聖女、ハンターズの根を刈り取る
「ここにいる方々は全員、ハンターズと見なします」
ハンターズの主犯四人、ザイーネことロイドのダルイズ家、グスカスのソーク家、ルキヤーのビラン家。
キャランのコーパス家。全員がテーブル席について、各々の反応を見せている。
怯え、憤り、楽観。それぞれ好きにしてもらっていいけど、行きつく先は同じです。
この空気の中で最初に口を開いたのがダルイズ家の当主だ。
「ロイドがハンターズ? 馬鹿な事を……」
「ハンターズの顧客の中にはダルイズ家と懇意にしていた人達がいます」
「何を証拠に……」
「ザイーネさん……いえ、ロイドさんが持っていたこの名簿はどうですか?」
「な、なんだ、これは! 何故こんなものが!」
「何に使う為に持ち歩いていたのでしょうね」
わなわなと震えるダルイズ家の当主と妻。
しかもその名簿にはいわゆる顧客の要望みたいなのが書き込まれていた。
殺人依頼、誘拐からの拉致監禁、強盗。冒険者ギルドにはまず依頼できないものばかりだった。
「ロ、ロイド! こんなものをいつの間に!」
「馬鹿なお前らが口を開けて寝ている間に拝借したのさ」
「き、貴様……! どれだけ親に迷惑をかければ気が済む! 私達を魔術で脅したばかりか、こんな悪事を働いていたのかッ!」
「口の利き方は教育したはずなんだけどな。自分達の息子として生まれてくれてありがとう、こうだろ?」
とても親子の会話とは思えない。
ザイーネことロイドは平凡な両親から生まれた天才だ。
そういう意味では私やリデアと同じなんだけど、それぞれまったく違った成長を遂げたわけで。
お父さんとお母さんは私を尊重してくれた。
対してザイーネはどうかな? この両親は息子にどう接したんだろう。
「私の言う事を聞いていれば、こんな事態にならなかった! このご時世に宮廷魔術師となって活躍すれば、王家の中枢にだって関われる! うまくいけば国王に多大な恩を売れたというのに!」
「凡人が僕を利用できると思うなって教えただろ?」
これがダルイズ家か。
お父さん、お母さん。改めてありがとう。大好きだよ。
「グスカス……。どこまで私に迷惑をかける気だ……」
「オ、オヤジ……」
グスカスも父親ありきで散々悪さをしてきた。
あの魔導銃も交易品の一つで、息子の為に仕入れたみたい。
魔導銃ガン・ウインドは極小の突風を撃ち出す。ノーコストで撃ち放題だけど、複雑な構造のせいで故障も多い。
エルナちゃんの時に故障したのは悪運としか言いようがなかった。そうじゃない時に故障していれば死んでいた可能性すらある。
「皆様、この度は息子の不始末により」
「あの、あなたも同罪だと言いましたよね? 特にグスカスによる少年殺人事件のもみ消しは重いですよ」
「ど、どうして、それを……」
「余罪はいくらでもありますし、もうあなたが社会的に活動する事はないでしょう」
「そんな……そんな……」
自業自得という言葉はいつになっても有用だ。
今回、こうしてこの人達を集めてもらった理由は二つある。
一つは両親にハンターズの一員である事を認識してもらいたかったから。
もう一つは単純に、どんな弁解も逃げ道も一切ないと思い知らせたかった。
これから王国裁判にかけられるんだけど、そこであなた達もハンターズなんですよなんて優しく教えてくれる人なんかいない。
ここで逃げられないと知れば、裁判で下手な言い逃れをして長引かせる事もなくなると思う。
皆、忙しいんだから少しでも負担を減らしてあげたかった。
「で、でもパパの知り合いは偉い軍事大臣だった人だし? えっと名前は、ル、ル……」
「ルイワード侯爵はもうこの世にいませんよ。生前、ルキヤーさんの父親と親交があったようですね」
「……ウ、ウソ?」
「あなた達に逃げ場はありません。これから王都に連行しますが、くれぐれも妙な真似はお止め下さい」
シンと場が静まる。
ここでザイーネがテーブル下で魔力をため込んでいた。一気に爆発させる気だ。
「炎属性上位魔術!」
「炎属性下位魔術」
ザイーネの右手が小規模の爆破に包まれた。
発動に合わせて相殺してやったけど、想像以上に右手が使い物にならなくなっている。
皮が焼き剥がれて、まるでアンデッドみたいだ。
「ぎゃあぁぁ!」
「威力が大きくなる前の初動の威力に合わせました」
「手が、腕がぁぁ! 痛いよぉ助けてぇぇ!」
「あなたに殺された村人はそうやって命乞いすら出来なかったでしょう」
「村、人……」
ライザーさんが守っていた村だ。
ザイーネの特徴を聞いておいたおかげですぐにわかった。
自慢の魔術で村人を殺して、金品を奪う。どうあっても死罪は免れない。
「そちらの魔術師一家の方々については、私の実力を含めて知っていただけたでしょうか?」
キャランのコーパス家の人達の顔を見れば一目瞭然だ。
仮にも魔術師である以上、今のがどれだけすごいか。わからないはずがない。
呼吸を荒げて、悶えるザイーネを凝視するしかなかった。
「初動の威力に合わせて……? ふ、不可能だ……偶然に決まってる」
「ご当主が得意とされている風系の魔術も、相殺が可能ですよ」
「な、なぜそれを……」
「見ればわかるんですよ」
魔術式完全理解の前で誤魔化したり、魔術で張り合えると思わないでほしい。
時間差でガタガタと震え出して、更に大人しくなった。
「これから王都まで、それなりに長い道のりですが逃げようなどと考えない事です。私がいる限り、絶対に逃走は不可能だと断言します」
もう誰も何も口にしない。唯一、馬鹿笑いしているキャランだけど、次第に静かに苦しそうにテーブルに突っ伏す。
痙攣しても尚、笑おうとしていた。
「ギャハ……ギャ、ハ、ア! ギャハッ……ハッ……」
「笑いは健康の秘訣といいますが、何事にも限度があります。こうなった原因はコーパス家の方々なら理解できると思いますが?」
闇属性下位魔術。特定の行動を実行させる魔術だ。
呼吸ができなかろうが笑い続けさせる事だって出来る。ここで死なれるのは困るから、気絶したところで解除したけど。
全員分に用意された渇いたライスと塩スープだけど、誰も手をつけなかった。
ハンターズ編?も、もうすぐ終わりです
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