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その名はハンターズ

 あの洋館を放棄したくなかった。

 隠れ家として最高だったし、馬鹿な母親と父親に構われずに済む。女を連れ込もうが殺そうが、すべては思いのままだ。

 聖騎士団に特定されて焦ったけど、いざという時の脱出用隠し通路が功を成した。きっと前に住んでいた奴が作ったんだろう。あんなものを作らなきゃいけないような奴だったって事さ。


「なぁ、ザイーネ。レーバインってさ、そんなにやばいの?」

「グスカス、君がその魔導具をあいつに向ける間に何回死ねると思う?」


 グスカスの父親は交易商で財を成した。

 せびれば何でも買ってもらえるこいつは、あらゆる武器を手に入れては試す。最近では小動物に飽き足らず、ついには人間の子どもを撃ち殺した。事件になったものの、街の有力者である父親がもみ消したんだったか。

 僕達四人は全員、違う街の出身だ。


「ザイーネー! これからどうすんのさぁ!」

「ここから近い街を目指して、そこでやり過ごす。いくら聖騎士団でも、街の中で大っぴらに暴れるわけにはいかないだろ。炎の魔人の魔物の巣(デモンズネスト)も近いし、ちょうどいい」


 ルキヤー、この女の母親は確か娼婦だ。

 父親は町長で、やっぱりそれなりに羽振りがいい。

 こいつが爪に塗っている塗料は一種の魔導具で、色ごとに扱える属性が違う。たくさん塗るほど下位の魔術と同じものが放てる。

 下らない効果だが、これ一つで圧倒できる奴が多いんだから意外と世の中はちょろい。


「街に着いたらメシ食おうぜ! オレ、ロワウ牛のステーキ! ギャハハハ!」

「そんなものあるわけないだろ」


 この馬鹿笑い野郎のキャランはそこそこの魔術師を輩出している家柄の息子だ。末の弟の上に大した魔力もないので、家の離れに閉じ込められていたところを脱出したらしい。

 下品でうるさい奴だが、こいつの幻術は役立つから連れて歩いて損はなかった。


「それにしても散々だったな。でも、それがいい」

「うん! 私、今が楽しくてしょーがないしぃ!」


 こんなご時世だから両親は僕に魔物と戦えと命じたが、誰に向かって口を利いているんだって話だ。

 お前らみたいな凡俗から、僕のような人間が生まれてやっただけでも感謝すべきだというのに。

 僕に口出しをしたら殺すと脅してからは、逆らわなくなった。

 

「遊びで乗っ取ってみたハンターズだけどさー。まさかこんなにおいしいとは思わなかったじゃん?」

「そうだね、ルキヤー。末端の連中なんて、元締めの奴らはすでに死んでるとは思ってないだろうね」

「ここまで大きくしたのはザイーネじゃん?」

「遊びだよ、遊び。元の連中は冒険者パーティだったみたいだし、あのままのやり方ならすぐに駆逐されていたよ」


 僕達は偶然、ハンターズと名乗る冒険者パーティと知り合った。

 僕達を普通の少年少女だと思ったのか、奴らはいい気になって稼いだ金を見せびらかしてきたっけ。

 従えばお前らにも稼がせてやるなんて言ってたけど、数分後には地に這いつくばっていた。


「グスカスがキレて、魔導具で撃ち殺したんだったな」

「だってまだ剣だの槍で粋がってるような奴らとかムカつくじゃん?」

「おかげで楽しい遊びが出来ているけどね」

「だろ?」


 グスカスが機嫌よく口笛を吹く。

 そう、ハンターズなんて遊び。いわばゲームだ。僕が張り巡らせた根のおかげで、金なんかいくらでも手に入る。

 殺人、人身売買、強盗、売春。悪事の需要は計り知れない。こんなご時世、より抑圧された人の心をくすぐってやれば簡単に爆発した。

 どいつもこいつも普段はもっともらしい事を言いながら、いざとなれば手の平を返す。


「ザイーネ、ここから近い街ってどこだよ?」

「カドイナの街さ。あそこを経由して、噂の炎の魔人を目指す」

「カドイナ?」

「前は騎士団や冒険者で溢れかえっていた国境付近にある街さ。今や見る影もないらしいけどね」


 噂じゃ街は自警団に乗っ取られているらしいけど、どうでもいい。むしろ支配下において、新たな資金源にするのも悪くない。


「なんだってわざわざ炎に炎で挑むんだか……」

「楽勝なんてゲームとして面白くないだろ?」


 魔術だって僕にとってはゲームでしかない。

 ザコいじめが楽しいのは最初だけだ。とにかくプチプチと潰していった。のどかな村をターゲットにした事もあったっけ。

 だけどそんな快感もすぐに慣れる。ついでに村にあったものは資金にさせてもらったけど、大した金にならなかったな。そういえば村を守っている騎士と名乗った奴がいたけど、いつの間にか逃げていたっけ。

 そういうザコを潰したところで、面白くないんだ。要するに飽きた。


「噂じゃ、国一番の魔術師でさえ尻尾を巻いて逃げた。そんな強敵を僕があえて炎の魔術で打ち破る……フフフフッ!」

「オレの魔導具で倒せっかなぁ?」

「グスカス、ルキヤー、キャラン。君達は僕の後ろで見ていろ。このゲームは僕一人で楽しむんだからね」

「そ、そうか。ぜひ楽しんでくれ」


 手を出そうものなら、その場で殺す。

 魔術の中でもっとも強い属性は紛れもなく炎だ。火力さえあればどんな物質すらも消す。たとえ炎の魔物だろうと例外じゃない。

 人生はゲームだ。誰もが人生というゲームをして、攻略できなかった奴らが不平不満を漏らす。

 これほどまでに面白いゲームがあるか。チェックメイトすれば終わりのチェスなんか比較にならない。

 炎の魔人をチェックメイトした後は、また新しいゲームが始まるんだからね。

 いっそ国外に出てもいいかな。どんなゲームが楽しめるか、今から楽しみだ。


「そう、ゲームは楽しまなくちゃね」


 一人、僕は笑う。

 ここにいる三人だって同じだ。人生というゲームに刺激がほしくて、僕についてきた。

 だけど一番面白いゲームだけは譲らない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ザイーネ一行は、盗賊集団ハンターズの首魁になるから、あっさり消し炭とか、ちょんぱコースは無しでしょうかね? 捕らえて国王が大々的に裁かないといかんでしょうからね・・・ [一言] 手も足…
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