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聖女、廃墟で憂う

 王都に帰る途中のルートで、少し寄り道をする事にした。聖騎士団に言わせれば、国が守らなかった人達のところだ。

 この村は何年も前に滅んで、半分以上が草木に覆われている。魔物に滅ぼされたのかと思ったけど、どうも怪しい点があった。


「魔物に襲われたにしては綺麗すぎる……」


 何年も人が住んでいない家々が朽ちて崩れかかっている。魔物による破壊の跡はないけど、家の中だけはしっかり荒らされていた。

 こういう街からも離れている村には常駐している騎士が交代制で滞在している。周辺の魔物を調査した上で、実力に見合った騎士が派遣されるのにも関わらずこの惨状。想定外の魔物が襲ってきたか。それとも、魔物ですらないか。


「魔族? 違う、これは……」


 明らかに人の手による犯行だ。農具すらも残っていないところからして、本当に節操がない。

 村長宅と思われる家も同じだった。死体すらもないなんて。


「はぁ……やりきれないなぁ」


 倒れていた椅子を元に戻すと、かすかに草木が乱れる音が聴こえた。空間掌握で生物の存在は確認したはず。という事は何かがこの廃村に近づいている。


「犯人達かな?」


 犯人達、そう。私はその正体に目星をつけていた。前から気になっていたあの集団。何気に対面した事はなかった。怒りを抑えるのが難しいかもしれない。

 村長宅から出ると、数人の人影が廃村に入ってくるのが見えた。私が危惧していた人達かなと思ったけど、どうも違う。剣を背負った青年風の人の他に、若い女性と子どもがいる。

 青年風の人が私を見つけると、剣を抜いた。


「何者だ!」

「驚かせてすみません。私は旅の治癒師のソアといいます。たまたま立ち寄っただけなのですが、あなた達は?」

「……ハンターズではないのか?」

「違います。この村は魔物に襲われたわけではないようですね」


 警戒心を解いたのか、青年剣士が剣を鞘に収める。女性と子どもは見たところ、親子かな。


「察しがいいな。この村は数年前まで平和だった。こちらの二人はこの村の出身だ」

「という事はやはりこの村は……」

「滅ぼしたのはハンターズだ」

「ハンターズ……」

「今回、村で祈りを捧げたいというのでな。俺は護衛をやっている」


 私と青年剣士が話している間、二人は朽ちた家々を巡って静かに祈っていた。青年剣士は村長宅の壁に手をつけて、憎々しく歯を食いしばる。


「俺はこの村に派遣された騎士だった」

「あなたが……」

「守り切れなかった。そんな俺に騎士を名乗る資格などないが、何もせずにはいられなかった」

「自責の念があって、あの方々を護衛してらっしゃるのですか」

「口にこそ出さないが、俺を恨んでいるだろう」


 二人は会話すらせずに家々を渡り歩いている。当たり前だけど、この村に思い入れがあったに違いない。


「あの二人を除いて村人は殺された。敵の中に魔術師がいて……死体も残らなかった。俺はというと、二人を逃がしただけ……。最後まで戦えなかった。怖かった……」


 深く聞かない。

 この人が正しかったのか。間違っていたのか。それを判断するのは私じゃないし、今でもないから。

 少なくとも私が封印されている間、この人は二人の命を守った。


「腰抜けの元騎士の身の上話なんて聞かせてもしょうがないな。すまない」

「でも、あちらの方々はあなたを頼っています。そこは自信を持って下さい」

「他に頼れる奴なんかいないからさ」

「でもあなたはここにいます」


 そう言いながら治癒魔術をかけてあげると、青年剣士は我が身に起こった変化に驚く。

 あまり食べてないし、眠れていない。こんな体で戦い続けていたら、いつか倒れる。


「治癒師……か。いいものだな。ありがとう」

「あなたはあの方々の騎士なんですね」

「俺が騎士……?」

「まさかたった二人しか守れなかったとは言いませんよね?」

「あ……」


 確かにこの人は村を守り切れなかったのかもしれない。でも、守れたものはあった。

 二人が戻ってきて騎士に頭を下げる。


「わがままを聞いていただいてすみません。ここには思い出も多くて……」

「構わない。もう帰るのか?」

「はい。そちらの方は?」

「旅の治癒師だそうだ」

「旅の……?」


 若い女性が私を見つめる。胸元を見ると、キキリちゃんと同じ聖女信仰の証であるペンダントを身につけていた。


「似てる……」

「え、なんて?」

「いえ、すみません」

「あなた達は今、どちらにお住まいに?」

「クーメリアの街です。近頃は難民の受け入れが困難なようで、私達もいつ追い出されるか……」


 裕福な暮らしをしているわけがない。こんな時に手を差し伸べないで何が聖女だ。


「皆さん、王都に来ませんか? 最近は復興の兆しが見えているので、クーメリアよりはまともなはずです」

「王都ですか? でも……」

「気持ちはわかります。食料も住む場所も私が保障します。どうか信じていただけませんか?」


 怪しい旅の治癒師の戯言としか思われないのかな。こんな時に断られるなら、いっそ正体を明かしてでも――


「わかりました。ぜひお願いします」

「あ……信じて、いただけて……」

「ライザーさんが警戒しない方ですから」

「ライザーさんとは、こちらの?」


 元騎士の青年剣士はライザーという名前みたい。恥ずかしそうに少しだけそっぽを向いている。


「……信じているんですね。素敵です」

「命の恩人ですから。娘もなついてますし……」

「オッホン! あなた達が望むなら同行しましょう!」


 それは頼もしい。自分を責めてばかりいたようだけど、今日まで護衛を続けられた人だ。出来れば騎士として復帰してもらえるといいな。

 そんなライザーさんに、私は耳打ちをした。


「二人に聞こえないようにお願いします。道中、ハンターズの情報を知っていれば教えて下さい」


 驚いたライザーさんが、二人に少しだけ目線を向ける。配慮を察してくれたのかな。

 歩き始めてから、ポツポツと語ってくれた。

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