはず。
これはリデアと同じ超魔水の恩恵を受けている。
私の魔術式完全理解の前で、この手の小細工は通じない。
「超魔水ですか」
「なっ……!」
「隣国ではもはや常態化しているのですね」
「まさか綺麗事でも抜かす気か? 魔力ほど生まれながらの格差が出るものもないだろう! こんなものを禁じるほうがどうかしてる!」
超魔水は隣国でも禁じられている。
魔力暴走による事故が起こったり、魔力酔いによって命を落とす事もあるからだ。
そしてリデアは私を陥れておきながら、平然と摂取していた。
超魔水自体は私が封印される前から、裏で取引されていたから珍しくない。
ただし質はピンキリで、製造元によってかなりの差があった。
リデアが摂取していたものは副作用はあったものの、質はかなり高いように思える。
このウイデドも今のところ、副作用は見られない。
リデア、隣国。この二つで同じ質の超魔水が流通していた?
警戒するウイデドの後ろから、のっそりとホルスターが歩いてくる。
「んもぉぉ……! やってくれたわねぇッ!」
「お目覚めですか。あなたがその程度なら、あなた達の上に立つ魔族は大した事なさそうですね」
「んもぉッ! あのお方への侮辱は許さなぁい! くらいなさい!」
ホルスターが乳からミルクらしきものを乱射し始めた。
名前 :ホルスター
攻撃力:8,439
防御力:8,957
速さ :4,500
魔力 :7
スキル:『ぶ厚い脂肪』 すべてのダメージを軽減する
『ミルク』 甘いミルクにより生物を操る
威力もさることながら、このミルクを少しでも口に含めば虜にされちゃうわけか。
でも、私に言わせればまだまだ足りない。適当に回避しつつ、指で舐めてみた。
「んー……まだ甘さが足りませんね」
「んもぉ?!」
「このままでは香り負けしています」
「こ、こ、この雌ガキィィ! よくも、よくも、この私のミルクをォォ!」
巨体を丸くして今度は転がってきた。木々をなぎ倒して一直線に向かってくる。
片手で抑えてから、私は考えた。キキリちゃんを拉致して痛めつけた怒りをどう静めよう。
「と、止められたですって……!」
「そりゃ止められますよ」
「このッ!」
今度は蹄を叩きつけてくる。結果は同じだ。片手で止めた後、私は思いついた。
「んもぉぉ……! なんなの、この力ぁ……!」
「そのミルクがそんなにおいしいんですか?」
「このミルクで虜に、ならなかった奴なんてぇ……」
「そうですか。ではたっぷりと飲んで下さいッ!」
拳でホルスターのお腹をぶち抜いて、ミルクがあふれ出す。
すかさずそこで空間隔離だ。ホルスターの体がようやく収まる程度の空間に、ミルクが満たされ始める。
「んもぉ!?」
「それどこまで出るんですか?」
「や、やめてぇ……!」
「あーあ、もういっぱいです」
「んぼぼぼぼごぼぼぼっ!」
空間内がミルクでいっぱいになって、ホルスターが溺れた。
足掻いたところで空間からは出られない。もがきにもがくも、段々と動きが鈍くなる。
「キキリちゃんを散々痛めつけたんです。このくらいやらないと気が済みません」
「んぼ……ぼ……」
ホルスターの動きが止まり、巨体がミルクの中を漂う。
空間隔離を解除すると、大量のミルクと共にホルスターが森の地面に落ちた。
ぶちまけられたミルクまみれのホルスターは完全に死んでいる。
ウイデドが近くの木にしがみついて、一部始終を見ていた。
「ホ、ホルスター、様が……あっさりと……」
「今のところ、命まで取るつもりはありません。捕虜としての選択肢がありますよ」
「わ、わかった……」
ウイデドが両手をあげて降参のポーズを取った。
だけど残念、密かに周囲に風を発生させている。今はまだ小さいけど、そのうち台風になる感じだ。
私が気づかないとでも思ったのかな。
「ソアよ。油断するな」
「わかってますよ、マオ。まったく、せっかくのチャンスを……」
「な、何の話だ」
「風属性上位魔術」
育ちつつあった風が止まって無風になる。
風属性封じの魔術だ。単純に風を巻き起こす魔術なら大体これで何とかなった。
「し、しまった……」
「今更、降参は認められませんよ」
「ひいぃぃ!」
打つ手なしのウイデドが走って逃げ出す。
「マオ、キキリちゃんの目を塞いで下さい」
「うむ」
「な、何をするんですかぁ!」
「地属性中位魔術」
逃げるウイデドの足元に岩が生成されて一瞬で包んだ。
圧縮される岩の中から悲鳴が聴こえた後、すぐに静かになる。
血が漏れ出る岩ごと大地に沈めてから、キキリちゃんを抱きしめた。
「もう大丈夫ですよ。よく無事でいてくれました」
「あの、さっきの人は?」
「反撃を試みていたので殺しました。仕方ありません」
「そ、そうですか……」
キキリちゃんも子どもじゃない。目隠しの意味もわかってるはずだ。
幻滅されるのは嫌だけど、これから嫌でも直面する場面でもある。かといって直に見せる勇気もなかった。
いろんな魔術があります
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