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聖女、魔術師の卵を指導する

 自警団のアジトらしき建物は衛兵の元詰め所だ。

 荒らされて汚らしい住処に変貌していたから、掃除してあげた。

 それが国の為に、街の為に体を張っていた人達に対する弔いだと思ったから。

 街で聞き込みをすると、あの自警団が街を守っていたような話は聞けなかった。


 幸い、ここ数年は魔物の侵攻がなかったおかげもあって自称自警団が暴れられる余地もあったとわかった。

 それにはエルナちゃんを始めとした数少ない冒険者達のおかげでもあったとも判明する。

 そして今は冒険者ギルド。

 冒険者ギルドで寝た振りをしていた人が、調子よく話しかけてくる。


「いやー、君すごいね。オレはあの時、びびっちゃってさ」

「これからもこの街で活動していただけるんですね」

 

 4級冒険者で、自警団のボスには届かないけど実力はある。

 自警団のせいですっかりやる気をなくしていたけど、私を見てやる気を出してくれたみたい。


「あいつらも怖いし、ここ最近はさぼっちゃってさ。エルナちゃんには悪いことをしたな」

「人間ですから、そういう事もあります。もちろん油断も隙もあってはいけないのですけどね……」

「うん?」

「いえ……」


 この街で活動していた冒険者はこの人とエルナちゃんを含めて数人だ。

 今はほとんどの冒険者がハンターズに行っちゃったとか。

 ハンターズについてはほとんど知らないけど、冒険者の活躍はよく知ってる。

 王国軍の手が回らない時に魔物討伐をやってくれる貴重な存在だ。

 街への資源の供給や護衛依頼による往来の補助と、幅広く活躍してくれていた。

 でも中には自警団みたいによくない人達もいたし、そんなのがハンターズにいっちゃったのかな?


「まともな奴は死んだか、ハンターズに入ってるか……。仕方ないよ、冒険者ギルドの報酬で生計を立てるなんて昔の話さ」

「お気持ちと事情はわかります。そこで一つ、お願いがあるのです」

「オレなんかにお願いか?」

「やる気がある人を連れてくるので、その人達に剣の手ほどきをしてあげてほしいのです」

「なんだって? オレが?」

「4級の中でも上位の実力者と見込んだ上でのお願いです」


 自警団を倒しても根本的な解決にはなってない。

 この街が寂れて魔物の襲撃に怯える状態なのは変わらないから、まずは守れる人が必要だと思った。

 街に活気が戻れば、前みたいに強い人達が揃うかもしれない。

 もちろんその為にはこの人やエルナちゃんに頑張ってもらわないと。


「依頼は私から出します」

「君が報酬を払ってくれるのか? お金はあるのか?」

「あ、あります」

「少し引っかかったが大丈夫か?」


 大丈夫じゃないです。封印されて資産を没収されたせいで金欠です。

 この街にくるまでにエルナちゃんと魔物討伐をしたおかげで、少しだけあるけど。

 そんな感じで周辺の魔物討伐依頼を私が引き受けて、お金を稼げばいい。


                * * *


 翌日、街の中には意外とやる気がある人が集まってくれた。

 お願いした4級冒険者ことレックスさんは張り切って広場でさっそく特訓を開始している。

 武器や防具は自警団から拝借したものがあるし、有効に活用してほしい。

 私はというとエルナちゃんに少し手ほどきをする事にした。

 場所は座学もあるし、衛兵の元詰め所だ。


「お母さんも元気になりましたし、お仕事も出来るって張り切ってます」

「あまり無理はさせないでくださいね」

「はい。今日は魔術について教えていただけるんですよね?」

「そうです。一応、先生と思ってください」

「はい! 先生!」


 素直でよろしい。形から入るのも大切です。

 本当は手元に教科書になる資料があればよかったんだけど。


「エルナちゃんには才能がありますが、魔力の無駄な使い方をしてます。魔力による身体強化はもう少し抑えたほうがいいです」

「何故ですか? いざという時に動けないのはまずいのでは?」

「きちんと意味を考えて行っているのはいい事です。しかし、動けるだけならもっと少なくていいのです。エルナちゃんは近接戦闘の基礎を知ってますか?」

「いえ、攻撃は魔術だけですね」

「そうですよね。エルナちゃんのような子はむしろ魔術による攻撃に集中したほうがいいです。実際に魔力で身体能力を底上げしても、いざという時に戦闘の役に立たないのなら意味がありません。近接戦闘って難しいんですよ。これもセンスに裏打ちされた上での特訓が必要になります」

「わかりますが……」


 立ち上がって、私がパンチやキックの真似事をした。

 私の素の身体能力はエルナちゃんと変わらないけど、形だけなら習得している。

 昔、空いた時間を見つけては騎士団長に無理を言ってお願いしたおかげだった。あの人、元気かな?


「今と同じ動きができますか?」

「無理です……」

「もちろん動けるに越したことはないので、身体強化の底上げは大切です。ですが今は魔術を特化させましょう。何事も中途半端が一番よくなかったりしますから」

「ちゅーとはんぱ……」

「あ、気を悪くしないで下さい。むしろ何の訓練も知識もないのにそこまで磨き上げたのは驚嘆に値しますよ」


 実際、魔術に関しては絵本で読んだものを真似ただけというんだから怖い。

 エルナちゃんがこなしている魔術は、魔術学院の一年生を修了してようやく身に着けられるものだった。

 魔力もまだまだ伸びしろがある。というのも――


「魔術の知識の習得、魔術の基礎の特訓と並行して魔力の底上げを行います」

「魔力って上がるんですか?」

「生まれつきによる頭打ちもありますが、手段を間違えなければ上がります。私が見れば魔力の数値と伸びしろまでわかるんですよ」

「数値?!」

「はい、基準はあくまで独断ですがこんな感じですね」


魔力値

10      一般人

100     5級冒険者の魔術師(自称自警団のボス)

500     3級冒険者の魔術師(3級じゃないけどエルナちゃん)

1000    1級、2級冒険者の魔術師

3000    下位の宮廷魔術師

5000    上位の宮廷魔術師

10000以上 化け物と呼ばれる人達、存在(八賢王、魔王や邪神など)


「八賢王? 魔王?」

「まぁとっさに思いついた例えなので気にしないで下さい」


 思わず書いちゃった。

 実際には1万以上はそこまで珍しくないけど、あまり天井を高くすると萎縮されるからこの辺りで。

 エルナちゃんが紙と私を見比べている。


「ソアさんはいくつなんですか?」

「私は1000程度ですね」

「えー! 1級くらいの魔術師なんですか?! なんで今まで冒険者登録をしなかったんですか?」

「き、金欠でとうとう冒険者になるしかなかったのですよ」


 墓穴を掘るとはこの事かな。

 実際にはその1000倍以上なんだけど、自分から言うのもね。

 私の魔力は125万です、とかギャグとしか思われない可能性が高い。


「と、とにかく始めましょう。魔力、魔術を高めるには三段階あります。魔力への意識、魔力への理解、魔力の操作。

基礎中の基礎ですでにエルナちゃんもやってるかもしれませんが、精度を高めます」

「自分が持ってる魔力ですね。それでソアさんも数値化できたんですね」

「鋭いですね。私くらいになると、相手の魔力を見ただけで大体のことがわかります」

「そこまですごいのに金欠だったんですか……」


 どこまでも食い下がる! 金欠設定は失敗だったかも。

 気を取り直して、エルナちゃんには基礎の瞑想を初めてもらった。

 まずは静かな場所で魔力を感じてもらう。

 基礎だけど、これが出来てない魔術師は先細りする事が多い。

 エルナちゃんが床に正座して、目を閉じた。


「まずは一日、1分程度にしましょう。長く続けても集中力が切れては意味がありません。少しずつ伸ばしていけばいいんです」

「はいっ……!」


 魔力を感じ取れてないから、自分が持っているすべての魔力を出せない。

 自分の魔力への理解がないから、適正以上の魔力を消費してしまう。

 そして操作もままならない。

 だからエルナちゃんにはここを徹底してやってもらう。

 私が付き合える日数はそんなにないけど、せめて3級冒険者クラスには引き上げたかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 125万www かんすとっぷ!のリュアも敵の最大HPの100倍以上のダメージを与えていたので、人外感を出すにはそのくらいの数字が適切だと思います。
[一言] >私の魔力は125万です、とかギャグとしか思われない可能性が高い。 フ◯ーザ「私の戦闘力は53万です」 > 私の魔力は125万です、とかギャグとしか思われない可能性が高い。 フリ◯ザ「…
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